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剣色の夢  作者: チャカノリ
文化祭実行委員長
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第百六話 「ギターソロ弾くなんて珍しい」

「良くない、ってよりかは、改善したい所がたくさんあるな」


 それが、あたしのスピーチを聞き終え、珍しく考え込んだ先にくれた喜多子の感想だった。喜多子が珍しく悩んだ際、まさかと思い心の中でうっすら準備はしていたが、いざ言われてしまうと衝撃を受けてしまう。


「その、改善したいところっていうと……?」


 傍から見たらタジタジになっているであろう様子で、彼女に聞いてみる。


 ただでさえダメージを受けた心の内が、この後の彼女の言葉でさらに崩落するかもしれない。だが、具体的にちゃんとアドバイスをもらわなければ、自分のために活かせず、ただダメージを受けただけになってしまいそうな気がしたので、ちゃんと向き合うことにしたのだ。


「そうだな~、まずは目線」


「目線?」


 何を言っているのか分からなかったので、思わず聞き返す。


「そ。 さっき、ずっと原稿見てたじゃん。 ちゃんと聞いてくれる人の目を見なきゃ、超イイ言葉も、ゴミになって聞いてもらえないよ」


 いかにも、寅子のバンドでギターボーカルを務める彼女らしい言葉だった。確かに思い返してみると、中学の文化祭での発表の時、演奏中の喜多子は他のどのバンドの人よりも、できるだけ観客の方を見ていたのが印象深い。


「確かに。 でも、やっぱり原稿を読みながらじゃないと、言い間違えないか不安で」


「なら、原稿なんてわざわざ書かないで、どんな内容を喋るかだけ頭に叩き込んでおけばいいじゃん。 そしたら、言い間違えなんてそもそも起きないよ」


「それは、そうだね」


 喜多子の言う通り、結局のところ細かい言葉を多少間違えても、自分が伝えたい内容をしっかり伝えられればそれで良いのかもしれない。聞き手が投票先を決める上で、公約や言っている内容というのが主な判断材料になりえるのだから。


 その上、昼休みに赤山にも相談に乗ってもらった際、彼いわく「自分らしさを大切にすべき」とも言っていたが、原稿を作らずに内容を伝えたときの自分の口調というのも、自分らしさを伝える手段の一つとしても役に立つだろう。


 頭の中で自分を納得させていると、喜多子は話の続きを始める。


「あとは、重要な言葉を言うなら、その前に意味不明だけと、関係する言葉を言うようにするんだな」


 それこそ何を言っているのか意味不明で、よく分からなかった。


「って言っても分かりにくいか……なんて言うか、例えばさっきのつるぎのスピーチで言うなら、いきなり『あたしが立候補したのは、過去に不登校に追いやっちゃった子を笑わせたいから!』って思いっきり叫んで始める……って言うのは良くない例か。 けどイメージはこんな感じ」


 そう言われると、ちょっとイメージできた気がする。さすがに「過去に不登校に追いやっちゃった子を笑わせたいから」なんて言って始めてしまったら、自分への印象が最初から最悪になるので、絶対しないが。


 喜多子は一呼吸入れると、さらに続ける。


「んで、これ一番重要だと思うんだけど、スピーチするときの声の感じも改善しないとな」


「声の感じ?」


「うん。 これはウチの好みとかもちょっと絡んじゃうんだけど、とにかく楽しそうに話すんだよ。 せっかく『楽しい文化祭を作る』ってスピーチで言ってるんだから、その通りにしなきゃ」


 そう言うと、彼女は両手で自分の口角を上げてみせた。


「特に、笑顔が大事だな」


 言われてみれば、あたしの記憶にあるステージ上の喜多子は、いつも全力の笑顔で、エネルギッシュな印象だ。確かに、笑顔を意識するのは良い印象を残す、という意味で大切なのだろう。


 その後も喜多子は次々とあたしへアドバイスをしてくれた。そのどれも、喜多子らしく、喜多子だからこそ説得力のあるものだった。


「……って、もう言いたい改善点はこれで全部だな。 んじゃ今度は、ウチのギター聞いてくれ!」


 そう言うと喜多子は立ち上がり、名も知らぬギターソロで音に魂を込め始めた。音を生むたび、彼女は笑顔を越えたような表情をこちらに見せつけてくる。「顔で弾く」とはこれを言うのだろうか。


 前に話した際、喜多子は「ギターソロ? それも良いけどやっぱ魂!」などと言っていた気がするので、彼女がギターソロを弾くのは珍しい気がした。


 最後のシメの一音を放ち終えると、彼女はこちらを向く。その額にはさっきまで無かったはずの大きな汗の粒が何個もできていた。


「どうよ!」


「いいと思うけど、なんか、喜多子がギターソロ弾くなんて珍しいなぁって」


「やっぱりそう思っちゃう?」


「うん。 もしかしてなんかあったの?」


 喜多子は何かを思い出そうとしたのか、しばらく明後日の方向を見上げると、すぐさまこちらへ視線を戻す。


「うん。 なんか昨日ぐらいに、中学の時一緒だった山吹のギターソロを訳あって聞いたんだけどさ、なんか素直に感動したんだよね」


「え!? 山吹のこと嫌ってたんじゃないの?」


「そうだけど、でも時が経って改めて聞いてみると凄くて、悔しかったなぁ~」


 昨日の感傷に彼女が浸っていると、何かさらに思い出したのか、いきなり声を挙げてこんなことを言った。


「そうそう! 昨日の寅子ヤバかったんだよ! なんか山吹に対して久しぶりにすっごいカリカリしてたし!」


 なんと、一昨日や昨日のイライラした寅子に対して違和感を感じていたのは、どうやらあたしだけではなかったようだ。


 一方、喜多子はこちらが驚いている様子など構わず、さらに喋ってゆく。


「しかも、変な白い翼を背中から生やしたんだよ! なんか山吹の専属ベーシストいわく、白の柄、とかなんとか言ってたけど」


 おそらく山吹の専属ベーシストとは、赤山のこと――どうやら赤山は、あたしが昨日スピーチの原稿を作っていた間、白の柄による何かと戦っていたようだ。


 赤山が必死に戦っていたのにも関わらず、気づかなかった自分が愚かに思えて、悔しかった。

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