第百三話 「青海さんらしさ」
この原稿を読んでいると、この公約を実行しないといけないのは青海さんである、という説得力を作るための「青海さんらしさ」が欠けている気がする。
しかし青海さんらしさを作るために思いつくことといえば、「公約を作るまでに至った青海さん自身の経験を盛り込む」「青海さんだけの要素を原稿にさりげなく織り交ぜる」など、余計な情報を盛り込むことにもつながりそうなことばかりだ。
かといって、余計なことを言ってしまうぐらいならこのまま何も言わない、というのも違う気がする。
青海さんは僕に読んで欲しくて、わざわざ僕の所にまで来てくれたのだ。僕の意見やアドバイス、思ったことを素直に言い出せなかったばかりに、彼女が僕から何も得られずに帰って行ってしまうのは、きっと彼女にとって時間の無駄、とまではいかなくとも、決して良いことではないだろう。
意を決し、純粋に思ったことのうち、まずはいいと思ったところを言葉にする。
「原稿で説明されてる公約が具体的で分かりやすいのは、いい所だと思う」
「そっか、よかった~。 公約と生徒に対する利益の繋がりも、説明できてるかな?」
「うん、それも説得力があっていいと思う」
青海さんは安心したのか、張っていた肩の力を抜く。「けど」という言葉から今度はアドバイスを話そうとしたものの、安堵した彼女の気持ちを一気に下げてしまうと思い、慌てて別の言葉から、僕は話を続ける。
「それと、この公約は青海さんだからこそ実行できる、とか、青海さんだからこそ思いつけたって感じのことも書けたら、もっと良いものになると思う」
「あたしだからこそ……?」
少しこちらに乗り出した彼女は、小首を若干かしげる。
「うん。 文化祭の実行委員に立候補ってことは、スピーチ後に投票とかある感じだよね」
「そうだけど」
「もしも青海さんと似た公約を掲げる人がいたら、どんな違いがあるのか分からなくて、どっちに投票しようか迷うと思う
口の水分が無くなったのが気になり、 僕は水筒の水を少し口に含んだのち、話を続ける。
「けれども、例えば青海さんはこんな人格の人だ、って分かる原稿だったら、人柄で選ばれて投票されるようになると思う」
「なんだか、分からないような…」
「たとえば、なんでこの公約にしたのかっていう理由を話すなら、自分がこの公約が必要だと思うようになった経験を話す、とかどうかな」
僕は、使い慣れないメモアプリ上の原稿のうち、「混雑整備のため、学校までの順路にシフト制で、人流整備をする生徒を配置」と書いてあるところを指差す
「たとえば、ここの部分を思いついたきっかけを書くとか」
その時、青海さんの様子を見ると、肩が少し強張り、思い詰めたような表情になっていた。
「ねえ、それって、なんであたしが委員長に立候補したかも書いたほうがいい?」
「うん。 そういえば確かに、それ書かれて無かったね」
こういう立候補のために必要であろう要素「なぜ立候補したのか」ということが抜けているのを、僕は気づいていなかった。だから「青海さんらしさ」が足りなく感じたのだろう。




