第百二話 「青海さんのためになるのだろうか」
文化祭の実行委員に立候補しようという青海さんが、来週の臨時生徒総会での立候補者スピーチのために作った原稿「誰も一人にしない文化祭」を読んでみる。普段の自分の中では、文章を読むのなら紙の文庫本、といった具合のため、スマホのメモアプリで作られた青海さんの原稿を読むのはあまり慣れなかった
それでも、こんな風に人に頼られたのは内心とても嬉しくて、胸の奥が多幸感でむず痒くなるくらいだった。
青海さんと出会い、赤の柄とも出会い、誰かを守るために力を振り絞る前は、誰も僕に頼ってくれなければ、そもそも話しかけてくれることも無かった。今でもクラスメイトの人には話しかけられないままな上、かつて助けた楊木くんに関して言えば昨日会った際に僕のことを忘れていたが、その分、最近はイエローと関わり合えたり、今はこんな風に青海さんに話しかけてもらえることに、特別な温かさを強く感じる。
「原稿を読んで欲しい」と頼んでくれた彼女に対し、有意義なアドバイスができるよう、僕はなんとか画面を下へスクロールしながら、目を凝らして小説以上に細かい文字を読んでいった。
青海さんの原稿は、文化祭当日にやる予定の公約や、実行委員として企画しようと考えていることが全て具体的に書かれていて、当日どんな文化祭になりそうか素直にイメージできた。また、それらの目的もはっきりしたもので、確かに必要性を感じさせるものだった。
ただ正直なところ、青海さん以外の人でも同じような原稿を書ける気がした。あるいはまるで、この言葉をわざわざ青海さんの口で言う必要がある、と言い切るための説得力がそこに無いかのようだったのだ。最後まで原稿を読み切った後、原稿と目の前の青海さんの顔を見比べてみるが「絶対に彼女がこの原稿を作った」と言うには、何かが欠けている。
何か、青海さんらしいものが抜けている気がする。
もしもこの原稿に青海さんらしさを盛り込むのなら、例えば、公約の目的や理由を説明する際に自分の経験を盛り込む、などだろうか。しかし、そんなことをしてしまうと分量が多くなりすぎる可能性があるので、言い出せそうではなかった。
あるいは、もう既にみんなが知っている、彼女だけにしかないような要素をさりげなく織り交ぜる、というのも青海さんらしさを盛り込む上で役に立つだろう。ただ、僕の中で青海さんらしい要素と言えば、青が凄い好き、ということぐらいだ。それに、これは内輪ノリにもつながりそうな気がする。
彼女のためになりそうな提案自体は色々思いつくのに、どれも、実際に彼女が活かすにはどうもしっくりこないものばかりだった。だから、どれも言い出せなかった。
けれども果たしてそれは、青海さんのためになるのだろうか。




