【08 二回目のお出ましだ】
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・【08 二回目のお出ましだ】
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昼間、走っていたキャンピングカーが止まった。
この感覚、と思いながら、ブレーキを掛けたと同時にウンソが外へ飛び出して、私も追いかけると案の定、ドルド松本が立っていた。
というかコイツ、キャンピングカーを直接攻撃することはしないんだよな、変なところ紳士なんだよな。
ドルド松本は高らかに宣言した。
「MUTEKIトイレという手柄はおれがもらう! MUTEKIトイレと乃子を置いてウンソは忍者の里に帰りな!」
何か、よく覚えていないけども、一字一句同じかもしれない。何それ、覚えてきた感じ? 竹取物語を暗唱しなさいという授業受けてきた?
ウンソは前髪をかきあげながら、
「かきあげうどん」
とニア水龍みたいなことを言った。いや髪をかきあげたからなんだろうけども、だから何なんだよとしか思わない。
ドルド松本はグッと力を込めるように、拳を握りながら、
「早速発露を使うぜ! 俺は宴会で人気者になりたくて、いろんなジュース混ぜて飲んでいた!」
いや!
「ウンソもその発露していた! 思考回路一緒かよ!」
ウンソは苦々しい顔をしながら、
「何なんだよ、その発露は……俺は、宴会でオシッコを漏らしたことがある」
「それはドルド松本の前回の発露だよ! ナニコレ! そういうエール交換っ?」
ドルド松本の唇は黄金色に輝き、ウンソは体全体が光り出した……いや!
「ドルド松本が同じ発露した時は染みが広がった分だけ脚の一部が光っただけだったのに! 何でだ!」
ウンソは流し目でこう言った。
「俺はオシッコを止めるため、手で股間を押さえたら、ホースの口をすぼめた時のようにバッと飛び散って全身にオシッコがいったんだよ」
「最悪過ぎる! というかウンソのほうが恥度がマジで高い!」
ドルド松本はその場で膝から崩れ落ちて、
「コイツ……こんなにすごいのか……今日はもう戦意喪失だ……」
と首をガクンと落としたところで、その首向かってウンソが蹴り上げた!
「いや! 戦意喪失しているんだからいいでしょ!」
ドルド松本は上空に飛ばされて、それをさらにドロップキックの垂直バージョンみたいなキックでドルド松本の鳩尾を蹴りあげて、なんと空高く、見えなくなるまで飛ばしたのだ!
「飛ばし過ぎでしょ!」
と私も唾を飛ばすくらいの勢いで叫ぶと、ウンソが、
「宇宙まで飛ばした。多分月で埋まっていると思う」
「何で飛ばしただけで埋まるんだ! 飛ばせたとして埋まらないでしょ!」
「いや飛ばして埋めた、そういうキックをしたから」
「どうやったんだ! マジで!」
ドルド松本とのバトルはそんな感じで終えて、次の村、風の谷の村を目指した。
道は徐々にオフロードといった感じになっていき、路面がボコボコしているし、土埃も舞っている。
ただキャンピングカーの中は快適で私は普通に運転できているし、ウンソはドアで仕切っている後ろの部屋で英気を養っているみたいだ。
そんな時だった。後ろの部屋からティッシュをシャッシャッシャッと激しくとる音が聞こえてきて、もしや、と思ってしまった。
この後、鼻をかむ音とかしなかったら、男子のソレで確定では、と思っていると、思った通り、鼻をかむ音はせず。
私は怖いもの見たさというか、ウンソの弱みというかそういうところを見たくなり、自動運転機能に切り替えて、ゆっくりゆっくり後ろの部屋のドアまで近付いた。
そう、私は別に下ネタ大丈夫女子だから、ウンソのそういうところはむしろ見たいほうなのだ。全然私も余裕でクソなところがあります。
意を決して後ろの部屋のドアを一気に開けると、なんと! ウンソは! めっちゃ静かに鼻をかんでいたのだ!
「あっ、乃子」
と鼻をつまんでいるような声で言ったウンソ。
「いや、鼻かむならデカい音出しなよ」
「恥ずかしいじゃん、そういうの聞かれるの」
「下ネタ発露のほうが恥ずかしいもんなんだよ」
「あれは俺の標準装備だから」
「鼻かむことも標準装備だけども」
「いや、こういう生理現象は、ヒいちゃう女子もいるだろうに」
「いないわ」
私は呆れながらドアを閉めて、運転席に戻り、またハンドルを握った時だった。
ドピュ! という爆音が鳴り、私は自分の耳を疑った。
えっ? ウンソの鼻かむ音ってこれなの? いやそれとも別のことした? というかこんな大音量で響くものなのっ?
私は何かマジで怖くなって、ウンソの様子を確認しに行くことはできなかった。
デカい一発というのも意味分かんないし。
その日の夜、またウンソの手記を読むことにした。
《乃子はビックリしたと思うぜ、俺のドピュ鼻かみが聞こえて》
ドピュ鼻かみって言うんだ、というかじゃあ鼻をかむ音だったんだ。
《鼻かみって興奮しちゃってさ》
ん? 鼻かみに性的興奮するほうで、そのドピュはあっちということ?
《早く鼻かみたくてティッシュをとる時も荒っぽくなっちゃって》
でも自分の鼻かみで、自分で興奮するって、さすがに変態過ぎないか?
《一発デカいの出してしまった》
いやいや鼻かみの話か? ただの鼻かみの話か?
《粘り気のある白いヤツが大量に出た》
いや鼻水の可能性も普通にある。
《穴から糸引いてしまったよ》
股間のこと、穴とは呼ばないし、やっぱり鼻の穴のことかな。
《綺麗に拭いておいた》
でも鼻かみ終わりのティッシュ拭きを綺麗にするとか言うかな?
《使ったあとのティッシュって時間が経つと、カピカピになるよね》
……いや! 何でどっちの可能性も残すような書き方しているんだよ!
考察班が捗りますなぁ、じゃぁないんだよ! 全然もう正直どっちでもいいよ!
ハッキリ書けよ! どっちか! ”鼻かみって興奮しちゃってさ”じゃぁないんだよ! ここギリギリだよ! 噛み合ってるか噛み合っていないか微妙だよ!
《今日の夕ご飯、美味しかったぜ》
別の話題にいっちゃった!
《乃子のしょうが焼き、本当に最高だぜ》
それはありがとうだけども! それはありがとうなんだけども!
《カマボコのしょうが焼きとかも美味いかも》
空想でレシピすな! いやいいけども! んで多分美味しいよ! カマボコってカマボコ自体が最高に美味しいし!
《終わりだぜ》
カマボコのしょうが焼きってどうかな? って、一石投じて終わった!
カスの問題提起で終わった! カマボコ政治家によるカス問題提起だ!