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【05 次の街】

・【05 次の街】


 キャンピングカーで移動中のことだった。急に動かなくなったような気がした。いくらアクセルを踏んでもだ。脱輪? いやそういうことは無いように大きなタイヤを使っているし、そもそも何かあれば軽いプログラミング忍術が発動して、すぐに復帰できるはずなのに……もしや!

「敵襲っ?」

 と思って、私がキャンピングカーを止めたところで、即座にウンソが外に出たので、私も急いで外に出ると、なんとそこには同じ忍者の里の人間である、ドルド松本がキャンピングカーを持ち上げていたのだ。なんてバカチカラだ。

「やめろ! ドルド! 邪魔するな!」

 とウンソが叫ぶと、ドルド松本はキャンピングカーを優しくそっと置いてから、

「MUTEKIトイレという手柄はおれがもらう! MUTEKIトイレと乃子を置いてウンソは忍者の里に帰りな!」

 これは……別にウンソの余命半年を心配しているとかじゃなくて、本当に手柄泥棒をしたいだけに違いない。

 ドルド松本は事あるごとにウンソや私に突っかかってきて、足を引っ張ってくる最低野郎なのだ。そもそもウンソの余命半年のことも知らないだろうし。

 ウンソはドルド松本と対峙した。すぐに発露を使うのかなと思って、傍で見ていると、ウンソが自信満々にこう言った。

「オマエごときに発露なんて使わない」

 ドルド松本はヤンキーのように”あぁん?”という表情になってから、

「じゃあおれは格下なんで使わせてもらいますわ! おれはな! 宴会の席でオシッコ漏らしたことがある!」

 するとドルド松本の脚が、まるでオシッコを漏らした筋のように光り出して、今まさに漏らしているの? って感じだった。

 ウンソは鼻で笑ってから、こう言った。

「しょうもない発露だな、俺は昔モテたくて、コッペパンを中だけほじくって食べていた」

 するとウンソの右手の指が光り出して、いやっ、

「ウンソも発露、使ってるじゃん」

 ウンソは溜息をつきながら、

「俺に発露を使わせるなんて、結構なもんだな」

「いや全然ドルド松本は何もしていなかったよ、急にビビってウンソが発露しただけだよ、んでウンソの発露もしょうもなっ」

「でも気付いたんだ……」

 ウンソはドルド松本のことを指差しながら声を荒らげた。

「あんま変な食べ方するヤツはキモがられるだけでモテない! 友達ができない!」

「んでもってウンソのモテるモテないって、友達ができないって意味なんだ」

「男子女子共々だけどなっ」

 とイキリながら前髪をかきあげたウンソ。いや全然カッコ悪いけども。

 さて、二人とも発露を使ったところで一体どうするかと思っていると、ドルド松本がウンソへ向かって、スライディングをしながら「蟹バサミ!」と言ったんだけども、それはウンソがジャンプでかわしたと思ったら、そのジャンプはバックステップのジャンプで、着地した地点でドルド松本に蟹バサミを喰らった。

「いや! ジャンプの方向、気にしろよ!」

 ドルド松本はニヤリと笑いながら、

「このまま転ばせて、イエローカードを受ける!」

 私は即座に、

「審判なんていないでしょ! 何でサッカーで自分が不利になる行為を!」

 と言ったわけだけども、ウンソは全く喰らっている様子は無く、こう言った。

「近くなりたかっただけだ」

 光り輝いている人差し指だけを立たせると、屈んでドルド松本のケツの穴にその人差し指を入れたのだ! 私は喉爆発するくらいの勢いで「ケツの穴、さすがに好き過ぎるでしょ!」とツッコんでしまったわけだが、それ以上にツッコまれているのはドルド松本のケツの穴。

「うわぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 と叫んでいるドルド松本を人差し指だけで持ち上げたウンソ。

 ウンソは腕を上下に激しく動かして、どんどんドルド松本のケツの穴に指を深めていき、ついには手が全部入った、否、腕の肘までドルド松本のケツの穴に入った。

「発露で光ったのは指だけでしょ! 何か! 多分良くないよ! 衛生上!」

 ウンソは物悲しそうに微笑んで、じゃあするなよとしか思わなかった。

 ウンソはドルド松本が先端についたロックマンのような状態になると、そのドルド松本を角度的に地面のほうに向けて、ウンソが「発射!」と叫ぶと、腕についたドルド松本が発射されて、地面を抉りながら進んでいき、目の前にあるのはドルド松本がいると思われる大穴だけになった。

 ウンソは光っている指のほうで髪をかきあげて、

「埋めたぁ~」

 と言ったわけだけども、埋めたというかドリル発射したというか、いやでも、

「ケツの穴に入れていたほうの指で髪をかきあげるの、良くなくない?」

 と言ってみると、ウンソはまた切ない表情で微笑んだ。やっぱり間違っていたのかよ。

 ウンソは近くの小川で手を洗ってから、またキャンピングカーに乗って、進みだした。

 ウンソが手を洗った小川は下流へ行くほどに徐々に大きくなり、次の街はその小川が大きな川になった傍で形成された、リバーサイドシティだった。

 水資源は豊富そうで、湖や池も遠くに見えるような土地だった。木々も生い茂っているけども、やっぱりトイレが無いみたいで、川が汚いようだ。

 上流の、手を洗った小川はまだ綺麗だったのに。キャンピングカーからおりて、深呼吸をする。川が汚いと空気も淀んでいる感じで、呼吸しても気分が悪いといった感じだ。

 その街の門をとりあえず歩いて通過しようとすると、一人の剣を持った男性に止められた。

「おい、ここはオーガニック・ゴッド様の支配下だ。いかにも何かしそうなアホには退場して頂こうか」

 ウンソは後ろにいる私のほうを見た。古典的過ぎる。この期に及んでこんな古典的なことするかよ。今までどんな下ネタでもウンソは仕方無いと思っていたけども、これは正直幻滅しかけた。本当ギリギリ好きさがまだ上回っているけども。

 髪の毛の色が水色の剣士は、

「オマエだよ、まあ後ろもかもしれんけども、オマエだよ、オマエ」

 するとウンソは天を指差してから、こう言った。

「雲のこと?」

 それはシュール過ぎるでしょ、存在が遠過ぎるし、シュールというか雑なだけかもしれない。とはいえ、幻滅はしない。それくらいウンソの範囲だから。

 目が鋭いイケメン剣士は舌打ちをしてから、

「言って分かるようなヤツじゃないみたいだな」

 と言いながら、剣を鞘から取り出して、鞘は投げ捨てた、瞬間だった。

「さやえんどう」

 と呟いたウンソ。場が凍った。鞘の連想が浅過ぎる。

 剣士は「黙れ」と言いながら剣を振りかぶったんだけども、まだまだ距離があるよなと思ったら、なんと剣の刀身がいつの間にかあまりにも大きくなっていて、ウンソまで届きそうだったけども、それは「おっと」と言いながらかわした。

 よく見ると、剣士の刀身が伸びたのではなくて、鋭く薄い氷が剣を纏うように出現したみたいだ。つまり氷の剣士ということか。

「逃げるなよ」

 と言いながら自分の近くに小さな氷の鉄球をたくさん出現させた氷の剣士は、その氷の鉄球をウンソめがけて飛ばしてきた。何の動作も無く、自動で飛んでいるようだった。

 ウンソはひらりと移動しながら「ジュースは用意してないぜ」と言ったんだけども、なんとその氷の鉄球は緩く追尾機能があったみたいで、ウンソの腰に一個ヒットした。

 するとまた周りの時の進みが遅くなるような感覚がして、どうやらウンソが発露を使うらしい。

「親戚の集まりで、みんなの注目を集めたくて……いろんなジュース混ぜて飲んでいた!」

 ダサ過ぎるエピソード、そんなことしか持ち込める要素が無かったんだ、ウンソって。

 子供の頃から忍術の天才だったウンソだけども、確かにウンソってそればかりでパーソナルなところ、あんま何も無かったよなぁ、と少しだけ懐かしんだ。

 ウンソの唇が黄金に光り出した。今度は唇に関する技を使うのだろうか。

 氷の剣士は一呼吸ついてから、喋り出した。

「そっちが発露を使うなら、こっちも使わなきゃ失礼だな。俺は氷が一番カッコイイと思って……今もそう!」

 氷の剣士の氷の剣が銀色に光り出した。色の違いってどういう意味があったっけ、と思っていると、ウンソが目を見開きながら、叫んだ。

「銀色だと! 光れば何色でもいいのにあえて銀色を選択するとは!」

 氷の剣士は見下すような挑発的な瞳で、

「ああ、カッコつけているんだよ……!」

「ダセェ!」

 つい私はデカい声をあげてしまった。まあ発露中は外野も思っていることを大きな声で言ってしまうからね。

 氷の剣士は私のことは一切気にせず、ウンソへ向かって剣を振り下ろした。今回はウンソに近付いている。

 ウンソは斜め後ろへのバックステップでかわそうとすると、地面に転がっていて既にかわしきったと思っていた氷の鉄球が後ろからまたウンソに向かって飛び出して、ウンソの背中に当たる……いや!

「うんめぇ」

 ウンソは首だけ後ろを向くと、その氷の鉄球は吸い込まれるようにウンソの口の中へ入っていた。否、本当に吸い込んでいたんだ。

 氷の剣士は剣を振り下ろしつつも「氷の鉄球を食べた? いや口内は痛いだろ!」と言ったんだけども、当のウンソはその剣撃もかわして余裕そうに、

「めっちゃ痛い、辛いのかもしれない」

「いや! 痛いんだよ! 辛みは痛みって言うけども、普通に痛かったんだよ!」

 と私はデカい声が出てしまった。

 氷の剣士は鼻で笑ってから「こんなアホなヤツ」と言いながら、また剣を振り降ろす、というかコンビネーションのようにどんどん斬りかかる。

 それを受けているような感じのウンソ。斬れていないのか? 大丈夫なのか?

 すると氷の剣士が一旦離れてこう言った。

「なんてヤツだ、全部唇で受け止めやがって」

 ウンソは投げキッスをしながら「愛が足りないな、愛が」と言った。愛とかでは無いでしょ。

 今さっきウンソが投げたキッスはハートマークが具現化されていて、ゆっくり氷の剣士に近付いていっているようだった。氷の剣士もそれに気付いて、そのハートマークを斬ったその時だった。

「ぐはぁぁぁああああああああああああああああ!」

 急に苦しみだした氷の剣士にウンソは笑いながら、

「残念、それはオマエの体力でしたぁ~」

 ……いや!

「どういうシステムっ?」

 すると氷の剣士は膝から崩れ落ちながらも、気を振り絞って声を荒らげた。

「俺は、本当は、カッコなんてどうでも良かった……本当は友達がほしかった……誰かに頼ってほしかった……オーガニック・ゴッドは俺を頼ってくれた……分かってる、捨て駒だって……でも俺のことを使ってくれるようなヤツはオーガニック・ゴッドしかいなかった! 俺はクールじゃない! ただの陰キャだ! でもなまじイケメンでみんなから孤高と言われて! そんなんじゃねぇ! 本当の俺はそんなんじゃねぇ!」

 全身が銀色に光り出した氷の剣士はバーサーカーのように、ヨダレをだらだら流しながら、一気にウンソへ斬りかかった。

 乱舞とは言えないほど雑な太刀筋だと思う。でも気迫は本物で、ウンソもじりじり後ろに下がりながらも、なんとかしのいでいるようだった。

「刺す!」

 と言って刺突を繰り出した氷の剣士の剣はウンソの口の中に入っていて、あっ……あっ……そのままその剣を全部丸呑みした……。

 驚愕といった面持ちで固まってしまう氷の剣士に、ウンソはこう言った。

「こういうマジック、あるよな」

「いやウンソ、完全に飲んでいるけども」

「完全に飲むほうのマジシャンいるよな、大道芸寄りの」

「い、いるけども、ウンソは大丈夫なの?」

 私がおそるおそるウンソにそう聞くと、ウンソは頷いた。頷いた時に中からボキボキという鈍い音がした。えっ? 剣? それともウンソの骨?

 ちょっとした間ののち、ウンソの前面の股間から剣がズルリと出てきて、その場合はケツの穴でしょ、と妙に冷静に思ってしまった。

 ウンソは咀嚼するように頷きながら、

「オマエの感情、食べさせてもらって分かったよ。ならさぁ、俺が頼るよ。この街を守ってくれよ、MUTEKIトイレを設置するからさ、敵から守ってくれ」

 氷の剣士はその場にまた膝から崩れ落ちたので、ひざかっくん癖があるな、と妙に冷静に思ってしまった。

 ウンソは続ける。

「俺は余命半年だから、この街を守ることはできない。だから俺の代わりにこの街を守ってほしい」

 氷の剣士は震えながら、顔をあげて、

「待てよ、余命半年って……じゃあ俺に構ってくれるのは半年も無いということじゃないか、友達になったってすぐオマエはいなくなる!」

 ウンソは少し困惑した表情になったので、私が言うしかないと思った。

「私も友達です! MUTEKIトイレの旅は私もしているんだから、MUTEKIトイレを守ってくれる人は全員私の友達でもあります!」

 氷の剣士はこちらを向き、優しく微笑みながら、

「有難う……俺にも友達が二人も……」

 と言ったところで、どこからともなく、高圧の水が発射される音がしたので、私は避けて、ウンソも氷の剣士を抱きかかえて、かわした。

 案の定、高圧の水がこっちへ向かって飛んできていたみたいで、私たちがいた場所は軽く地面が削られていた。

 その発射されてきたほうを見ると、なんとそこには、水龍と呼べるような、水がそのまま龍の形になっているような四メートルの存在がいた。

 ドラゴンというより龍って感じで、和風とか中華とかの龍で、蛇のようにニョロっとしていた。

 氷の剣士はその水龍を見ながら「水龍!」と声を荒らげて、合ってたと思った。

 水龍は溜息をついてから、

「オマエはやっぱりその程度だ。こっからは俺が闘う」

 と言ったので、私はつい叫んでしまった。

「最初からハード過ぎるでしょ!」


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