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【03 最初の村】

・【03 最初の村】


 手始めに忍者の里から一番近い最初の村とも言える、カメダ村の周辺に着いた、ん、だけども、もうすぐに分かった。

 オーガニック・ゴッドの支配下にしっかり置かれていて、その門番が巨人ということが。

「いきなりデケェ!」

 つい目を飛び出す勢いでそう叫んでしまった。

 まだバナナボード内にいたので、声は聞こえていないだろうけども、あれはもう相当デカい。

 四階建てのビルくらいのデカさがある。村の建物は全部一戸建ての平屋といった感じなので、あのデカさは異質だ。

 私とウンソはバナナボート型のキャンピングカーから降りて、まずそのバナナボート型のキャンピングカーをウンソの忍術で小さくして、私の胸ポケットの中に入れた。

 カメダ村の周辺は本当に農村といった感じで、牧歌的な雰囲気があり、今、私とウンソは森の中で準備をしている。

 ウンソは私に向かって、

「バトルは俺が専門だ、乃子は高校サッカーの大学一年生マネージャーのように見守っていてくれ」

「何で特殊パターンのマネージャーを引き出したんだよ、あったけども、実際あったらしいけども、あったという事実自体、二十一世紀マニアであるウンソといつも会話してなきゃ分かんないからね!」

「うん、乃子は俺と一緒にいつもいるから分かると思って」

 と平然と言ったウンソ。

 何それ、一緒にいつもいるにエモさを感じているのって私だけ? 私ばっか心臓が高鳴ってズルい。

 果たしてウンソはどう巨人に立ち向かうか、まあ堂々と戦うしかないんだろうなぁ。

 この世界には”発露”という現象、というかまあ戦い方がある。

 相手に自分の心の恥部を発露することにより、能力が覚醒して、強くなれるという方法だ。

 発露中は周りの空気というか空間がスローモーションになって、発露中に反撃を喰らうことも無い。

 特にウンソには、常人の何百倍の心の恥部があるらしく、ウンソの発露は無限大という本人談だ。

 でも実際ウンソの発露なんて聞いたことない。何故ならウンソはそんなものが無くても忍者の里で一番の才能の持ち主だからだ。

 とは言え、あれほどの巨人が相手だと、ヤバくなったら発露をしないといけないんだろうなぁ。

「よしっ、早速バトルを挑むから、乃子、見ていてくれ」

 ちなみに発露は周りに自分のことを知る人がいればいるほど強くなるので、ウンソがしきりに私に見ていてほしいと言うことはそういうことなんだろう。

 ……というか、発露はもっと言えば大切な人がいるほど強くなるみたいな噂もあるけども、ウンソは私のことを大切な人としてみなしてくれているのだろうか。

 それが恋愛的な意味だったら、嬉しいなぁ、とは思っている……まあ、あんまそんな感じは全然しないけども。

 森の大木からバッと姿を出して、カメダ村の門の前に立っている巨人に対して、ウンソは怒鳴り声をあげた。

「おい! 巨人! 俺は忍者の里のウンソだ! オーガニック・ゴッドの手下だろうが、関係無い! 俺はこの土地にMUTEKIトイレを設置する! MUTEKIなトイレだ! もう壊されることは無いトイレだぞ!」

 ハッキリと正面から堂々と名乗った。

 完全に発露をする気だ。やっぱりヤバくなったら、とかじゃなくて、最初からフルスロットルで戦うらしい。

 でも確かにそれが一番正攻法だ。変に出し惜しみしているうちに、停止系の技を使われたらダメだもんなぁ。

 ウンソのバトルセンスは本物だ。一気にやり切る、それが大事。

 巨人はウンソを見下ろし、もはや見下しながら、

「こんな小さなヤツなんておいらの相手じゃないな」

 と言って、一人称・おいらなんだ、とは思った。

 ウンソはそんなことは気にせず、発露を発動させた。

 一気に周りの空間が若干歪んでいるようになり、ウンソの声が、まるでリバーブが掛かっているようになった。

 巨人は叫んだ。

「いきなり発露か!」

「あぁ! そうだとも! 一気に畳みかけるぜ! 畳、美味しいし!」

 ウンソって畳食べたことあるんだ、ちょっとだけヒいちゃった……これがもしかすると発露の内容か?

「MUTEKIレーベル最高! 高橋しょう子が一番好きだぁぁああああああああああああ!」

 多分俳優の名前を言ったし、畳食べたことは全然発露じゃなかった。もはや発露であれよ。

 巨人が驚きながら、

「畳美味しいが発露じゃないのか! でもMUTEKIってなんだよ!」

 とツッコんで、的確な巨人だなぁ、とは思った。

 いや待て、発露って意味を理解されていないと、効果が半減するって話では! ということは!

 ウンソは私も理解していないと思って、しっかり言うのでは!

 ウンソが少し恥ずかしそうに口を開いた。

「アダルトビデオの女優ということだよ! 言わせるなよ! 二十一世紀最高の女優だよ!」

 その瞬間、ウンソがピッカピカに光った。

 発露が完全に決まったらしい。

 さすがに自分でアダルトビデオの女優と説明することは恥ずかしかったらしい。

 ウンソにもちゃんとした感性があって、そこは良かった。

 光り終えたウンソは……否、ウンソの一部分が光りっぱなしだ……って! と私が心の中で思う前に、巨人が叫んだ。

「チンコ、光ってるぅぅうううううううううううううううううううううううううう!」

 いやでも! 何かデカいというか長い! 自分の首あたりまで棒状に反り立つように光っている! ズボンはちゃんと履いているのに! どういう状況?

 ウンソは光っている棒を両手で掴んでこう言った。

「ウンソ一刀流! いざ参らん!」

 いや!

「一刀流はそのまま利き手で刀であれよ! 一刀目からヤンチャじゃぁないんだよ!」

 ウンソは巨人の頭上より高く跳び上がり、そのまま、光っている棒で脳天を一閃!

 勿論斬れることはないけども、鈍器で殴ったような鈍い音が村中に響き渡った。

 その巨人はアゴが外れそうなほどの大口を開けて叫んだ。

「くせぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

「痛いじゃなくてぇっ?」

 とつい私は声をあげてしまった。あんなに光っているくせに不衛生なのっ? と思っていると、その巨人が喋り出した。

「クサいと言っても、皮脂の匂いとか、汚いからクサいとかじゃなくて、純然たるチンコの匂いが濃い! 言うなれば、泥の匂いがするトリュフではなくて、本当にトリュフ本来の風格が濃いといった感じだ!」

 いやチンコの香りソムリエってなんだよ。

 でも確か聞いたことがある。いやチンコの香りソムリエの一件ではなくて、発露の前では発露を使っていない人間すら、ついいろんな言葉を発露してしまうって。

 そう言えば私だってそうだ。本当は隠れて見ていないといけないはずなのに、こうやってハッキリとツッコミを声に出してしまっている。

 つまり発露の前では何でも発露してしまうというわけだ。恐るべき、発露、と思ったところで、ウンソの動きが鈍く、否、私の動きも遅くなってしまっているような気がした。

 巨人の何らかの攻撃かと思ったその時だった。巨人が声を張り上げた。

「おいらも発露を使う! おいらはな! 巨人である自分が本当に嫌なんだ! 巨人ということだけで周りの人間はおいらを迫害して! だから自分の害をなす人間を全員殺す! そうすればおいらに文句を言うヤツがいなくなり! 快適に暮らせるんだ! だからおいらのことを邪魔するオマエを殺す!」

 巨人の拳はピカピカに光ったところで、またウンソの動きは元に戻った。発露完了というわけか。

 巨人は地面にいるウンソを蹴りで牽制するが、多分本丸というか一番威力が強いところはピカピカに光っている拳だと思う。だからウンソはこのまま足を攻撃していけばいいなと思っていると、ウンソはなんとジャンプして頭部をチンコで攻撃しようと試みたのだ!

 案の定、巨人は拳で撃墜しようと腕を振り下ろすと、ウンソは空中で体勢を変えて、チンコで受け止めた。いや!

「チンコで受け止めたら負けるでしょ!」

 バチィンと激しい音が鳴り、ウンソは地面に叩きつけられた、と思ったら、何故か地面にチンコが刺さっていて、ウンソがこう言った。

「チンコ冷やさなアカンぜよ」

「それより地面に刺しにいった衝撃のほうが強くないっ?」

 地面にチンコを刺しているウンソに蹴りを喰らわせた巨人だったが、ウンソは吹き飛ばず、そのままチンコを、パチンコを引っ張っている状態のようにしならせて、その反動で高速で高く飛び、巨人のアゴをチンコで叩いた。

「ぐはぁぁあああ!」

 と鈍い声を叫ぶ巨人にウンソは叫ぶ。

「チンコは顔を叩いてこそだ!」

「そんなわけないでしょ!」

 と私もデカいツッコミが出てしまう。これも発露の空間にいるからだと思う。

 巨人はふらつきながらも後退して、距離を取ろうとするわけだが、ウンソは忍者仕込みの空中ジャンプで、巨人のアゴをチンコで叩きまくる。

 巨人はたまらず、

「くせぇぇえええ!」

 と叫びながら尻もちをついたところで、ウンソも地面に降り立ち、声を荒らげた。

「チンコって叩くだけじゃないんだよ、そう! チンコの本分はフェンシングスタイルだ! 突く!」

 私は喉が飛びそうなほどに大きな声が出る。

「まあ確かに実際そうだろうけども! チンコが本当に突き始めたら最悪のバトルだ!」

 ウンソはどこからともなく、フェンシングの仮面を取り出したと思ったら、それを投げ捨てて、

「邪魔、チンコで突く時、かぶらないだろ」

 と吐き捨てるように言ったので、つい私は、

「ウンソがフェンシングって言い出したんだよ!」

 とツッコんでしまった。

 巨人はまだダウンしているといった感じで、立ち上がることができない。

 その隙をついて、ウンソが巨人へ向かってダッシュしていき、こう叫んだ。

「見せてもらうぞ! 穴ファクトチェック!」

 ウンソのチンコ! 巨人のケツの穴めがけて突いたぁぁあああああああああああ!

 巨人が声にもならないような声を叫び、ばたばたと全身駄々っ子のようにのたうち回る。

 チンコを抜いたウンソはジャンプして巨人の腹の上に立ち、

「やっぱりそうだ……オマエのケツの穴をファクトチェックした結果、オマエはそんなケツの穴が小さいヤツじゃない! もっと人間を許せる巨人だ!」

 巨人は急にピタッと止まり、首を起こして、腹の上に乗っているウンソのことを見ている。

 ウンソは続ける。

「人間を殺すと損だぞ! 嫌な気持ちになるから! で! 優しい仲間を増やすと得だ! 生きていくことが楽になるからな! そう! 俺と乃子の関係のように!」

 そう言って私を指差したウンソ。いや私を隠しているんじゃないの? いやもう私も声を出しているから隠れられていないんだろうけどもさ。

 巨人はぐぬぬぬっといった感じの表情で、

「だからっておいらにはそんな人間はいない」

「じゃあ俺がなる! 俺はこの世の全員と仲間になりたいんだ! 巨人よ! 俺はこの村にMUTEKIトイレを設置する! だからそのMUTEKIトイレを村ごと守ってほしい!」

「オマエが、おいらの、仲間に……?」

「そうだ! とは言え、俺は余命半年だからな……三ヵ月後には全て解決して忍者の里に戻ってくる! 忍者の里とこの村は近いからな! いつでも会えるぞ!」

 ゆっくりと上体を起こした巨人と、その流れ上、巨人の鼠径部に立つことになったウンソ。

 巨人はボロボロと涙を流しながら、

「おいらの、仲間に、なってくれる、のか……」

「なるよ! というかMUTEKIトイレを守ってくれるなら、きっとここの村人だって仲間になってくれるさ! 最初はなんというか、巨人がしでかした心証があるから、上手くいかないかもしれないけども、人間は誠意を見せれば誠意を見せてくれる生物なんだよ! いつかできる! いつかもっと仲間ができる! 間違いない! だから!」

 とウンソが一呼吸を置いてから、デカい声を出した。

「巨人! オマエの名前を教えてほしい! 俺はウンソ! オマエは何だ!」

「おいらは、妻夫木哲つまぶき・さといだ……有難う、ウンソ……」

 こんなことも聞いたことがある。発露中は感情がぶつけやすくなり、本心が届きやすいって。

 だからこれは紛れもなくウンソの本心で。だから巨人、否、妻夫木哲さんに響きやすくなっているんだと。

「妻夫木哲、良い名前だ。俺のちょうど九倍良い名前だ、俺の名前はウンコに似すぎている、ウンコの元素みたいな名前だ」

 すると巨人は顔を横に振り、

「そんなことない、ウンソの名前も素晴らしい。うんと力強く同調してくれているみたいだ」

「哲……」

「ウンソ……」

 妻夫木哲は優しくウンソを手のひらに乗せた。その手のひらはまだ金色に光っていたけども、決して攻撃的なドキツイ感じじゃなくて、心温まる優しい金色に見えた。


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