【02 テシュキ1.ウンソの手記】
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・【02 テシュキ1.ウンソの手記】
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まだまだ最初の町までは遠いので、私とウンソは二人きりでキャンピングカーのキャンピングたる部分で寝泊まりする。
当然のように、ウンソは私へ手を出さないのが腹立たしい。別に全然襲ってきてもいいのに。
ちゃんと「I’M OK.」と性的同意をかましてやろうと思っているのに。
最初ウンソは手記のことを冗談だと思っていて、全然書いてくれなかったんだけども、どうやら本当らしいと分かったみたいで、空いた時間で手記を書いてくれたらしい。
私はそれを夜に読む。ウンソはもう二段ベッドの上で寝ている。
《テシュキ、始まりだぜ》
頑なにテシュキでいくらしい、手記なのに。
というかウンソってテシュキとか言って、下ネタこくくせに、オナニーみたいなことは現実では全然していない。言って発散しているのかもしれない。
ならまあ適当に受け止めてやるしかないな、とは思っている。私も別に嫌いじゃないし。
《MUTEKIトイレ、設置していくぜ》
別にウンソは全然”ぜ”口調じゃないのに、文章だと”ぜ”口調になるんだ。変な発見。いや文章だと丁寧語になれよ。小学生とかはそう。
いやまあウンソは小学生じゃないけども、下ネタの好きさ具合は小学生なんだよなぁ。
というか無敵トイレの表記、MUTEKIトイレなんだ。何でアルファベットなんだろう?
《ドラえもんのファミコンゲーム、ギガゾンビの逆襲に出てくる、無敵砲台という秘密道具をイメージにしているぜ》
ファミコン……? ウンソが好きな二十一世紀のヤツかな? たまにウンソの語彙で分からないモノが出てきたら、大体二十一世紀のモノだ。
ちなみにドラえもんは分かった。二十三世紀の現代人である私でも必須科目くらい知られた漫画だから。
そもそも私たち忍者は大体ドラえもんの秘密道具に憧れている。こんな忍術を作りたいという思いで研究をしている。
そっかそっか、そのギガゾンビの逆襲というゲームに出てくる、無敵砲台という秘密道具をイメージしているのか。
でも無敵砲台なんて秘密道具、ドラえもんの漫画に出てきたっけ?
《ちなみに無敵砲台はゲームオリジナルの秘密道具だぜ》
そんなんアリなんだ。昔のゲームって。今はライセンスが厳しくて、原作準拠じゃないとゲームもアニメも映画も配信できないけども。東日本はオーガニック・ゴッドにより壊滅状態だが、西日本にはそういう普通の娯楽会社がある。
いやそんなことより、それなら無敵トイレという表記じゃない? 何でMUTEKIなんだろう、後に出てくるのかな、この手記の。
《俺のトイレはMUTEKIだぜ》
う~ん、この表記になってしまった。また二十一世紀に秘密があるのかな?
《俺とトイレの二人はMUTEKIだぜ》
何故にトイレと相棒感覚? というか私も混ぜてよ、トイレと相棒すな。
《ちなみに勿論MUTEKIという表記にも拘りがあるぜ》
おっ、その話題になったぞ、こういうかゆいところに手が届く感じがウンソだなぁ、って思う。
だからこそ完全無欠なトイレが完成したわけだし。ウンソはこういう完璧なところがある。
《二十一世紀の男子にとって、MUTEKIとは最高のレーベルだったという話なんだぜ》
レーベル……? 音楽とかそういうことかな? アイドル歌手の音楽プロダクションみたいなこと?
《MUTEKIデビューする女子はみんな可愛かったんだぜ》
やっぱりアイドルなんだ、ウンソってアイドル好きだったんだ、ちょっと意外かも。
むしろウンソってもっと奥深い、エロスの世界にしか興味無いと思っていた。
《MUTEKIの子は完全にヌケるぜ! これはガチだぜ!》
いいぃぃぃぃいいいいいいいいいいや! やっぱりエロスのほう! というか多分ビデオのほうだ!
というかエロスの言葉をトイレとくっつけるなよ! 変な連鎖が起きちゃうじゃん!
というか女子に見せる手記にそんなこと書くなよ! 私が読むことを、読者を意識した文章を書けよ!
それを知って『MUTEKI、最高じゃん』って私ならないよ! 全然なりそうにないよ! なりえないよ!
私、別にウンソの下ネタ限定の友達じゃないから! 無いよ! 下ネタフレンドなんて! シモフレなんてないよ!
それとも二十一世紀にシモフレ流行ったのかよ! だとしたらもうしょうがないけどもさ!
《MUTEKIは全男子の憧れだぜ! 憧れならそう名付けるしかないぜ!》
全然そんなことないよ! トイレと繋げる言葉じゃないでしょ! 絶対!
無敵砲台の無敵でいいじゃん! 何でMUTEKI砲台にしちゃったんだよ! 砲にも何か意味が出ちゃうよ!
いやさすがに出ないか! ここはちょっとやり過ぎな私だったか! いやでもさぁ!
《MUTEKIで特に好きなビデオ、二人はMUTEKI》
じゃあ私混ぜなくて良かったわ! 安心したわ! さすがにその感覚は持っているウンソに安堵だわ!
そうだよね! ビデオに私を混ぜたらいよいよだもんね! そうそう! それは本当にそう!
でも今回、初めて公開になった”ビデオ”という単語により、完全に確定になったね! ビデオ確定になったね!
まだ1%くらいはアイドルプロダクションの可能性あったけども、完全に無くなったね!
《まさかS―1の子とコラボするとは思わなかったぜ》
あぁもう知らん知らん! 知らんレーベルの話をすな! その話もういいでしょ!
ビデオのレーベル羅列してみました、じゃぁないんだよ! オンリー男子のユーチューブチャンネルは止めて!
《二十一世紀のビデオ、激熱だぜ》
えぇもう? 当時からの人っ? 当時から生きてきた人?
何なんだよ、もう本当に。ちゃんと手記しろ。女子が読むことを前提にした手記をしろ。
《最初からやりたい放題に書いちまったぜ》
”ちまったぜ”までいくほうなんだ……”ぜ”口調だけならまだしも”ちまったぜ”までいくとは思わなんだ。
中原中也じゃん。せめて二十一世紀で統一しろよ。やりたい放題過ぎるんだよ。
一回目の手記はここで終わっていた。
ちなみにあとで『ドラえもん ギガゾンビの逆襲』で調べたら、二十世紀の作品だった。