6.
4月に入ると風が少し強くなり、桜が乱れる。
入学式には、ある意味いい景色だろう。
写真映えするし、“春らしい”ってやつだ。
でも、花びらが舞って目に入るのは、あまりありがたくない。
校門の前は、人でごった返していた。
新しい制服、カメラを構えた親、無駄に元気な声。
自分はその間を縫うように通り抜けるだけだった。
自転車を駐輪場に止め、カギをかける。
そのまま校舎のほうへ歩き出したとき、後ろから声が聞こえた。
「おーい、りつー!」
振り返ろうとした瞬間、背中にずしっと重みがのしかかる。
「……重い。お前、何キロあるんだよ……」
「ひどっ!冬にちょっと成長しただけやし!」
「ちょっとじゃねえだろ。背負った瞬間に腰やられるかと思ったわ」
腕を首に回してきた手をどけながら、律が睨む。
「まぁまぁ、そんくらいで音上げるようじゃ、俺を超える伝説作れねぇぞ?」
「……お前の伝説って、生徒会長選のスローガン“友情・努力・勝利・俺”ってやつだろ?」
「そう!あれ今でも俺の代表作やわ」
自慢げに笑うその顔を見て、律は深くため息をついた。
「じゃあ俺は超えなくていい。てか、話ちげぇだろ。
……ていうか、“俺”って何だよ、“俺”って。誰もついてこれねぇわそんな友情」
呆れた声を漏らしながら、校舎へと向かって歩き出す。
隣で相変わらずくだらない話を続けてくるアイツの声が、ずっと響いていた。
そう言いながらも、なんだかんだ笑っていた気がする。
あいつの話はいつもくだらない。でも――まあ、嫌いじゃない。
友達と別れ、教室に向かう。
スマホから目線をあげると
廊下の向こうから歩いてくる誰かが、ふと目に入る。
すれ違う一瞬、長い髪が揺れて、視線が重なりかけた。
――どこかで、見たことがある気がした。
でも、すぐに思い出せるほどの記憶じゃない。
ただ、今見たこの景色に――妙な既視感があった。
「……ま、気のせいか」
ポケットに手を突っ込んで、俺はそのまま教室へ向かった。
教室に入っても、まだどこか騒がしい。
けれど、クラスの輪の中にいる感じは、なぜかしなかった。
クラスメイトたちは、あちこちで初対面の会話に花を咲かせていた。
「どこ中?」とか「部活入る?」とか、だいたい聞こえてくる話は似たようなものだ。
俺は指定された席に荷物を置いて、席に着く。
耳にイヤホンを差し込み曲を流す。
こういう空気は、何度経験しても得意じゃない。けど、慣れてはいる。
“ひとりの始まり”なんて、今に始まったことじゃない。
流れてくる音楽に身を任せながら、ただ静かに、チャイムが鳴るのを待っていた。




