5
桜が咲き乱れた三月の朝。
高校の合格発表を見に、ひとりで学校へ向かった。
親は仕事で来られなかったし、そもそも結果はわかりきっていた。
選んだのは、家から歩いて十五分ほどの学校。
部活や進学実績には興味がなかった。
通いやすくて、余計な手間がかからない。それで十分だった。
校門をくぐると、見知った顔がちらほら混じる人ばかり。
いろんな中学校の制服が集まって、朝の空気が少し熱を帯びている。
吊り下げられた紙に、自分の番号を見つける。
予想通り、受かっていた。
この学校は毎年定員割れしていて、落ちる方が珍しい。
ふと、視線を下に向ける。
人の多さに少しうんざりしていた、そのとき――ふと、何故か視線が止まった。
まだ少し肌寒い三月。紺色のセーラー服に白いマフラー。
その隙間からのぞく頬と鼻は、春の空気でほんのり赤く染まっている。
首筋まで垂れた高く結んだ髪が、風に揺れた。
次の瞬間、親らしき人物に向かって無邪気そうに笑う顔が見えた。
理由はわからない。ただ、その瞬間に――この人と関わることはないだろう、そう確信していた。
踵を返して足を進める。
たどった道をそのまま戻り、イヤホンを耳に差し込み、音楽を流しながら家路についた。