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プロローグ
春の風が、制服の袖を揺らしていた。
高校1年の、入学式のすぐあとだったと思う。
私は、校舎裏の駐輪場で彼を見た。
自転車からふわりと降りた彼は、
黒くて、さらさらとしたストレートの髪を風に揺らしていた。
光を受けて、髪の先がきらっと揺れたその瞬間――
一瞬で目が離せなくなったのに、
なぜか、その場から逃げたくなった。
「この人と関わったら、戻れなくなる」
そんな予感だけが、胸の奥に残った。
あの日から、5年が経った。
それでも私は、あのとき感じた胸のざわつきを、まだ覚えている。