8
舞台のある広場を出て露店を横目にどんどん町中を歩く。
さっきまでの張り詰めた空気が嘘のように町は賑わいをみせている。
お兄さんの歩く早さはなかなかで見失わないように小走りしながら色々考える。
露天も人も全てが今は前に進むための障害になっている。あんなにキラキラして見えたのに。
なんて話せばいい?まずは自己紹介…ここでまた名乗る名前どうしようと悩むことにるわけだ。
その度このやるせない気持ちになるのか、なんて名乗ればいいんだろう。
番号で名乗るのはおかしいし、かといってノラと名乗るのもおかしいし。
名前のほかはできること、自分を売り込めって言ってたからそこははっきりと伝えなくちゃ。
お兄さんが拍子抜けするほどあっさりと受け入れてくれたのがおかしいのだ。それは外を知らない私でもわかる。
楽団の皆さんにノラ犬やノラ猫のように元いたところにおいてきなさい、家では面倒見られません、と言われてもおかしくない境遇なのだとわかっている。
なるほどそういう点ではノラって名前は正しいのかもしれない。
そんな事を考えていたらどうやら目的地についたようだ。
楽団の天幕は町外れに張られていた。
色とりどりの布、干されている衣装、楽器の音。
こちらから声を掛ける前に戻ってきたことに気づいた楽団のみんながそれぞれの作業を止めて集まってきた。
「で?増えるのか?」
一番に声を上げたのは、太い腕を組んだ男の人だった。
「食い扶持が増えるってことだよな。最悪なんだけど」
「こんなおこちゃまにに何ができるの?」
「力仕事できねぇだろ」
「また女かよ、頼むから男増やしてくれよ」
遠慮も配慮もない。
でも、想像していた通りでもあった。
視線が刺さる。値踏みする目。
私は咄嗟に何も言えず、立ち尽くすしかなかった。
「まぁまぁ」
間に入ったのは、年配の女性だった。
「カイ、あなたが決めたってことはこの子にできる仕事があるということよね」
お兄さんが頷く。
「裁縫関連が得意なんだってよ。他のことは本人から聞いてくれ」
みんなの視線が更に集まる。
「家事は?洗濯とか、火の管理とか」
「……できます」
声が小さくなったけど、嘘じゃない。今までも家ではやってきたことだ。
「料理は?」
一瞬詰まる。
「……町の食材で料理場を使ってなら」
「そっか、そうよね。野外は?」
「……未経験です」
何が売り込まなくちゃ、だろうか。
想像以上だ。
自分は今、なにものでもないのだと悲しくなる。
「そんなに固くならなくていいのよ。今日が大人だと認められた儀式の日だったのよね。外に出たことがなくて当たり前よ」
女性は笑って肩をすくめた。
「初めてなら一緒にやればいいわ。できることが増えていけば私も助かるし、それでいいの。」
「甘ぇな」「お荷物じゃないか」
私たちの話を聞いていた他の団員たちから声が上がる。
女性はため息を一つつくとそちらを見ながら声を張った。
「あなたたちは最初からできたのかしら?誰に何を教えたか忘れるほどおばあちゃんではないはずだけど?一つ一つ丁寧に言っていきましょうか?」
それを聞いて文句を言っていた団員たちは口を閉じ視線をそらした。
まとめるように、お兄さんが手を叩いた。
「決まりだ」
「明日発つ予定だったが、さすがにそれは無茶だろう」
団員たちの視線が集まる。
「2日、町に残る。支度と、こいつの最低限の仕込みが終わるまでな」
「はぁ?」
「マジで?」
文句は出たけど、お兄さんは気にしていない。
「いいじゃねえか、これから仲間になるんだ。少しくらい付き合ってやろうぜ」
軽く笑ってから、私を見る。
「決めたなら、ちゃんとやり切ってから出るぞ」
声音が少しだけ低くなる。
「中途半端は嫌いなんでな」
私は強く頷いて、よろしくお願いしますとあたまをさげた。
逃げ道はない。
ここで役に立てなければ、私はただの“拾い物”だ。




