28
アンコールも終え、観客も興奮したまま帰路につきはじめる。
舞台の下でその背を眺めながら、あの老人のことを考えた。
誰だったんだろうか。
また明日来るのだろうか、もし来ていたとして、私は見つけられるだろうか。
2日目の撤収作業は手慣れたもので、皆で分担しててきぱきと動く。
私も昨日より動けている、と、思いたい。
布をとり、椅子をまとめて片付け、楽器などを荷車にのせる。
片付けの間、誰も今日の私の失態に触れなかった。
宿への帰り道、ユーシリアさんが隣を歩きながら笑顔で言った。
「前半の終わり、あそこで魔力灯を絞ったのは正解だったわね」
「良かったです」
思わず声が弾む。
「壇上の光に視線が集まりやすくなるかと思ったんです」
「そうね、変えて正解だったわ。よく気づいたわね」
ユーシリアさんに褒めてもらえた。
指示されたことだけじゃない。
自分で気づいて動けた。
それが、嬉しい。
小さなことだけれど、今の自分には励みになる。
明日は光の色温度を変えてみるか。
蝶以外の形にしてみるか。
明日は公演最後の日。
今日以上の驚きも求められる。
とはいえ、やりすぎには注意、らしい。
前に光を大きな龍の形にしてみたら、観客が驚きすぎて逃げ惑い大変なことになった、と失敗談を聞かせてくれた。
「あの時は皆で謝罪行脚したわ…」
遠くの方を見ながらそう呟くユーシリアさんをみて、龍は確かに恐ろしいことになりそうだ、と想像して笑ってしまった。
そんな話をしているうちに、宿に着いた。
昨日と同じく大きな荷物を置き、宿に入る。
「おう!おかえり!なぁ今日は踊れる曲にしてくれよ」
店主にさらりと頼まれて、団長が笑う。
美味い飯のためなら仕方ないかぁ、とぼやきながらもなんだか嬉しそうだ。
昨日とは違う曲を1曲披露することになった。
「氷菓つけてくれるなら、踊りもやりますよ!」
リュミがそう言って、期待した眼差しで店主の返事を待っている。
「いいぜ、氷菓もだすから踊ってくれ」
ノリのいい店主の返事を聞いて、リュミも今日は音楽に合わせて踊り出す。
最初は座って聞いていた酒場のお客さんも、次第に立ち上がって踊り出したり、手拍子をして歌いだしたり。
今日もいい夜になった。
「じゃあまず、今日の手応えから」
演奏が終わり、食事も済ませた頃合いで反省会が始まった。
「子どもたちが大喜びで嬉しかったなぁ」
「想定より多くお客さん来たよね」
「来た来た。明日への呼び込みも兼ねての光の演出だったのに、今日も客入りが良くてさぁ、慌てて本気出したよね」
嬉しい、喜びの声が止まらない。
2日目はいつも客足が落ちる。
だから3日目に向けて力を残すのが常らしい。
それなのに、今日はたくさんの人が来てくれたから途中で演出を増やしたそうだ。
それぞれが感想や手応えを話し終わった頃、団長がニヤリと笑って言った。
「ズレも特になかったし、今日はいい演奏だった……舞銭数えるの楽しみだな」
皆が笑った。
少し落ち着いたところで、再び口を開く。
「……さて」
そしてチラリと私をみた。
そう、だよね。
今日の反省会で話せと言われていたから、ずっと落ち着かない気持ちでいた。
上手く話せるか分からない。
だけどあの老人のこと、きちんと伝えるべきだ。
とはいえその前に…
「流れを止めてしまったこと、すみませんでした」
まずは謝罪から。




