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「さぁ、練習開始するぞ!」
皆が一斉に動き出す。
リュミが近づいてきて隣に並ぶ。
「公会所、どうだった?」
「……可能性のある名前が2つあったよ」
「2つ?」
「アンナと、マリア」
リュミは少しだけ考えて、それから笑った。
「それって前進じゃん」
胸の奥が、わずかにほどける。
そっか。前進したのか。
「……うん」
「よし、じゃあ今は練習がんばろ!」
団長が手を叩く音がした。
「光との連携を詰めるぞ。音とずれたら、ただ派手なだけだ。わかってるな?」
「はい!」
私は深く息を吸い込む。
考えるのは、あとにしよう。
まずは自分にできる仕事を探そう。
指揮が上がる。
低音が響き、高音が重なる。
音に合わせて魔力が流れていく。
糸のように細く、正確に。
流された魔力が楽器を通り、光の渦となる。
散り、集まり、重なり、弾ける。
演奏が高まり、光が一斉に弾けた。
胸の奥が、熱く震える。
最後の音が消え、光も消える。
静寂。
団長が満足そうに頷いた。
「いいな。もう一度だ。今度はテンポを上げるぞ」
3曲通しを終えると、次は踊りと音の調整がはじまった。
私とユーシリアさんは舞台袖や観客席を本番仕様へと切り替えていく。
重ねてまとめていた椅子を並べ直していく。
今日は音楽と光が目玉なので座席の背に、細い光の帯を結んでいく。
まるで夜の川に浮かぶ目印のようだ。
昨日と今日で少しずつ変化をつける、これが大切なことなんだとユーシリアさんが教えてくれた。
次に魔力灯の配置を確認し、光の導線をなぞっていく。
角度をほんの少しずつ修正していく。
床に残った魔力の痕跡を確認しながら、どの位置に灯りがあると光が重ならずに見えるのか、ユーシリアさんに聞きながら整えていく。
これは日の沈み方や風の強さで変わる、難しい調整だった。
気づけば、通し練習が終わり皆が本番前の休憩をとっていた。
手を動かしている間は、色々なことを考えず集中できた。
下準備が終わって深く息を吐いた、そのとき。
フェリクスさんが足音を立てて歩いてくる。
「調子どうだ?」
「さっきより落ち着きました、大丈夫です」
「そっか」
フェリクスさんは舞台を見渡してから、ぽつりと言う。
「なぁ、もし本当の名前が見つかったとして」
「はい?」
「お前、どうすんの?」
その質問に、言葉が詰まる。
考えていなかった。
見つけることばかり考えて、その先を。
「……どう、するんでしょう」
自分でも情けないと思う、力のない返事になってしまう。
「ゆっくり考えりゃいいさ。大事なことだ」
そう言って少しだけ目を細める。
「でも、それだけになるなよ」
それからふっと肩をすくめた。
「光と音の演奏会なんて初めてだろ?見逃すなよ」
口元がいつもの揶揄うような形に戻る。
「リクエストのとき、また走ることになるだろうし。ぼーっとしてる暇はないぞ」
明るく背中を押してくれる、優しい言葉に頷いた。
「任せてください、今日もしっかり走ってリクエスト聞いてきます」
「おう」
夕陽が差し込む。
フェリクスさんの白みがかった金髪が光を拾いきらめいた。
ほんの一瞬、銀糸のように見える。
もうすぐ本番だ。




