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仮初を生きるもの  作者: 木南一果
呼ぶ声

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25

「さぁ、練習開始するぞ!」


皆が一斉に動き出す。


リュミが近づいてきて隣に並ぶ。


「公会所、どうだった?」


「……可能性のある名前が2つあったよ」


「2つ?」


「アンナと、マリア」


リュミは少しだけ考えて、それから笑った。


「それって前進じゃん」


胸の奥が、わずかにほどける。

そっか。前進したのか。



「……うん」


「よし、じゃあ今は練習がんばろ!」





団長が手を叩く音がした。



「光との連携を詰めるぞ。音とずれたら、ただ派手なだけだ。わかってるな?」


「はい!」


私は深く息を吸い込む。

考えるのは、あとにしよう。

まずは自分にできる仕事を探そう。



指揮が上がる。


低音が響き、高音が重なる。



音に合わせて魔力が流れていく。

糸のように細く、正確に。


流された魔力が楽器を通り、光の渦となる。

散り、集まり、重なり、弾ける。



演奏が高まり、光が一斉に弾けた。


胸の奥が、熱く震える。


最後の音が消え、光も消える。


静寂。





団長が満足そうに頷いた。


「いいな。もう一度だ。今度はテンポを上げるぞ」




3曲通しを終えると、次は踊りと音の調整がはじまった。


私とユーシリアさんは舞台袖や観客席を本番仕様へと切り替えていく。


重ねてまとめていた椅子を並べ直していく。

今日は音楽と光が目玉なので座席の背に、細い光の帯を結んでいく。

まるで夜の川に浮かぶ目印のようだ。

昨日と今日で少しずつ変化をつける、これが大切なことなんだとユーシリアさんが教えてくれた。


次に魔力灯の配置を確認し、光の導線をなぞっていく。

角度をほんの少しずつ修正していく。

床に残った魔力の痕跡を確認しながら、どの位置に灯りがあると光が重ならずに見えるのか、ユーシリアさんに聞きながら整えていく。


これは日の沈み方や風の強さで変わる、難しい調整だった。



気づけば、通し練習が終わり皆が本番前の休憩をとっていた。


手を動かしている間は、色々なことを考えず集中できた。

下準備が終わって深く息を吐いた、そのとき。

フェリクスさんが足音を立てて歩いてくる。




「調子どうだ?」


「さっきより落ち着きました、大丈夫です」


「そっか」


フェリクスさんは舞台を見渡してから、ぽつりと言う。


「なぁ、もし本当の名前が見つかったとして」


「はい?」


「お前、どうすんの?」


その質問に、言葉が詰まる。


考えていなかった。

見つけることばかり考えて、その先を。



「……どう、するんでしょう」


自分でも情けないと思う、力のない返事になってしまう。


「ゆっくり考えりゃいいさ。大事なことだ」


そう言って少しだけ目を細める。


「でも、それだけになるなよ」


それからふっと肩をすくめた。


「光と音の演奏会なんて初めてだろ?見逃すなよ」


口元がいつもの揶揄うような形に戻る。


「リクエストのとき、また走ることになるだろうし。ぼーっとしてる暇はないぞ」



明るく背中を押してくれる、優しい言葉に頷いた。


「任せてください、今日もしっかり走ってリクエスト聞いてきます」


「おう」



夕陽が差し込む。

フェリクスさんの白みがかった金髪が光を拾いきらめいた。

ほんの一瞬、銀糸のように見える。


もうすぐ本番だ。


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