表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮初を生きるもの  作者: 木南一果
呼ぶ声

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/66

20

通りを抜けると石畳が終わる。

そしてレンガで出来た広場に出た。


正面に石造りでできた、ひときわ歴史を感じさせる建物が現れる。

白というより、少し黄味がかった石灰色。

川からの風に削られて角が丸くなっている。


正面にある広い階段の両脇には、町章の彫刻。

高く縦長の窓には、色鮮やかなガラスで花が描かれている。


これがミルダールの公会所。

昨日は左側の彫刻の横にある掲示板に、告知の紙を貼りに来た。


町が変わると公会所の雰囲気もここまで変わる。

初めて来た昨日は、この場所こそ演奏の舞台かと思ったほど、大きくて美しい。



広い階段を上ると、重厚な木製の扉が立ちはだかっている。

取っ手は鉄製で、町章がかたどられている。



フェリクスさんが取っ手に手をかけて開けてくれた。



「どうぞ、お嬢さん」



からかうような声音に、詰めていた息を吐く。


扉は音もなく開いた。

内部は思っていたよりも明るい。


高い天井。

天窓からは光がたっぷり降り注ぐ。


白い壁。そこここに絵画や彫刻が飾られている。

床は磨かれた石板で、足音が響く。



公会所の中央広間。


正面奥には展示台のような壇。

その向こうに続く廊下と、いくつもの窓口。


記録と決まりと歴史が、この場所に積み重なっている。


——なんて広いのだろう。


そして、こんなに広大な場所で“存在するかわからない名前”を探すのだ。



カンシーラの隣町なのにこんなに違うなんて。

簡単に確認してもらえると思っていたけれど…どうだろうか、不安しかない。

どれほど甘い考えだったのか思い知らされる。


記録は山ほどあるだろう。

歴史は積み重なっている。


胸の奥が、すうっと冷えていく。


さっきまで諦めないと強く思っていたのに。

言葉とは裏腹に、気持ちが小さく萎んでいくのがわかる。



「…広い……」




「始める前から逃げ腰になってねぇ?」





はっとして顔を上げる。


フェリクスさんが呆れたように眉を下げていた。

けれどその目は、笑っていない。



「広い? そりゃ広いだろ。だから沢山の記録があるんだ」



軽く顎で窓口を示す。



「狭い町ほど、記録は曖昧だ。けれどここは違う。もしもここに登録があるなら、どっかに引っかかるってこと」



一歩、私より前に出る。



「ほら行くぞ」



ちらっと振り返る。



「諦めねぇんだろ?」



今度はにやっと、からかうように笑う。


その顔を見て深く息を吐く。



「はい!」



石床に響く足音がさっきより力強くなる。


この広い建物のどこかに、私の名前が眠っているかもしれない。

長い時間かけてもいい、探す、と決めたのは、私だ。

怯えている時間がもったいない。



歩き出せたのはきっと。ひとりじゃないからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ