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通りを抜けると石畳が終わる。
そしてレンガで出来た広場に出た。
正面に石造りでできた、ひときわ歴史を感じさせる建物が現れる。
白というより、少し黄味がかった石灰色。
川からの風に削られて角が丸くなっている。
正面にある広い階段の両脇には、町章の彫刻。
高く縦長の窓には、色鮮やかなガラスで花が描かれている。
これがミルダールの公会所。
昨日は左側の彫刻の横にある掲示板に、告知の紙を貼りに来た。
町が変わると公会所の雰囲気もここまで変わる。
初めて来た昨日は、この場所こそ演奏の舞台かと思ったほど、大きくて美しい。
広い階段を上ると、重厚な木製の扉が立ちはだかっている。
取っ手は鉄製で、町章がかたどられている。
フェリクスさんが取っ手に手をかけて開けてくれた。
「どうぞ、お嬢さん」
からかうような声音に、詰めていた息を吐く。
扉は音もなく開いた。
内部は思っていたよりも明るい。
高い天井。
天窓からは光がたっぷり降り注ぐ。
白い壁。そこここに絵画や彫刻が飾られている。
床は磨かれた石板で、足音が響く。
公会所の中央広間。
正面奥には展示台のような壇。
その向こうに続く廊下と、いくつもの窓口。
記録と決まりと歴史が、この場所に積み重なっている。
——なんて広いのだろう。
そして、こんなに広大な場所で“存在するかわからない名前”を探すのだ。
カンシーラの隣町なのにこんなに違うなんて。
簡単に確認してもらえると思っていたけれど…どうだろうか、不安しかない。
どれほど甘い考えだったのか思い知らされる。
記録は山ほどあるだろう。
歴史は積み重なっている。
胸の奥が、すうっと冷えていく。
さっきまで諦めないと強く思っていたのに。
言葉とは裏腹に、気持ちが小さく萎んでいくのがわかる。
「…広い……」
「始める前から逃げ腰になってねぇ?」
はっとして顔を上げる。
フェリクスさんが呆れたように眉を下げていた。
けれどその目は、笑っていない。
「広い? そりゃ広いだろ。だから沢山の記録があるんだ」
軽く顎で窓口を示す。
「狭い町ほど、記録は曖昧だ。けれどここは違う。もしもここに登録があるなら、どっかに引っかかるってこと」
一歩、私より前に出る。
「ほら行くぞ」
ちらっと振り返る。
「諦めねぇんだろ?」
今度はにやっと、からかうように笑う。
その顔を見て深く息を吐く。
「はい!」
石床に響く足音がさっきより力強くなる。
この広い建物のどこかに、私の名前が眠っているかもしれない。
長い時間かけてもいい、探す、と決めたのは、私だ。
怯えている時間がもったいない。
歩き出せたのはきっと。ひとりじゃないからだ。




