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あのあと6人はそれぞれ無事に特性がわかった。皆が一安心したという顔をしていたが、これによって私だけが異質なのだと確定してしまった。
古くからこの町にいる老人たちが、色々と騒ぎ始めた。
だが町長と神官が儀式の終了を何度も繰り返し伝え、どうにか皆は帰路につきはじめた。
私は帰るわけにもいかず、でもすることも出来ることもなく、ただただ待っていろと言われたので舞台を降り、楽器の片付けを始めた楽団を少し離れたところに座って眺めていた。
「儀式のために弾いてほしい、儀式のあとは広間をつかって好きに弾いて商売していいっていうから儲かりそうだしこんな町まで来たってのに。この広間は封鎖する!楽団も撤収しろ!だってさ。困っちまうよ」
突然声が降ってきて慌てて顔を上げる。
その表情は長い髪の影になって見えないがこの人には見覚えがある。たしか楽団の中央で歌っていたお兄さんだ。
「おまえも災難だな」
「あいつらだよ、町の連中。」
なぁ?といいながら私の顔を覗き込んでくる。
何に同意を求められているのかさっぱりわからない。
私の困惑を気にすることもなく稼げなくなったことについてぶつぶつ文句を言いながら彼もまた楽器を片付けに行ってしまった。
その背をぼんやり眺めていると、町長と神官が私を呼んだ。
「3番来なさい」
あれ?ノラとは呼ばないんですかね?と思いつつむかう。
町長は深く息をつき、書類を開きながら話し始めた。
「……落ち着いて聞きなさい」
私は黙って頷いた。
落ち着けと言われて落ち着けたことなんて、一度もない。
嫌な話が始まるらしいがこれ以上何があるというのか。
「今日の儀式で、お前の魔紙が正しく反応しなかった理由は一つだ」
町長は視線を逸らし、しばらく黙ったのち、続けた。
「お前が書いた名が、真名ではなかった」
言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
「……ノラ、は」
「仮の名だ。お前の母が姿を消したあと、私が登録した」
胸の奥が、ひどく静かになった。
「わたしの、はは…、母親?消えた…?」思わず言葉がこぼれ落ちる。
町長は一度だけ喉を鳴らし、書類から目を離さずに言った。
「3番を産んだ女性は、この町の出身者だ。3年ほど町を離れ、身籠った状態で戻ってきた。父親は不明。
だが、生まれてくる子の名前だけはあらかじめ決めてあると話していたようだ」
紙をめくる音。
「出産から九日後、その女性は姿を消した。以降、消息はない」
町長はそこで初めて顔を上げた。
「今日、与えられた名は仮のものだ。魔紙が異常な反応をしたのは、すでに登録されている“本名”が存在しているからだろう」
町長は困ったように眉を寄せつつ神官の一人に視線を向ける。神官は小さく頷いた。それをみて町長は続けた。
「我々も、3番の名がどこか別の村で正式に登録されている可能性があることは把握していた。だがそれでも儀式は執り行った。結果として、魔紙は二つの名を認識し、処理できなかった。……あの反応は異常ではあるが、想定外ではない」
あまりにも突然で。
けれど今までを思い出せば、いくらでも納得できる内容で。
頷くことすらできず、ただ聞き続けていた私の肩を、誰かが掴んだ。
驚くほど、強い力だった。




