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設営はまだ続く。
けれど、不思議ともう迷いはなかった。
名前を呼ばれたらそちらへ向かう。
頼まれたものを運ぶ。
それでいい。
それだけで、ちゃんと回っていく。
「リネ、ランタン持ってきて」
舞台の端で、セヴランが手を上げている。
荷の中からランタンを探し出し抱える。
金属の枠がひんやりと手に伝わり、中で芯が小さく揺れた。
「舞台の角に吊るす。夜になったら火を入れるんだ」
舞台の四隅を指さしながら、セヴランが説明してくれる。
私は頷いて差し出した。
なるほど、野外の場合舞台上の灯りはこのようにするのか。
慣れた様子でセヴランが取り付けていく。
できることと、できないこと。
その境目を探していく。
少しずつ今の私の役割が見えてきた気がした。
団長の声で今度は客席の準備が始まる。
椅子を運び、並べ、また戻る。
単調な動きのはずなのに、どんどん楽しくなってくる。
額に汗が滲むころ、今夜の舞台の輪郭がはっきりしてきた。
楽器が置かれ、譜面台が立ち、ランタンが静かに揺れている。
「……もう、舞台だ」
思わず漏れた声に、楽器の位置を調整していたエルドがこちらを見た。
「毎回、このように作る」
短い言葉。
でも、この人たちがどんな時間を重ねてきたのか、少しだけ分かった気がした。
エルドが弦を鳴らすと、音が川に返ってくる。
同じ旋律なのに、カンシーラの町で聞いた時とは違う響き。
「音は、常に変わる」
それだけ言ってエルドはまた作業に戻った。
その背中は静かで、そして頼もしかった。
ひと通り整ったところで、団長が告げる。
「1度休憩だ。一刻後に音合わせする」
皆が舞台を離れていく。
私はリュミと並んで、橋の方へ歩いた。
水を飲み、少し息を整えてから、振り返る。
さっきまでほとんど何もなかった場所に、舞台がある。
確かに、私はその一部を運んだ。
「リネ、頑張ってたね」
隣でリュミが笑う。
「町の人にもちゃんと答えられてたし」
やったね、と背中を叩かれて少し背筋が伸びる。
胸の奥が静かに満ちていく。
告知貼り、呼び込みのための音鳴らし、舞台の設営、朝から確かに色々とやった。
けれど、不安と自信のなさばかりが心に残っていた。
今になって改めてほっとする。
そうか。仕事できてるんだ。
「嬉しい」
安堵で出てきたのは喜びだった。
「そんなリネちゃんに、なんと!ご褒美があります!」
突然後ろからフェリクスが声をかけてきた。
この人はいつも音もなく近くにいるから驚いてしまう。
「うわっ、え、ご褒美?なになに?」
リュミも驚いたようだけれどご褒美という言葉に興味がうつったようだ。
「給金はまだしっかりしたのやれないけどさ、小遣いくらいないとな」
そう言って、ん、と手を出すよう促される。
躊躇いながらもおそるおそる手を出した。
手のひらにそっと乗せられたのは銅貨数枚。
びっくりしてフェリクスの顔を見た。
にやっといたずらっ子のような顔をして笑っている。
「昼飯食いな」




