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「次……3番」町長の声が壇上から背中越しに聞こえる。
町長夫人であり私の母親でもあるバーバラさんが舞台に近づいてくるのが見えてほっとする。10歳になったばかりの妹も手を繋ぎ2人で一緒に前に出てくるようだ。
妹は近くに友だちがいないか、キョロキョロと周囲を見渡しながら歩いている。どうやらいつもと同じらしい。私には興味がなさそうだ。
対照的にバーバラさんの表情はいつもより晴れやかな顔だった。胸が熱くなる。
喜んでくれるだろうか。
一人前になったら笑いかけてくれるのだろうか。
わずかな時間が長く感じる。
「あなたの名前は、ノラ」
一拍。
それだけで十分だった。
「ノラ。そう登録します」
それだけ投げるように言って、友だちを見つけたのか手を振りながら走り出そうとする妹の頭を撫でながら注意をしつつバーバラさんは群衆の中に戻っていった。
2番が心配そうに私を見ているのがわかる。でも今は顔を向けられない。自分の感情がわからない。
4番が「次やりにくいじゃん最悪」と呟いてため息をついた。
壇上の町長がわざとらしく咳払いをしたのが聞こえた。
そして仕切り直しとでもいうように「次!」と声が落ちてきた。
名前が呼ばれ、返事があり、また名前が呼ばれる。
それだけのことが、滞りなく進んでいった。
拍手の音が聞こえた気がした。
誰のためのものだったのかは、わからない。
ふと肩に暖かいものを感じて現実に引き戻された。
濃緑のローブを着たシャロンが私の肩に触れ小声で言った。
「まだ儀式は続くわ。大丈夫。あなたはあなた、変わるのは周りだけ。」
そして、木に貼り付けられた魔紙とペンを渡してくれた。
いつのまにか、七人すべての名前の授与は終わっていた。
私たちは魔法特性を調べるため、二段目の教官たちに向き合っていた。
「あり、が、とう」かすれた声でなんとかつぶやく。
声を出したら、周りの音が戻ってきた。
皆それぞれ名前を書いて血判を押し自分の特性が紙に写し出されるのを教官たちと話しながら楽しそうに待っている。
それを町長や神官が3段目からにこやかに眺めていた。
私も渡された紙に名前を書く。
(ノラ)
そのままペンの後ろにある針を指に刺し血を出して紙に押し付ける。
あぁ針が怖いなぁなんて考えていた昨日の私に伝えたい。
あなたは何も考えず針を刺せるわよ、と。
名前と血が混ざり合い、魔紙の色が変化し、光り始める。
七人の家族も、広間に集まった群衆も、ざわめき出した。
ずっとこの日を迎えるのを待っていた、というほど楽しみだったわけではない。期待していたけれどそれもほんの少しだけだ。
それでもやっぱり比べてしまった。だからこの悲しい気持ちは…辛さは、期待してしまった自分を恥ずかしく思うからなんだと思う。
そんなことを考えていると私の紙が急に一際明るく光ったあと、消えた。消えてしまった。
「な!?なにが!?」
町長は慌てた顔で3段目から身を乗り出し今にも落ちそうになっていて横にいる2人の神官に体を支えられている。
私はなすすべもなくただ周りが騒ぐ声を聞きながら、やっぱり針どころではなかったよ、と昨日の私に呟いた。




