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部屋の中を片付けてから、皆で1階に降りた。
今日は移動日で練習はないそうだ。
到着後は体を休めることになっていて、このあとは好きに過ごしていいという。
男性陣はさっそく酒を飲み始める。
リュミとアナスタシアさんは、名物だという、凍らせた果物を串に刺したものを頬張っている。
ひと口齧るたびにリュミが、冷たい!甘い!美味しい!と声をあげていて、その素直な表情が可愛らしくて少し笑ってしまう。
私の分も注文してくれようとしたが、お金のことも気になるし、初めての場所の空気にまだ慣れず、食べ物は胃に入りそうになかったので果実水だけお願いした。
すっきりとしたほのかな酸味と、喉を通る冷たさ。
興奮や緊張が少しずつ溶けていく気がする。
さっきは荷物を運ぶ往復と緊張でよく見られなかった、宿兼酒場をあらためて見渡した。
入口から続くのは、広い酒場の空間。
正面には、大きな一枚板で作られた長いカウンターがどんと構え、その奥が調理場になっている。鍋や皿の触れ合う音が絶え間なく聞こえてきた。
地元の人だろうか、常連らしき男たちがカウンターの椅子に座り、大声で笑いながらお酒を飲んでいる。
カウンターの他に、丸テーブルも5つ置かれている。
右奥には、私たちも使う客室へ続く階段があった。
年季の入った店内には、酒と魚と香辛料、それから甘い果物の匂いが混ざり合って漂っている。
「…旅人になったんだ」
思わず零れた言葉に、リュミが笑った。
「旅人?」
声に出したつもりはなかったので、聞かれていたのが少し恥ずかしい。
「宿に泊まるのが初めてで……」
消え入りそうな声で、言い訳のように伝える。
「初めて?」
「はい」
「そっか。大丈夫、大丈夫。天幕より楽だよ」
カンシーラでは天幕だった。
けれど、実際には天幕を張る方が珍しいらしい。
「前回は祭りで、宿が全部埋まってたんだ」
フェリクスが肩をすくめる。
「天幕張るの、久しぶりだったから手こずってさぁ」
ブラムも頷き、今回は楽だ、としみじみ言った。
毎回町外れで天幕を張るものだと思っていたから、少し意外だった。
「分からないことがあっても、私がいるから大丈夫」
お部屋の使い方も、町歩きの仕方も、全部私にお任せ!とリュミが胸を張って笑ってくれた。
知らない町の真ん中で、ひとりではないと思えるだけで、こんなにも違うのか。
温かい。心強い。
そんなふうに皆で話していると、団長とユーシリアさんが戻ってきた。
店主が「おかえり」と声をかけ、団長が軽く手を上げて応える。
「明日の夜から3日間、この町で演奏だ」
団長の一言で、空気が一瞬で切り替わった。
「演奏は夜だけ。昼は仕込みと練習、音合わせに使う」
視線をぐるりと巡らせ、続ける。
「3日間、同じ舞台に立つ。つまり、毎日変化が必要だ」
皆の表情が、さらに引き締まる。
「舞台は前にやった川沿いだ。音の返りは悪くねぇ」
だがな、と少し間を置き、考え込むように続けた。
「初日は明日だ。客入りを考えると、一工夫ほしい」
朝のうちに夜の演奏を知らせる紙を配る案、練習を兼ねて町中で音を出す案——
いくつもの意見が出て、話し合いが始まった。
声が重なり、手が動き、誰かが笑う。
この人たちは、何度もこうやって舞台を作ってきたんだ。
この町で楽団の一員として働く日々が始まるんだ。




