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町の門が近づいたところで、影路を止めた。
「よし、ここでいい」
団長が影路に触れ、何か呟く。
契約の終わりを告げる言葉だろうか。
影路が一度跳ねて団長とふれあい、それからゆっくりと地面に溶けていく。
温かさが消え、普通の地面に戻る。
「門番に見られると面倒だからな、影路はここまでだ」
町が見えてくる。
光っているのは、川だろうか。とても大きな川だ。
その両岸に建物が並んでいる。
「ミルダール、ついたな」
団長が指差す。
カンシーラよりも大きい。
心臓が、高鳴る。
見えてきたのは見張りの立つ大きく立派な門だった。
石造りで、両脇に兵士が立っている。
「止まれ」
声が飛んでくる。
団長が前に出て、何かを差し出した。
「楽団だ。公演の許可を取りに来た」
門番が書類を受け取り、目を通す。
「……人数は?」
「9人と馬2頭。荷馬車1台」
門番が、私たちを一人ずつ見る。
値踏みするような、睨みつけるような鋭い目。
「楽団、ね」
少しだけ、疑わしそうな声。
「ああ」
団長は動じない。
門番が、もう一度ゆっくりと書類を確認する。
「宿は?」
「《ブリッジサイド》を使う予定だ」
門番が、ふん、と鼻を鳴らした。
「あそこか。旅芸人ご用達だな」
それから、書類を返す。
「いいだろう。入れ」
「感謝する」
団長が頭を下げ、門をくぐる。
私たちもその後に続いた。
門をくぐった瞬間、匂いが変わった。
川の湿った匂い。魚の生臭さ。
焼いた肉と香辛料が混ざり合って、鼻の奥に残る。
一息吸っただけで、胸の奥がざわついた。
思っていたより、ずっと強い。
カンシーラの茶葉の香りとは、まるで違う。
石畳の道。
行き交う人々。
知らない顔ばかり。
当たり前のことなのに、知っている景色がなくて驚いてしまう。
「ほら、リネ。遅れないで」
リュミに手を引かれ、慌てて歩く。
人の声が近い。人の数も多い。
カンシーラでは聞かなかった種類のざわめきだ。
「この町なら《ブリッジサイド》が1番だよなぁ」
フェリクスが言うとブラムも頷いた。
「楽団に優しいし、酒もうまい」
酒場は、市場の近くにあった。
川沿いの通りに面した、3階建ての建物。
木の看板に、橋と杯の絵が描かれている。
中に入ると、カウンターで数人が酒を飲んでいた。
「おや、楽団さんかい」
店主らしき男性が、にこやかに迎えてくれた。
「久しぶりだな」
団長が軽く手を上げる。
「部屋、空いてるか?」
「ああ、昨日団体さんが帰ったところでちょうどいいよ、何人だ?」
「9人。馬が2頭」
店主が帳簿を確認する。
「2階の部屋を3つ出せるがそれでいいか?」
「ああ、頼む」
「馬は裏の厩舎に。大きな荷物も外で良ければ置けるぞ」
「助かる」
団長が指示を出す。
「俺、ブラムで1つ。フェリクス、エルド、セヴランで1つ。それから女部屋だ」
「了解」
店主が鍵を3つ、カウンターに置いた。
「またあんたたちの曲が聴けるのか、楽しみだよ」
「ありがとよ」
団長が鍵を受け取り、アナスタシアさんに1つ渡す。
「やることやっちまおう。ユーシリア、俺と来てくれ」
「ええ、もちろん」
「町の代表者に会ってくる。舞台を使わせてもらう話をつける」
馬と荷物よろしくね、と言ってユーシリアさんと団長は出て行った。
「じゃ、荷物下ろすか」
残ったみんなに向けてフェリクスが軽く言った。
荷物を馬車から下ろし部屋に運んでいく。
魔力を使うと重い荷物も簡単に2階に運べてとても便利だ。
魔力操作、特性がわからない私でも練習したらうまくなるだろうか。
荷物を各々の部屋に運び終わり、次は部屋の中を片付ける。
と、その前に…窓から町を見回してみた。
知らない建物。
知らない人々。
知らない匂い。
全部が、新しい。
「すごいでしょ?」
リュミが笑う。
「初めての他の町、どう?」
「……圧倒されてます」
正直に答えると、リュミは楽しそうに笑った。
「私も最初はそうだった。でも、慣れるよ」
その言葉に、私は小さく頷いた。
窓の外では、知らない町が動いている。
音も、匂いも、全部がまだ落ち着かない。
けれど、もう心は決まっている。
進むしかない。
そう思いながら、私はカーテンから手を離した。




