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仮初を生きるもの  作者: 木南一果
呼ぶ声

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35/66

町の門が近づいたところで、影路を止めた。


「よし、ここでいい」


団長が影路に触れ、何か呟く。

契約の終わりを告げる言葉だろうか。

影路が一度跳ねて団長とふれあい、それからゆっくりと地面に溶けていく。

温かさが消え、普通の地面に戻る。


「門番に見られると面倒だからな、影路はここまでだ」




町が見えてくる。

光っているのは、川だろうか。とても大きな川だ。

その両岸に建物が並んでいる。


「ミルダール、ついたな」


団長が指差す。

カンシーラよりも大きい。

心臓が、高鳴る。




見えてきたのは見張りの立つ大きく立派な門だった。

石造りで、両脇に兵士が立っている。


「止まれ」


声が飛んでくる。

団長が前に出て、何かを差し出した。


「楽団だ。公演の許可を取りに来た」


門番が書類を受け取り、目を通す。


「……人数は?」

「9人と馬2頭。荷馬車1台」


門番が、私たちを一人ずつ見る。

値踏みするような、睨みつけるような鋭い目。


「楽団、ね」


少しだけ、疑わしそうな声。


「ああ」


団長は動じない。

門番が、もう一度ゆっくりと書類を確認する。


「宿は?」

「《ブリッジサイド》を使う予定だ」


門番が、ふん、と鼻を鳴らした。


「あそこか。旅芸人ご用達だな」


それから、書類を返す。


「いいだろう。入れ」

「感謝する」


団長が頭を下げ、門をくぐる。

私たちもその後に続いた。



門をくぐった瞬間、匂いが変わった。


川の湿った匂い。魚の生臭さ。

焼いた肉と香辛料が混ざり合って、鼻の奥に残る。

一息吸っただけで、胸の奥がざわついた。

思っていたより、ずっと強い。


カンシーラの茶葉の香りとは、まるで違う。



石畳の道。

行き交う人々。

知らない顔ばかり。

当たり前のことなのに、知っている景色がなくて驚いてしまう。


「ほら、リネ。遅れないで」


リュミに手を引かれ、慌てて歩く。




人の声が近い。人の数も多い。

カンシーラでは聞かなかった種類のざわめきだ。



「この町なら《ブリッジサイド》が1番だよなぁ」


フェリクスが言うとブラムも頷いた。


「楽団に優しいし、酒もうまい」


酒場は、市場の近くにあった。

川沿いの通りに面した、3階建ての建物。

木の看板に、橋と杯の絵が描かれている。


中に入ると、カウンターで数人が酒を飲んでいた。


「おや、楽団さんかい」


店主らしき男性が、にこやかに迎えてくれた。


「久しぶりだな」


団長が軽く手を上げる。


「部屋、空いてるか?」

「ああ、昨日団体さんが帰ったところでちょうどいいよ、何人だ?」

「9人。馬が2頭」


店主が帳簿を確認する。

「2階の部屋を3つ出せるがそれでいいか?」

「ああ、頼む」

「馬は裏の厩舎に。大きな荷物も外で良ければ置けるぞ」

「助かる」


団長が指示を出す。

「俺、ブラムで1つ。フェリクス、エルド、セヴランで1つ。それから女部屋だ」


「了解」


店主が鍵を3つ、カウンターに置いた。


「またあんたたちの曲が聴けるのか、楽しみだよ」

「ありがとよ」


団長が鍵を受け取り、アナスタシアさんに1つ渡す。


「やることやっちまおう。ユーシリア、俺と来てくれ」

「ええ、もちろん」

「町の代表者に会ってくる。舞台を使わせてもらう話をつける」


馬と荷物よろしくね、と言ってユーシリアさんと団長は出て行った。



「じゃ、荷物下ろすか」

残ったみんなに向けてフェリクスが軽く言った。


荷物を馬車から下ろし部屋に運んでいく。

魔力を使うと重い荷物も簡単に2階に運べてとても便利だ。

魔力操作、特性がわからない私でも練習したらうまくなるだろうか。



荷物を各々の部屋に運び終わり、次は部屋の中を片付ける。

と、その前に…窓から町を見回してみた。


知らない建物。

知らない人々。

知らない匂い。

全部が、新しい。




「すごいでしょ?」


リュミが笑う。


「初めての他の町、どう?」

「……圧倒されてます」


正直に答えると、リュミは楽しそうに笑った。


「私も最初はそうだった。でも、慣れるよ」



その言葉に、私は小さく頷いた。


窓の外では、知らない町が動いている。

音も、匂いも、全部がまだ落ち着かない。


けれど、もう心は決まっている。

進むしかない。


そう思いながら、私はカーテンから手を離した。


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