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仮初を生きるもの  作者: 木南一果
呼ぶ声

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33/67

3

もう直ぐ休憩を終えてまた動き出すだろう。

団長は何を見に行ったのかな、そう思ったとき、ふと気づいた。


静かすぎない?


影路は止まっている。

風はある。木々も揺れている。

それなのに鳥の声がしない。

虫の羽音も、遠くのざわめきも、どこか欠けている。

日差しはまだ差しているはずなのに、森全体が翳ったように感じた。


ついさっきまで木漏れ日と鳥の声を確かに感じていた。

その記憶があるからこそ、違和感が際立つ。

私の呼吸だけが静けさの中で浮いていく。


そう思ったところで、森の奥へ入っていた団長が戻ってきた。

荷馬車のそばまで来ると一度だけ周囲を見回す。


「少し見てきた」


短くそう言って、首をわずかに振った。


「目的地は変えない。だが、ルートを変える」


その言葉に、セヴランが視線を上げた。


「何かあったんですか」


団長はすぐには答えなかった。

少しだけ間を置いてから、低く言う。


「説明できるほどのもんじゃねぇ。だが、違和感がある」


森の奥へ、もう一度だけ目を向ける。


「用心に越したことはないだろ」


それで十分だった。

誰も反論しない。


皆が静かに頷き、再び移動するための準備に入る。

私は無意識に靴紐を確かめた。


昼間だ。

何も起きていない。


…けれど、何かが起きてもおかしくない。





団長の合図とともに、影路が再び動き出した。

先ほどまでの張りつめた空気は、完全には消えてはいない。

でも皆あえて触れない。

私も足元へと不安を押し込める。



影路は太い道のルートを外れ、少し狭い小道をさっきよりもゆっくりと動く。

森の密度が次第に薄れ、空が広く見えるようになってきた。


午後の光はやわらかく、影路の揺れも単調だ。

少しずつ緊張がほどけた反動で、眠気がじわりと滲んでくる。


「次は……確か、川沿いの町だよな」


フェリクスがそう切り出すと、空気が少しだけ緩んだ。



「ああ。大きくはないが、宿は悪くねぇ」


団長が前を見たまま答える。


「市場もある。酒も飲める」





「今まで行った町の中だと、どこが一番落ち着きました?」


私がそばにいるユーシリアさんに尋ねると、誰かが小さく笑った。



「落ち着く町なんて、仕事次第だろ」

フェリクスと団長も私の話にのってくれるようだ。


「いやいやそうは言ってもやっぱりさ、飯がうまくて、酒もうまい町が1番だな」


他のみんなも話はじめ、いくつか名前があがり、みんなの声と一緒に流れていく。

話はとりとめもなく、午後の揺れに溶けていった。


さっき感じた違和感は、まだ胸の奥に残っている。

でもさっきより怖さが減っていた。




影路は順調に距離を稼いでいる。

歩けば3日はかかる道程が、影路を使うと1日半ほどで到着できるらしい。



「……この森は賑やかなのを嫌うんですかね」



ふと、話が途切れた時に誰かがそんなことを言った。



団長は否定しなかった。


「ひらけたところを探せ、今日の野営地にする」


夕暮れが近づき影が長くなる。


今日はここまでだ、という合図が出た。



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