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もう直ぐ休憩を終えてまた動き出すだろう。
団長は何を見に行ったのかな、そう思ったとき、ふと気づいた。
静かすぎない?
影路は止まっている。
風はある。木々も揺れている。
それなのに鳥の声がしない。
虫の羽音も、遠くのざわめきも、どこか欠けている。
日差しはまだ差しているはずなのに、森全体が翳ったように感じた。
ついさっきまで木漏れ日と鳥の声を確かに感じていた。
その記憶があるからこそ、違和感が際立つ。
私の呼吸だけが静けさの中で浮いていく。
そう思ったところで、森の奥へ入っていた団長が戻ってきた。
荷馬車のそばまで来ると一度だけ周囲を見回す。
「少し見てきた」
短くそう言って、首をわずかに振った。
「目的地は変えない。だが、ルートを変える」
その言葉に、セヴランが視線を上げた。
「何かあったんですか」
団長はすぐには答えなかった。
少しだけ間を置いてから、低く言う。
「説明できるほどのもんじゃねぇ。だが、違和感がある」
森の奥へ、もう一度だけ目を向ける。
「用心に越したことはないだろ」
それで十分だった。
誰も反論しない。
皆が静かに頷き、再び移動するための準備に入る。
私は無意識に靴紐を確かめた。
昼間だ。
何も起きていない。
…けれど、何かが起きてもおかしくない。
団長の合図とともに、影路が再び動き出した。
先ほどまでの張りつめた空気は、完全には消えてはいない。
でも皆あえて触れない。
私も足元へと不安を押し込める。
影路は太い道のルートを外れ、少し狭い小道をさっきよりもゆっくりと動く。
森の密度が次第に薄れ、空が広く見えるようになってきた。
午後の光はやわらかく、影路の揺れも単調だ。
少しずつ緊張がほどけた反動で、眠気がじわりと滲んでくる。
「次は……確か、川沿いの町だよな」
フェリクスがそう切り出すと、空気が少しだけ緩んだ。
「ああ。大きくはないが、宿は悪くねぇ」
団長が前を見たまま答える。
「市場もある。酒も飲める」
「今まで行った町の中だと、どこが一番落ち着きました?」
私がそばにいるユーシリアさんに尋ねると、誰かが小さく笑った。
「落ち着く町なんて、仕事次第だろ」
フェリクスと団長も私の話にのってくれるようだ。
「いやいやそうは言ってもやっぱりさ、飯がうまくて、酒もうまい町が1番だな」
他のみんなも話はじめ、いくつか名前があがり、みんなの声と一緒に流れていく。
話はとりとめもなく、午後の揺れに溶けていった。
さっき感じた違和感は、まだ胸の奥に残っている。
でもさっきより怖さが減っていた。
影路は順調に距離を稼いでいる。
歩けば3日はかかる道程が、影路を使うと1日半ほどで到着できるらしい。
「……この森は賑やかなのを嫌うんですかね」
ふと、話が途切れた時に誰かがそんなことを言った。
団長は否定しなかった。
「ひらけたところを探せ、今日の野営地にする」
夕暮れが近づき影が長くなる。
今日はここまでだ、という合図が出た。




