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仮初を生きるもの  作者: 木南一果
探しもの

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目が覚めたのは、まだ暗いうちだった。

天幕の布越しに、夜明け前の冷たい空気が伝わってくる。


外で、何かが動く気配がした。

布のこすれる音、低く抑えた話し声、金具が触れ合うかすかな音。


——準備が、始まっている。



体を起こすと、すでにアナスタシアさんが起きていた。

ユーシリアさんは既に外だろうか姿はない。

リュミはまだ夢の中だ。


「リュミ、おはよう」

「うー…朝かぁ…」


眠そうではあるけれど、起きたようだ。



アナスタシアさんとも挨拶を交わす。


「おはようございます」

「おはよ…」


返ってきた声はまだ眠そうで、小さい。


身支度を整え、昨夜確認した荷物に手を伸ばす。

持ち上げてみると、思ったより軽い。

本当に、もう必要なものだけになったのだと実感する。


「さ、天幕、畳むわよ」


外からユーシリアさんの声が聞こえた。

昨晩、今日は朝仕事はしなくていいと言われていた。

解体と荷詰の流れをよく見て、覚えるためだ。

よし。

やるぞ。

天幕を畳むなんて経験初めてで、覚えなくちゃいけない、というより楽しみになってきた。




まず、中の荷物をすべて外に運び出した。

それから、天幕を支える杭を一本ずつ抜いていく。

金属が土から離れる、鈍い音。


「リネ、そっちの紐、ほどいて」


リュミに言われ、結び目に指をかける。

少し固くなった紐を、ゆっくり解く。


布が重みを失って、静かに下りてきた。


「畳むときは、折り目を揃えて。適当にやると、次に張るとき苦労するのよ」


ユーシリアさんが、手を動かしながら教えてくれる。

4人で、大きな布を少しずつ動かす。

端を合わせ、空気を抜き、きっちりと折りたたむと、思った以上の重さが腕にずしりと伝わった。



「できた」

思わず、声が漏れた。

涼しい時間のはずなのに動き回って汗だくだ。



畳み終わった天幕を、荷物置き場まで運ぶ。

このあと洗濯の時と同じ魔法を使い、夜露に濡れた天幕を乾燥させる。

これなら出来そうだと思って名乗りでたけれど、普段の洗濯より魔力の消費が激しいらしい。

アナスタシアさんに他を手伝うように言われ、改めて周りの様子を確認した。




男性用の天幕と共同の大きな天幕は、すでに片付けが終わっていた。

荷物が山のように積まれている。


「じゃあ、積むぞ」


団長の短い合図で、全員が一斉に動き出す。


ブラムが、大きな荷物に手をかざし、魔力を流す。

次の瞬間、荷物がふわりと宙に浮いた。


「こっちだ」


手の動きに合わせて、荷物が空中を滑るように移動し、

馬車の上に静かに降りる。


「……すごい」


思わず漏れた声に、そばにいたフェリクスが笑った。



「これがないと、毎回腰やられるからな」



と言っても、これを全てにやってたらダメなんだぜ、と補足される。


魔力で浮かせるのは一瞬なら楽だけれど、何十回も繰り返せば確実に消耗してしまう。

旅が今から始まるというのに、ここで力を使い切るわけにはいかない。


説明を聞き納得する。

魔力は体力と同じ、無理をすればあとに響く。



見てな、と言って彼も手を翳し、楽器の入った箱を浮かせてみせる。

箱の周囲を薄い水の膜のような魔力が覆っているのが見えた。

私には、こんな器用な真似はできない。


「こうやって魔力で包んで浮かせるんだ、簡単そうに見えるだろ?これ、運ぶとなるとコントロールも必要でさ。小さいのは地道に手で運ぶのが1番」



そういうと魔法を解除して自分の手で持って運びだす。



「リネも、運べそうな重さの、運んで」



フェリクスに言われ、食器や調理道具の入った箱を持つ。


これくらいなら持てそうだ。

例えばこの箱。

魔力で浮かせることはできても、細かく制御する自信はない…落として割ったら、大変だ。






「おい、そっちの荷物、固定するぞ」




セヴランが荷物の上にロープを渡す。

それを受け取ったブラムが、魔力を込めながら結んだ。


「……何をしてるんですか?」


「魔力を編み込んでる。ロープが緩まないようにな」


「ほどくときは、魔力を抜けば簡単だ」



なるほど。

魔力の使い方は何通りもあるのか。

とはいえ、最終的に位置を合わせ、支え、固定するのは魔法ではなくて人の手だった。




「おい、馬の支度すんぞー」


団長の呼びかけに、手が空いている人は集まった。


茶色い馬に最初に近づいたのは、昨日も今朝も、ほとんど言葉を交わしていない人だった。

練習の時、弦楽器を弾いていた男の人だ。

——確か、エルドと呼ばれていた。



「よし、いい子だ」


彼が馬の頭を撫でると、茶色い馬は気持ちよさそうに目を細めて尻尾をふる。


手慣れた様子で馬具をつけていく手つきは素早く、それでいて丁寧だった。



私は、少し離れたところにいる灰色の馬の前に立った。


「おはよう」


声をかけると、馬が耳を動かし、少しだけ近づいてくる。


「……今日から、よろしくね」


鼻先に手を出す。

逃げず怒らずじっとしている。

そっと撫でると、静かな息が返ってきた。

距離が近づいた気がする。嬉しい。




みんなで魔法を使い、自分たちの力を使い、撤収作業が無事に完了した。


「全部積んだか?」


団長の声が場を引き締める。



「天幕、よし」

「楽器、よし」

「食料、よし」

「水、よし」



1つずつ、声に出して確認されていく。



「人数は?」


ユーシリアさんが視線を巡らせる。


「9人、全員いるわ」


「よし」


団長が頷いた。


「出るぞ」


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