24
無事に登録が終わり、ホッとしたが旅立つ明日の朝までに、まだまだやらなくてはいけないことはある。
昨日書き留めた品を買いたいし——
2番とシャロンの2人には自分の口から別れを告げたい。
団長に天幕に戻る前にやりたいことがあると伝えると、少しだけ足を止めてこちらを見た。
「行くなら、跡を荒らすな」
それだけ言って、顎で町の方を示す。
「買い物も挨拶も、まとめて済ませてこい。遅くても日が傾く前には戻れ」
「……はい」
短い言葉だったが、引き止める気も、急かす気もない。
ただ、きちんと終わらせて来いという声音だった。
私は小さく頭を下げ、町の方へと足を向けた。
まずは町の市場へ向かう。
いつもの店に入り、声をかける。
「こんにちは」
「おお、3番じゃないか。祭りはどうだった?」
「……色々ありました」
曖昧に笑うと、おじさんは首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。
どうやらおじさんは祭り会場に来ていなかっただけでなく、騒動についても耳にしていないようだ。
「布と糸と針、買いたしに来たんです」
「ああ、いつもの巾着作り用かい?」
「いえ、今回は……楽器を磨く布が欲しいんです。毛羽立たなくて、柔らかいもの」
そう私が言うと、おや?と表情が変わった。
「ガラスを縫うのに目立たない細い糸も。それから天幕を縫える太い針も2本ください」
おじさんの目が、少しだけ鋭くなった。
「……旅に出るのか?」
「はい」
短く答えると、黙って布を何枚か取り出した。
「これなら大丈夫だ。…糸、少し多めに入れてやるから持っていけ」
「ありがとうございます」
代金を払い、包みを受け取る。
布は上等な物だと触らずにわかるものが混ざっているし、糸は糸巻き限界まで巻かれている。針も2本とお願いしたのに5本入っていて…明らかに代金に見合わないほどの質と量だ。
おじさん、いつも気にかけてくれてたね、ありがとう。
少し目の奥が熱くなる。
「気をつけてな」
「はい」
「常連さんがいなくなるのは寂しいもんだな。がんばりなよ」
「ほんとうに、ありがとう。がんばってきます」
深く頭を下げたあと、店を後にした。
次は2番…いや、フェリッシュに会いに行こう。
市場を抜けて川辺を歩く。
少し行くともう使われていない崩れかけた水路があり、私たちはよくそこで魔法の練習をした。
きっとお昼前のこの時間ならば、いるはずだ。
フェリッシュは、私がなりたかった自然属性だった。
自然属性のなかでも、おそらく水より。
水路で練習していた頃、彼はいつも、水に選ばれていた。
私たちが呪文を整えている間に、気づくと水が自らやってきて、フェリッシュの周りをぐるぐると飛び跳ねるのだ。
いた、たぶん。
なんだろう、人が中に見えるが誰だかまではよく見えない。
水が人をすっぽりと囲んで、水の箱のようになっている。
「フェリッシュ…?」
私が恐る恐る声をかけると水がザバっと下に落ちて消えた。
全く濡れていない彼に驚いたのと同時に、魔法をさっそく使いこなし始めていて遠く感じる。
「…!!!3番!!」
赤い目で私をみるその人は、2番、フェリッシュだった。




