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目が覚めたのは、外が白み始めた頃だった。

リュミとアナスタシアさん、ユーシリアさんもまだ眠っている。

昨日ユーシリアさんが天幕に戻ったことに気づかなかった。

挨拶もしないまま眠ってしまって少し申し訳ない。

昨日は不慣れな環境でなかなか寝付けずにいたけれど、いつのまにか眠れたようで気づけば朝だった。



そっと起き上がり、身支度を整える。

天幕の外に出ると、冷たい空気が頬を撫でた。

朝の匂い。草の匂い。




馬たちのところへ向かうと、茶色い馬が首を上げて私を見た。

「おはよう」

声をかけながら、水を補充し、干し草を足す。

灰色の馬も、少しだけ近づいてくる。

「あなたも、おはよう」

声をかけてみるが、視線だけ合わせてまた下がっていった。

それでも昨日より距離が近い気がする。嬉しい。





天幕に戻ると、ユーシリアさんも起きて外に出てきていた。


「おはよう。早いのね」


「おはようございます。馬の世話を終わらせてきました」


「それは助かるわ。朝食の支度、手伝ってくれる?」


「はい!」


朝仕事開始だ。

2人でパンを焼き、お茶を淹れ、腸詰をゆでる。

バーバラさんともこうやって静かに朝仕事をしたなぁ、と考えて少しだけ寂しさを感じる。 

私が前を向いたからだろうか。

もしそうなら、この寂しさは忘れないでおこう。



時間はばらばらだったが、皆それぞれ起きてきて席についた。

静かな朝食のあと、またそれぞれの仕事へと散っていく。




朝食の片付けを済ませたころ、団長がよーし、と伸びをしながら私をみた。


「町長のところ、行くぞ」

「はい」


懐の登録書を確かめる。

いよいよだ——



団長と2人、町の中心にある公会所へと向かう。

役場と集会所を兼ねた建物で、町のことを決める時や祭りの時に集まる場所だ。



「朝から難しい顔すんな」


腹が減るだけだぞ、と軽く言われる。


そう言われてもなかなか難しい。

一昨日町長は外に出ていいと言った。

書類も団長が貰ってきてくれた。

でも旅を許可されるまで…この書類を書き終えるまで、無事に出発できるのかという不安は消えない。




「話はついてる、お前は書くだけでいい」



その一言で胸の奥のざわめきが少し落ち着いた。


「ありがとうございます」





到着だ。公会所の扉の前に立つ。

深呼吸をして、扉をあける。


幼い頃から何度も来た、慣れ親しんだ場所。

それなのに今日は知らない場所のようで、よそよそしく見える。


中で仕事をしていた人たちに話が通っているようで、町長室でお待ちです、と言われたので町長室の扉まで進み、扉を叩く。





「入れ」



冷えた扉の取手に手をかけ、開ける。

中に入ると、町長が書類仕事をしながら座っていた。



「来たか、証書をもらおう」



挨拶もなく本題に入るところが町長らしい。


登録書を取り出し、差し出す。

町長は受け取って目を通していく。



「……名前の欄が空いているな」


「はい。どうすれば……」



何を言っているんだと言わんばかりの顔で、町長は書類をこちらへ押し出し、無言でペンを突き出した。



「儀式で使った名前を書け」

「……ノラ、ですか」


「ああ。仮の名だがあれで一応は登録されているからな」



ほら、とペンを渡される。

私は震える手でペンを取り名前の欄に書いた。



ノラ



文字が、紙に刻まれる。



町長は書類に判を押すと、それを机の引き出しにしまった。

代わりに、別の紙を取り出して私に差し出す。


「巡業楽団員としての通行許可だ。道中で求められたらこれを見せろ」



薄い紙にノラの名前、この町の名前と判が押されている。




「これで申請は受けた。行け」


「……ありがとうございました」



頭を下げて、部屋を出る。

あっけなく終わって緊張が緩み膝の力が抜けて転びそうになった。



ノラ



仮の名前のまま、旅に出る。

本当の名前は、まだ分からない。

でも——

「……これでいい」

そう言い聞かせるように呟く。


進むのだ。進めるのだ。








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