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団長とリュミの打ち合わせが終わったようだ。
「もう一回、あたまから」
その一言で練習が再開された。
太鼓が合図のように鳴り、弦がそれに応える。
笛が息を含み、団長の低い声が重なる。
さきほどと同じように音楽が始まる。
私は天幕の端に腰を下ろし、邪魔にならないよう膝を抱える。
さっきよりも、少しだけ音が慎重だ。
全員が、合わせる、ということを意識しているのがわかる。
——ああ、こうやって仕上がっていくんだ。
誰かが突出すれば、全体が揺れる。
誰かが支えれば、音は戻る。
目に見えないやり取りが音を通じて交わされている。
私はただ、それを聴いていた。
楽器のことも、踊りのことも、何も分からず、ただただ感動しているだけだ。
私だけの何か、いつか見つけられるだろうか。
できること、あるのだろうか。
そのとき風が吹き、天幕の布がばさりと鳴った。
笛の音が一瞬、揺れる。
立ち上がり、布の留め具を締め直す。
音は、何事もなかったように続いている。
やった、役に立てただろうか…なんて考えてから少し笑えた。
まるで子どものお手伝いだ。
それでも1つ役に立った気持ちがして嬉しい。
周りを見渡してみる。
さっき皆が水差しをつかっていたから、少なくなっているかもしれない。
水差しの中を確認すると残りわずかだった。
水を満たし、机の上にそっと戻す。
ユーシリアさんと目が合い、にっこり微笑まれる。
本格的に子どものお手伝いの気分だ。恥ずかしい。
でも何もできないより気持ちは晴れた。
また腰を下ろす。
音が、続いている。
団長の歌声は安定していて、リュミの足取りも先ほどより落ち着いている。
完全に噛み合っているわけじゃない。
けれど、さっきより確実に音と踊りが同じ呼吸で前に進んでいた。
自分はまだ、その輪の外にいる。
けれど、完全に無関係でもない。
音が止まるまで、私は静かに聴いていよう。
その後、2回合わせてから練習は終わった。
「今日はここまで」
団長の声にみんなが楽器を置き、場の空気が緩む。
さっきまで休憩もとらず皆集中していたから、その変化に少し驚いてしまった。
「さぁて!さっさと片付けて飯にしようぜ」
「汗かいて気持ち悪い…着替えてくる」
口々に言いながら、天幕の外へ出ていく。
「リネ、手伝って!」
リュミが手を振っている。
私は立ち上がり、小走りで向かった。
夕食の支度は時間との勝負だそうだ、リュミとユーシリアさんと私の3人で忙しく動く。
野菜を切って蒸し、調味料を混ぜた肉を焼き、野菜屑を入れたスープを作る。
町とは違う調味料の匂いに、少しだけ戸惑う。
「これ、初めて嗅ぐ香りです」
「ああ、これ? 二つ隣の町で買ってね。少し辛いのがクセになるのよ」
ユーシリアさんが楽しそうに教えてくれる。
鍋が煮立ち、いい香りが立ち上る。
どんな味なのか楽しみだ。
「できたわよー!」
リュミの声に、みんなが集まってきた。
昼と同じでみんなで卓を囲む。
朝焼いて固くなったパンと香辛料のきいたスープの相性に感動しながらみんなの会話を聞く。
次に行く町の噂、新曲の構想。
以前飲んだ酒の味を、どちらが良かったかと笑い合う声。
話はあちこちへ飛び、私は相槌すら打てないままだ。
それでも、耳に入ってくるだけで楽しいと思えた。
元々の出立より町に長く留まったせいで、馬の餌代がかさみ、保存食も目に見えて減っている…
その話題が出たときは私はただ、申し訳なさに身を小さくするしかなかった。
「お開きにすんぞー。明日も練習できるんだ、明日こそ仕上げちまおう」
団長の声にみんながやる気に満ちた返事を返した。




