表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

20



リュミの声に導かれるように、馬たちに声をかけ、ブラシを片付けてから天幕へと近づく。

布の隙間から中を覗くと、音楽の中心でリュミが踊っていた。


下っ端同盟を結んだ時とも、料理を褒められて照れくさそうな顔とも全く違う、強く透き通った眼差し。

しなやかな動きはまるで風のようなのに、足が地面を蹴ると空気が震えるほど力強い。

動きに合わせてスカートの裾が花びらのように広がったり閉じたりして美しい。



「すごい」

思わず声が漏れた。


けれどしばらく見ていると、少しづつ音と踊りの強弱が合わなくなってきた。


太鼓が一定の音を刻み続け、弦と笛もそれを道標にして重なり、それらを纏める団長の低い歌声。

その音よりも一拍早くリュミの動きが前に出てしまう。

追いかけるように音が強く早くなると、今度は踊りが遅れる。


ほんのわずかなズレ、と私は思うが皆の表情は違う。

太鼓の手が一瞬止まり、弦の指先は迷う。

団長が片手を上げて全体を制した。


音楽が止まり、リュミの動きも止まる。

そして一度呼吸を整え、頭を下げた。額には汗が光っている。


「……また先に行っちゃった、ごめんなさい!もう一度お願いします」


まっすぐな瞳、踊りと真剣に向き合うものの顔だった。


「だいぶ良くなってきてるが、後半がなぁ」


団長はそう言いながら譜面を取り出し、ここがズレやすいから、とリュミと調整を始めた。

2人が調整している間に他のみんなも、ここやっぱり戻そう、こっちは変えて正解だった、と話し始める。

だれも失敗したことを責めたりせずにみんなで前に進んでいく。

これが日常なのだろう。その姿が眩しい。





「なぁなぁ、いつまでそんなとこから見てんの?」


突然フェリクスに声をかけられて驚く。

いつの間に近くにいていたのか、全く気づかなかった。

驚きすぎて一歩後ろに下がり、逃げるようなかたちになってしまった。


「い、いえ、あの、邪魔にならないようにと思って…」


何を言い訳しているのか。自分のことが情けない。

そんな私を気にした様子もなく、フェリクスは顎で天幕の中をさした。


「何を気にしてんのか知らねぇけどさ、見ていいって言われてんだろ?邪魔なら最初から仕事を割り振って、中に入るなって伝えるさ、さっさと入んな」


勢いに押されるように、もごもごと感謝を伝えながら中に入る。

入ってきた私など誰も気に留めない。

真剣にそれぞれが再開にむけて楽器と向き合っていた。


「音楽ってのは見て覚えるのも練習のうちなんだ、よく団長が言ってる」


フェリクスはそう言って少しだけ笑った。


「で?お前は何ができんの?」

突然の質問に、言葉が詰まる。


「演奏も踊りもしたことは全くありません」


頭の中でなにかないか、と必死に記憶を探したが楽器は触ったことはないし、踊りに関してはしっかり見たの自体今が初めてだ。


「うーん、あ、歌は?」


そう聞かれて、町の収穫祭のあとにみんなでうたったことを思い出す。


「歌ったことはありますが…」


そう私がいうと一節歌ってみて、と言われる。

なんてことだ、今ここで、さっきの素晴らしい演奏をしていた人に聞かせるのか、恥ずかしいという感情はわかなかった、ただただ申し訳ない。

それでも楽しそうに私が歌うのを待たれている、歌うしかない。


「——風に干した葉が 香りを運び…」



「あぁうん!わかった、大丈夫!なるほどね!」


フェリクスさんが静かに頷き、やめておこう、といった。

面目ない。


「ここに入るからにはさ、何か一芸見つけな」


突き放すような言葉だが、その表情は冷たいものではない。




裏方の仕事を始めたばかりだ。

一人前になるのにどのくらいかかるのか先は見えず、自信もない。

それでも。

ここにいる以上、何かひとつは役に立ちたい。


歌も踊りもできないなら、何か別のものを。

この楽団の中で、私の居場所を探そう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ