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**********

 

 

 

 

 

 

 

 やっとだ。やっと14歳になった。

 

 

 今日はこの町の子どもたちにとっての1番のイベント、名前を貰える祭りの日。

 

 今まではその年産まれた子どもの中で何番目なのか、という数字で呼ばれてきた。だから1年上にも1年下にも同じ数字で呼ばれる子がいてややこしいし紛らわしくて面倒この上ない。

 

 大きな魔術を行使するのには自分の名と血が必ず必要になるのだが、昔まだ8歳の子が大人のマネをして魔術をつかい大きな事故になったことがあったらしい。

 だから大人と認められる14歳になる年のお祭りまで名前を教えてもらえなくなってしまった。

 使えるなら試したくなるのが人ってもの。駄目と言われたところで、やり方が分かってしまっていたら試さないではいられないその気持ちはよくわかる。だがそのせいでこの面倒な風習ができてしまった点に関してはその子どもにひとこと物申したい。

 

 

 

 

 

 

 毎年祭りの日はこの小さな町も人に溢れて賑やかだ。

 

 広場へ向かう大通りには旅商人たちが大きな布を敷いて品物を並べ、干し肉を焼き、果実を割って酒と混ぜ、といたるところで今日限りの露店が開かれている。スパイスの匂いに酒と砂ホコリと汗の匂いが混ざりあう。夕方なのにまだまだ暑いし日も明るい。非日常の空間に急き立てられるような気持ちになって思わず歩くペースが速くなる。

 

 それが悪かった。

 

 普段は仕事で別の町に行っている人たちも家族のために戻ってくる祭の日。久しぶりに会える友人たちも多く、それも楽しみの1つではあるのだが1番会いたくない人によりにもよってぶつかってしまった。

 

「おまえは全く変わらないな。顔を見なくてもすぐわかったぞ。祭りの日なんだ、せめて少しくらい飾り気のある服を着たらその辛気臭さも減ったんじゃないか?」

 

 顔が歪みそうになるのを誤魔化すように地面に視線を落としながら首から下げている黒い巾着を服の上から握った。この中に今日のために7歳から貯め続けた全財産が入っている。

 

 我が家は友人たちのように手伝いをしてもお小遣いは貰えない。だから基礎魔術を応用して作る編糸と友人から貰った古着をバラした布で魔術を付与した巾着を作り、顔見知りの旅商人にふた季節に一度売ってお金をつくってきた。

 

 その少ないお金もバーバラさん(・・)に買い物を頼まれてほとんど残らないのだから仕方ないではないか。

  

 確かに周りはみんな華やかな色のワンピースやシャツを着ているし、私のようにローブを着ていても髪飾りや靴が華やかだ。羨ましくないと言ったら嘘になる。

 

「ぶつかってごめんなさい」

 

 暑さと苛立ちのせいで声がかすれてしまって心のなかで舌打ちをする。また言われるぞ、と。

 

「あいかわらず声まで暗いなぁ!もっとハキハキ話せと言ってるだろう。っと、まぁいい、今日はおまえも主役の一人なんだ説教はよそう。壇上では笑顔で愛想よくしろよ!」

 

 背中を2度叩かれて、たたらを踏む。この大声馬鹿力め。筋肉が頭にまでついてしまっていて力加減がわからなくなっているに違いない。

 むりやり口角を上げて笑顔をつくる。

 

「はい、兄さん」

 

 この人は名前で呼ばれるのを何故か嫌うから、数字で呼ばれていた頃の風習のままに『兄さん』と呼ばなくてはいけない。以前バルトロ、と名前で呼んでしまったらもともとツリ目なのに更に目をつり上げて睨みつけられて半刻もグチグチと説教やら愚痴やらを聞かされて面倒このうえなかった。3つしか変わらないのに、この人は驚くほど説教臭いのだ。

 

 

「よし、見てるからな!」

 

 

 にっかり笑って手を上げて去っていく。面倒がようやくおわった。見なくていい、むしろ放っといてくれたら嬉しい。

 

 周りより頭ひとつ分背が高い後ろ姿をみおくる。赤茶の髪が人の波に消えていったのを確認してから、ため息をついた。

 

 

 

 人ごみをぬって歩きつつ品物を見ていく。

 カンシーラの染め布は特産の茶の葉を使った濃緑のものが多い。今日は旅商人がたくさん来ていて彩り豊かだ。荷物になるから布を買うのは祭りの後にしなくてはいけないが思わず足を止めて魅入ってしまう。柔らかな風合いの薄花色の布もいいし、なめらかな肌触りで目が覚めるような碧色の布も捨てがたい。

 お金と相談するとあまり色々買えないけれど草臥れてしまった巾着を作り変える分くらいなら買えそうだ。

 

 

 広場から鐘の音が聞こえてきて慌てて顔を上げた。少しだけと思っていたのにすっかり夢中になってしまっていた。もうすぐ祭りが始まる。

 

 

 丸太で出来た高い塀にぐるっと丸く囲まれた広場にみんなが集まってくる。1つしかない為、混雑している入り口を抜けて最奥の舞台へとむかう。

 

 舞台は大きな岩でできていて5段になっている。岩は徐々に小さくなり高さが高くなるように積み重なっている。中央に階段があるが登れるのは3段目まで。4段目は神様への御供え物が。5段目には鐘が置かれている。

 1段目には名を授かる子どもがならぶため今は空いている。2段目には濃緑色のローブを纏った教官が10人並び、3段目には町長と神官2人が並んでいる。

 

 

 ローブの人たちの中にお目当ての人を見つけて頬が緩むのを感じた。

 

 今日は名前の他にも自分の魔術の特性がわかる日。

 名前を知らされた後、順番に魔紙にサインと血判を押す。そうすると自分の特性が色で現れてわかるのだ。そして明日からは基礎魔法ではなく自分の特性にあった魔術を習うことができる。

 

 

 今日の祭りで名前を知ることも楽しみだが特性を知るのが楽しみでしかたない。希望特性は『自然』だ。

 

 将来なんの職につくかを考えたときに自然と思い描いたのは今の生活とほぼ同じ、布だけでなく巾着や服なんかを仕立てて売って生計をたてる生活だった。作った物を村の外に売りに行くのも楽しみだ。

色々な布や糸を見てみたい。

 そうなると『自然』は最適だ。…それに出来れば憧れのひとに教えてもらいたいという甘い期待もある。

 

 物心ついたときから周りと距離を感じていた。大人たちはいつも腫れ物に触れるようだったし、年上の子どもたちはイヤに構ってくるか無視をするかのどちらかで、年下は馬鹿にするような目でいつもみてくる。

 

 そんななかで、6つ上の姉さん、シャロンだけは別だった。

 

 周りの優しい(・・・)兄さんや姉さんたちのように面倒をみてくれる(・・・・・・・・)のではなく、魔術訓練に行き詰まっていることに気付くとさり気なく助言してくれたし、小遣いがないことを知ると稼ぐ方法を教えてくれて商人の紹介までしてくれた。

  

 なんとなく。彼女が私に優しくしてくれていることを、私が彼女に親しみを感じていることを、周りに隠したほうがいいような気がしてあまり頻繁に話すことが出来なかったが、もし魔術特性がシャロンと同じならば魔術教官を務める彼女と話せるタイミングも増えるだろう。

 

 

 

 鐘が3度鳴り響く。祭りが始まる合図。

 

 

 

 町長のマルコスが杖をふるって声を拡張させる。

「今年も茶葉の収穫が終わり無事に国に納めることができた。昨年より豊作だったことを神に感謝しよう!さぁ、祭りを始めるぞ!」

 

 マルコスの開会宣言にあわせて、舞台の右側で楽師たちが演奏を始める。神に感謝を伝える、昔からある祈りの曲だ。手持ちの打楽器、横笛、弦楽器が華やかな音を響かせる。薄紫色の長髪を緩く編み込んだ前髪の長い男性がその中央で歌っている。

 

 この音楽が終わったら名前の授与と特性確認がはじまるから、舞台のすぐそばまで進んで歌が終わるのを待つ。同い年のみんなは既に集まっているようだった。

 

「遅いわよ3(トレセーラ)、間に合わないかと思ったわ!!」

 

 呆れを隠そうともせず声をかけてきたのは最後尾にいた7(スィプティ)だった。興奮しているようでそばかすのある頬が少し赤い。もともとツリ目なのに怒っていてさらにツリ目になっていて、気の強さが全面に出ている。

 

「ごめん」

 

 さっきから謝ってばかりだ。特別な日なのに…ちょっとシュンとしてきたぞ。

 

「まぁ間に合ったからいいけれど。さあ、早く並んで頂戴!もうすぐよ」

 

 気もそぞろ、とはこのことだろう。怒っておいてこちらをもう見てもいない。怒られ損な気がする。

 

 

 列の3番目へむかう。

 祭り会場の最奥だからだろうか、入口付近と比べると熱気が少し落ち着いた気がする。

 

 

 

7(スィプティ)のやつ1時間も前から来てたらしいぞ」

 

 

 2(ドゥーエス)が振り向いて小声で話しかけてきた。顔を近づけてきたから彼の柔らかな金色の髪が鼻先をかすめてくすぐったい。

 

「早く来ようが開始は変わらないのに。一番乗りしておいて、後からくる皆に遅い遅い言い続けてるんだから困ったもんだよ。まぁ、3(トレセーラ)は本当にギリギリだったけどさ。良いものでもあった?布?それとも菓子か?」

 

 人懐こい笑顔で興味津々に聞いてくる2(ドゥーエス)。思わずこちらまで笑顔になってしまった。同い年で唯一力を抜いて話せる存在。

 

「うん、いい生地があったから後で買う予定」

 

「良かったな、また小物入れを作るんだろ?出来上がったら見せてくれよな」

 

 

 

 鐘の音が鳴り響いて、皆が前を見る。

 

 音楽も気付けば止まっていて、あとは名前を呼ばれるのを待つのみ。

 

 いよいよ始まる。

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