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驚いている私にユーシリアさんが、上出来よ、と微笑む。


「今のは“洗った”んじゃなくて、“扱った”の。大事な違いだから覚えておいてね。慣れてきても作業(・・)にしてはいけないわ」


私は頷いた。


薄絹の他にも、紗や羅といった軽い布、細かく縫われた刺繍服、様々な布や服が積まれている。

布の種類ごとに洗い方を教わりながら手を動かした。

強く流すもの、撫でるもの、魔力をほとんど触れさせないもの。

気づけば、桶の脇には洗い終えた布が静かに積み上がっていた。



指先の感覚が薄れ始めたころ、最後の布を干し終えた。


「無事にやり遂げたわね」


ユーシリアさんの声で、ようやく肩の力が抜けた。


ふとアナスタシアさんの姿が見えないことに気づく。

あんなに視線を感じていたのに、途中から集中が高まってすっかり気にならなくなっていた。

 

「アナスタシアさんは…」


ユーシリアさんは、どこか可笑しそうに微笑んだ。


「あなたが羅を一枚きちんと洗い終えたのを見て、もう戻っていったわ」


あんなに近くで見られていたのに、と肩をすくめる。


「平気な顔をしてると思ったら……案外、肝が据わってるのね」


その言葉にどう返せばいいかわからず、私は曖昧に頷いた。

昨日から色々あって少し麻痺しているのかもしれない。



ユーシリアさんは洗い場を一度ぐるりと見渡してから、満足そうに頷き、軽く手を叩いた。


「さて、今日はここまでね。初日としては十分すぎるわ」


その言葉に、今度こそ緊張がほどけた。


「……お腹、空いたでしょう?」


そう言われて、初めて空腹を自覚した。

朝から緊張と集中が続いてばかりだったせいか、急に現実が戻ってくる。


「お腹空きました…」


温かいご飯が食べたい。

心からの声だとわかったのだろう、ユーシリアさんが楽しそうに笑った。

手を洗って、布が飛ばないよう再度しっかり確かめてから2人で洗い場を離れる。




天幕の近くには、すでに人が集まっていた。

湯気の立つ鍋を囲んで、みんなが落ち着かない様子で待っている。


その中心にいたのは、リュミだった。


火は天幕から少し離れた場所におこされていた。

乾いた布に火の粉が移らないよう、距離を取る必要があるらしい。


香りが風に乗って流れてくる。

いい香りだ。お腹がさらに減ってくる。


頃合いを見て、火から下ろされた鍋が布で包まれ、天幕の中へ慎重に運ばれる。


器が並び、順番に鍋からよそわれていく。

卓を囲んだ瞬間、空気がふっとゆるんだ。


「……ああ、町の食事だ」

「久しぶりに生の香りがする」


誰かがそう呟くと、他の人たちも頷きながら笑う。

器を覗き込んだり、湯気を吸い込んだり、やけに嬉しそうだ。


私はというと、正直なところ、そこまでの感動はなかった。

町から出たことがない私にとっては、見慣れた材料ばかりだ。

美味しそうだとは思うけれど、「特別」というほどでもない。



最後に団長が天幕の中に入ってきた。


「お、こいつは期待できる香りだな」


そういうと椅子に座りみんなを見渡す。

「よし、今日も恵みに感謝していただくとしよう」


団長がそう言うとみんなが食べ始める。

昼なのに酒を飲んでいるところもなかなか自由だ。

湯気の中で、あちこちから小さな声が上がった。


「おいし…」

「これ、町の野菜か」

「リュミ、腕上げたな」


褒め言葉を向けられて、リュミは少し照れたように笑う。

胸を張るほどではないけれど、どこか誇らしげだ。


みんなは好き勝手に話し、笑い、酒を飲み、食べる。

その輪の中に、私もいる。

歓迎されているわけじゃない。

でも、強く拒まれてもいない。


器を手にしたまま、私は天幕の中を見渡す。


——ああ、ここに入るんだ。

この人たちの中に、仲間として。


そう思った瞬間、胸の奥がほんのりと温かくなった。



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