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「解散。各自当番入れ。午後から練習するからな」
団長の言葉を合図に、誰からともなく動き出し、輪はほどけていった。
カップを持ち上げる音、楽器を抱える音、天幕の中が一気に賑やかになる。
私は周囲を見ながら立ち尽くす。
すると、袖をくいっと引かれた。
「ねぇ、リネ」
人が散っていくなか、リュミが近づいてきた。
「…さっきの、気にしなくていいよ」
小さな声だった。
「悪い人たちじゃないんだよ、でも言葉が強いんだ…驚いたよね。助けられなくてごめんね」
しょんぼりした顔で言われて慌てる
「わかってたことなので大丈夫です!ありがとうございます」
私が首をふりながら慌てて答えると、リュミは少しだけ肩の力を抜いた。
「私もね、加入してまだ1年ちょっとなの。だから、ああいう場だとどうしても黙っちゃって」
自嘲気味に笑うその様子に、親近感が湧いてきた。
「緊張しますよね。一緒、ですね」
そう言うと、彼女はぱっと顔を上げた。
「うん!だからさ、一緒に頑張ろ。言葉も砕けて話してよ!下っ端同盟ってことで!」
どこか誇らしげに言うその調子に、思わず小さく笑ってしまう。
下っ端同盟。
名前はともかく、心強い響きだった。
「さてさて、お仕事を始めますよ。リュミ、あなたの当番はなんだったかしら?」
ユーシリアさんが聞く。
尋ねるというよりも確認しているようなかんじだ。
聞かれたリュミもそれを理解しているのだろう、少し緊張気味に答える。
「午前中は洗濯と炊事、あと、昨日使った衣装が少しほつれかけてるってアナスタシアが言ってたのでその確認です」
リュミの言葉を聞き、ユーシリアさんは一つ頷く。
「それじゃ、洗濯は私たちがやるわ。リネにやり方を教えつつ洗っちゃいましょう。お料理は任せるわ。リュミの美味しいご飯で緊張をほぐしてあげて」
そう言われて「まかせてよ!」と、胸を張り手を振ってから仕事へと向かう彼女に、頼もしさを感じる。
「さぁ、私たちは洗い場よ」
はい!と気合を入れ直す。
それぞれの持ち場へ向かう。
ユーシリアさんと天幕の外に出ると、光がまぶしい。
さっきよりも気温も上がってきたようだ。
天幕の中の重たい視線や言葉、緊張、全てが少しずつ遠ざかっていく。
午後には練習があると団長が言っていた。
きっとまた、空気が張りつめて何をしたらいいのか分からない時間が来る。
でも今は、目の前の仕事に集中しよう。
楽団の一日が、静かに動き始めた。
「リネ」
名前を呼ばれて、私は背筋を伸ばす。
「分からないことは溜め込まないで聞くのよ。裏方仕事はね、気づける人間が一番成長できるの」
ユーシリアさんの言葉を頭の中で反芻する。
分からないままにしない、気づけるように観察する。よし。
「さぁ初仕事といきましょうね」




