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4人で連れ立って歩き、大きな天幕の入り口をめくって中に入る。
朝食後なのだろう、パンやベーコンの脂の香りがまだ残っていた。
先ほどの女性用の天幕とは違い、布は厚く、空気がひんやりしていた。
思わず肩に力が入る。
楽器が地面に無造作に置かれている。
飲み物の残ったカップが並ぶ大きな机や、譜面だろうか、紙が積み重ねられた作業台がある。
天井を走る紐にはランタンや上着が吊るされ、色と影が入り混じっていた。
中には5人待っていた。
男性4人の女性1人。
こちらを見て、露骨に顔をしかめる人が3人。
残りの2人は、判断に困る。
一人は笑っているのに目が鋭く、もう一人は表情が読めない。
正直、嫌そうな顔をしてくれている方がわかりやすい。
その分、心の準備ができる。
待っていた5人に対面するような形で輪のように並ぶ。
「お前たちの熱いご期待にお応えして、紹介させていただきますよー」
団長が面倒くさそうに話し始める。
「新人が1人増えた、名前はリネ、以上!」
たった一言で終わった。
待って欲しい。以上、ではない。
挨拶をさせて欲しいのだがどうすればいいだろうか、と慌てていると、ユーシリアさんがやれやれといった表情で私の肩に手を置いて一歩前に出た。
「昨日聞いたとおり、この町以外は知らない、大人になりたての子よ。一人前になるまで時間はかかるでしょうね。仲間として育て、助け合いましょう」
そう言うと私に挨拶をするよう促してくれる。
「分からないことだらけですが、一つ一つ覚えていきます、楽団の一員として頑張りますので、本日から皆さんよろしくお願いします」
深く頭を下げたところに言葉が降ってくる。
「頑張ります、って知らない、分からないうちから口だけはやめてくれ」
「泣き言言ってすぐいなくなるんじゃねぇのー」
「本気なんですか…こんな厄介そうな子どもを連れていくと?」
うん、この感じ、わかってた。
「もしもいなくなる時はここのもの盗んだりしていくなよ?あ、俺はフェリクス!この楽団一の色男だぜ、よろしく」
なんだかとっても自由な人だ。嫌がりつつも自己紹介をしてくれた彼はフェリクスというらしい。
「増えることに文句はない、団長が決めたことだからな。だが使えるかどうかは別だ。」
「相変わらず団長のこと大好きだねぇブラムは」
フェリクスさんが呆れたような顔で言う。
昨日も今日も腕組みをして大きな体で私を見下ろしているこの人はブラムさんというようだ。
儀式の時に大きな打楽器を叩いていたのを覚えている。
「私は今でも反対ですよ。名前はなく、特性も分からない人間を仲間にするなんて…」
細身の男性に頭を抱えてため息をつかれてしまった。
「セヴは何でもかんでも心配しすぎー」
フェリクスさんが軽口をたたくが間違えてない。
事実だからこそ何も言えずただ再び頭を下げる。
頭を下げた私に、今度は別の低い声が落ちてきた。
「……布は?」
顔を上げると、先ほどから一言も発していなかった男性がこちらを見ていた。
感情の読めない目。責めるでも、庇うでもない。
「縫えるのか。直せるのか。それだけ聞きたい」
短い問いだった。
「はい。衣類や革製品の裁縫や補修なら、一通りは」
それだけ答えると、彼は小さく頷いた。
「それでいい」
それ以上何も言わず、視線を外して楽器を磨いている。
彼の担当する楽器は弦楽器のようだ。
この言葉が肯定なのかは分からない。
けれど、空気が軽くなって浅かった呼吸が落ち着いた。
次に、甘い香りが一歩近づいた。
「ふぅん……」
ゆっくりと私を上から下まで見て、女性が片眉を上げる。
「その手で、私たちの衣装を触るの?汚したり、台無しにしたりしないでしょうね」
声は柔らかいのに、棘がある。
この人がもう1人の女性か。天幕で嗅いだ香水の匂いはこの人のだったのだと気づいた。
「アナスタシア、やめとけって」
フェリクスが言うが、彼女は気にした様子もない。
「だって大事でしょう?見せる仕事なんだから」
試すような視線が刺さる。
私は息を吸って、はっきりと言った。
「丁寧に扱います、傷つけません」
一瞬だけ、彼女の目が細くなった。
「……言うじゃない」
それだけ言って、興味を失ったようだ。
と、ここで、団長が手を叩いた。
「はいはい、品評会はそこまで」
軽い音なのに、不思議と全員が黙る。
「使えるかどうかは、旅に出りゃ分かるだろうさ。使えなきゃ、使えるように教えりゃいい。それだけだ」
私を見る。
「リネ。お前の仕事はひとまず裏方だけだ。といっても料理、洗濯、掃除、補修。生活全部に関わること全てをやることになる。見て、覚えて、必要なものを書き出せ。夜に確認する」
「……はい!」
短く答えると、団長は満足そうに笑った。




