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荷物を持ち、私は外に出た。

暑い季節でも朝早いこの時間はまだ涼しくて気持ちがいい。

腕に抱えた焼きたてのパンから、ほのかな温もりと香りが伝わってくる。


祭りが終わった今朝、昨日の喧騒はすっかり姿を消していた。

踏み固められた地面。

露天商の忘れ物。

ところどころに残るごみ。

まだ日常に戻りきらない、静かな朝。


ユーシリアさんとの約束までまだ少し時間がある。

先に朝ごはんを食べてしまおう。


街の中心をぬけ、木々が増えてきたあたりで木陰に腰を下ろす。

包みを開くとパンはまだ温かくていい香りがした。

その香りを嗅いで、ぐぅーっとお腹がなる。

そういえば昨日の昼から何も食べていなかった。


「いただきます」


焼きたてのパン。いつものパン。

無言で2つ食べ切ってから布で包んだ瓶を取り出し、栓を外す。

薬草茶の香りにホッとして一口飲み、ようやく一息ついた。



その時、草を踏む音がした。


「おはよう。大荷物だな、引越しでもするのかい?」


そちらを見ると、牧場のおじさんが立っていた。

牛たちの世話がひと段落ついたところだろうか。

この町で知らない顔なんて、ほとんどない。


「この前直してもらった手袋な、具合いいぞ。あれなら冬も越せそうだ」


そう言って、にこにこ笑う。

皮のベルトや手袋、上着なんかの補修をお願いされ、お礼だと言ってお小遣いやクリームの菓子をくれる優しいおじさん。


「明後日、町を出ることにしたの。旅の楽団の人たちと一緒に」


そう伝えると、とたんに眉を下げた。

そうか…それもいいのかもな…とぽつりぽつり呟いてから



「町の外はうまいもんも多いらしい。せっかく出るなら楽しいことも見つけてさ。ちゃんと食べて元気にやるんだよ」


そう言って笑った。






おじさんに別れを告げ、ユーシリアさんと約束した楽団の天幕の裏手に向かう。

まだユーシリアさんはきていなかった。

ひとまず持ってきた荷物を地面に下ろし、緊張で強張っていた体を伸ばす。


昨日の夜はよく見えていなかったが、改めてよくみるとこの天幕は何度も補修されているのがわかる。


縫い目は揃っておらず、糸の太さも色もまちまちだ。

当て布に使われている布地も、場所ごとに違う。


風に揺れるたび、布がこすれる音がする。


きっと。長い旅の中で、破れては直され、傷んでは補われてきたのだろう。


大切に使われてきた天幕だった。



誰かが歩いてくる音がした。


「おはよう。早かったのね」


ユーシリアさんだった。


「おはようございます、今日からよろしくお願いします」


まずは挨拶、しっかりと!と勢いよく頭を下げる私にユーシリアさんは、まぁまぁと笑っている。


「色々覚えて私を助けてもらうのだもの。こちらこそよろしくね」




ユーシリアさんは、私の荷物と、天幕と、朝の空気をひと通り見回してから言った。



「さてと。まず、勘違いしないでほしいんだけど」


少しだけ声が引き締まる。


「ここでやるのは、もちろん縫い物だけじゃないわ」


私は背筋を伸ばす。


「料理、掃除、洗濯。水の確保も、火の始末も、誰かがやらなきゃ回らない」


天幕の向こうから、いろいろな音が聞こえる。


「旅の楽団は華やかそうに見えると思うわ。でも舞台に立つ前に、生活があるの。一人でも手を抜いたら、全員が困る」


一拍おいて、こちらを見る。


「あなたも今日からは、その一人よ」


頑張りましょうね、優しいけれど強い眼差しで見つめられて思わず唾を飲み込む。




「できないことがあってもいいのよ」


ユーシリアさんは緊張で固まる私をみて肩をすくめた。


「最初から全部できる人なんていないもの」


大丈夫よ、そう言いながら地面に下ろしてあった私の荷物を両手に持つ。


「覚える必要があるってこと。自分のためにもみんなの為にもね。そうやって少しずつ仲間になるの。さ、行きましょう。実際に見ながら説明した方がわかりやすいわ」


そう言われて私も慌てて残りの自分の荷物を持つ。



「まずは荷物をお部屋におきましょう」





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