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「……あの人ね」


畳み終えたワンピースを重ねながら、バーバラさんが言った。

声は穏やかだった。


「三年ほど、町を離れてたの。いろんなところを転々としてたって」


私は何も言わない。


「あなたを身籠って町に帰ってきたわ。どこにいたのか、父親が誰なのか……聞いても、笑うだけでね」


机の上に、別の服を置く。


「先の話ばかりしてたわ。この子と2人で生きる、この町で、この森でまた静かに暮らすって」


少し間が空く。

バーバラさんは布の端を揃えながら、続けた。


「雨の強い夜に、あなたは生まれたの。手伝いに行ったからよく覚えてる。それから……何日か後だったわ。近所にお礼を言って赤ちゃんのあなたを見せに来てくれて。その日の夜よ。いなくなってしまった」


私は息を吸ったけれど、声は出さなかった。出せなかった。


「事情があったって言う人もいたし、いざ産んだら不安で置いていったんだって言う人もいた」


畳んだ服を、ゆっくりと箱に入れる。


「でもね、理由が何であれ、あなたはここにいる。だから町長家族で預かって、みんなで少しずつ世話をすることになったの。置いていかれたなんて可哀想だ、黙っておけるなら黙っておこうって決まって話さなかったのよ。……思い出話、おしまい」



広間で町長から聞いた時はわからなかった自分の母親の話が突然始まり、おわった。

どうして、なぜ、生きているの、どこに、色々と言葉が浮かんでは消えていく。



しばらくして、ぽつりと続く。


「あなたが育ったのは、情だけじゃないわ」


私は黙って聞いている。


「この町の都合もあってね。でも私からしたら、この町の希望? 笑わせないでよって話だったわ。期待を押し付けるのは簡単。だって失敗したら周りは文句を言うだけで済むんだから」


顔は上げないまま、バーバラさんは息を吐いた



「あなたのせいじゃない。でもね、“あなたのため”って言葉で、私の人生は片付けられたことも多かった」



いつも厳しいバーバラさんの、本音。

私のせいではないと言われても私の存在が陰を落としてしまっていたのは事実だ。

なんて言うべきか悩み視線がさがる。



「外の世界に出ると決めたのならやり遂げなさい」


いつもと同じ強く厳しい声。

ハッとして顔を上げるとバーバラさんの表情がいつものものに戻っていた。


「帰れる場所はここにあります、でも諦めて戻ることはしてはいけません」


いいですね?といつものように言われて「はい」と反射的に返事を返す。



話は終わったとばかりにバーバラさんはまとめた服とアクセサリーの入った箱を持ち、2階に続く階段を登って行った。


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