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『忘れられた森』なんていうけれど、本当に忘れられていたのなら呼ばれない。
認識され、呼ばれる名がある。
つまりは人々の中に存在している。羨ましいかぎりだ。
私を産んだ人は自分の故郷である通称『忘れられた森』マティモギクの中の小さな町、カンシーラを3年ほど離れていたらしい。
ある日久しぶりに帰ってきたと思ったら私を身籠っていた。どこに居て何をしていたのか、父親はどこにいるのか、何を聞いても曖昧に笑うだけだった為、周りのみんなは大きくなっていくお腹を大切そうに撫でている様を静かに見守ることにした。
過去の話は濁していたが先の話はよくしていたそうだ。
産まれる子の名前は決まっている、2人でこの森で生きていこうと思うから仕事がほしい、親を早くになくして寂しかったからこの子にはそんな思いはさせない、と。
恵みの雨が降りしきる土の匂いが強い夜に私は産まれた。
その9日後。近所のみんなに手伝いの感謝を述べて回ったその日、彼女は姿を消した。
周りは2つにわかれた。
なにか事情があって離れたのだろう、という人々。
1人で育てるのに辛さを感じて子どもをおいて消えたんだ、という人々。
だがなんにせよ、残された子どもは生きている。
仕方がないから町長がその身を預かり、近所の皆から毎月食料やら日用品やらを少しずつ分けてもらって世話をすることになった。
これは私が今聞いた話。
周りに感謝して生きなさい、とずっと町長から言われ続けてきた理由がわかった。
それにお父さんお母さんと呼ばせてもらえなかった理由も。




