旧◯◯邸
心霊スポット巡りが趣味の女子高生のれい。彼女は眼鏡をかけていて赤茶色の癖毛を肩に届くか届かないかくらいまで伸ばしている。今日のターゲットは、世田谷区にある旧〇〇邸。かつて住んでいた家族全員が突然失踪し、それ以来誰も住んでいないという噂の一軒家だ。
「ここが例の場所ね。家族全員が突然失踪したって話、覚えてる?」れいが少し興奮気味に言った。
まゆは相変わらず呆れながら「何度もあなたに聞かされて覚えたわよ…」と諦めてついてきていた。
「でもそれ以来誰も住んでないらしいし、本当に何かがいるのかもね」れいは構わず話し続けた。そして、スマホを構え家の内部を撮影し始めた。
古びた門をくぐり抜け、庭を進むと、薄暗い空気に包まれた一軒家が見えてきた。外観は荒れ果て、窓は割れ、雑草が生い茂っていた。二人は慎重に玄関のドアを押し開け、中に入った。
家の中は埃まみれで、家具や生活用品がそのまま放置されていた。リビングにはおもちゃが散らばり、食卓には誰かが急いで出て行ったような痕跡が残っていた。れいとまゆは一つ一つの部屋を探索しながら、不気味な静寂に包まれていた。
「なんだか気味悪いね。」まゆがささやくように言った。
「うん、でもここで何か起きたっていう証拠が見つかるかも。」れいはスマホを手にさらに奥の部屋へ進んだ。
二階へ続く階段を登ると、すすり泣きの声がかすかに聞こえてきた。れいとまゆは顔を見合わせ、声の方向へ進んだ。
「聞こえた?」まゆが息をのんで言った。
「うん、たぶんあの部屋から…」れいは泣き声の方向へ向かい、ドアをそっと開けた。そこには何もなかったが、異様な寒気が漂っていた。
「まゆ、ちょっと待ってて。ここをもっとよく調べてみる。」れいはカメラを手に部屋の隅々を撮影し始めた。
まゆは少し離れた廊下で待っていたが、れいが戻ってこないことに気づいた。時間が経つにつれて、不安が募る。
「れい、まだ?」まゆが呼びかけるが返事はない。まゆが部屋の中を覗き込むと、そこには誰もいなかった。れいの姿が消えていたのだ。まゆは慌てて電話したがつながらなかった。更にすすり泣く声はひどくなりまゆは慌てて家を飛び出した。
その夜、まゆは家に帰ってからも恐怖が消えなかった。れいのことが心配で眠れず、再び旧〇〇邸へ戻る決心をした。
次の日、まゆは旧〇〇邸を再び訪れた。れいが消えた部屋に入ると、そこにはれいのスマホが落ちていた。まゆはスマホを拾い、再生ボタンを押した。
画面にはれいが部屋を撮影している映像が映し出されていた。突然、れいが何かに気づき、カメラを向けた先に、すすり泣く女性の姿が映っていた。女性は顔を上げ、れいに近づいてきた。その瞬間、カメラは急に揺れ、映像が乱れた。
「れい、早く戻ってきて!」まゆは泣きそうな声で叫んだ。しかし、何も変わらない静寂が返ってきただけだった。
ふと、まゆは自分の背後に冷たい気配を感じた。振り返ると、すすり泣く女性が立っていた。まゆは恐怖で凍りついたが、女性の目には悲しみが宿っていることに気づいた。
「あなた、助けを求めているの?」まゆが恐る恐る尋ねた。
女性はうなずき、れいが消えた場所を指さした。まゆはその指示に従い、部屋の隅にある古いタンスを開けた。そこには古びた日記が入っていた。日記には、この家族が突然の悲劇に見舞われ、家族全員が亡くなったことが書かれていた。しかし、その霊たちはこの世に未練を残し、救いを求めていたのだった。
まゆは日記を手に取り、「あなたたちを解放する方法を探すわ、だかられいだけは返して、私の大事な友達なの。」と言った。その瞬間、部屋の中の空気が一変し、れいの姿が現れた。れいは無事で、少し驚いた表情をしていた。
「まゆ、何が起きたの?」れいが尋ねた。
「この家族は助けを求めていたの。私たちが彼らを解放するために必要なことを見つけたの。」まゆはれいに日記を見せた。
二人は日記に従い、家族の霊を慰める方法を探した。日記には家族みんなで娘の誕生日祝いを楽しみにしている様子が書かれていた。二人は気持ちを込めてハッピーバースデーを歌った。すると、家の中に漂っていた不気味な気配が消え、穏やかな雰囲気が戻った。すすり泣いていた女性の霊も、微笑みながら姿を消した。
「れい、無事でよかった。」まゆは安堵の表情を浮かべた。
「まゆ、本当にありがとう。怖かったけど、これでこの家族も安らかに眠れるわね。それに…」れいは照れくさそうに、しかしニヤニヤしながら続けた。「大事な友達のためならまた一緒に心霊スポットも行ってくれるでしょ?」まゆは「少しはこりなさいよほんと…」といつもの呆れ顔を作った。
二人は家を後にし、再び明るい日の光の下に戻った。旧〇〇邸での体験は恐怖に満ちていたが、同時に二人の絆を深めるものとなった。