多摩湖
心霊スポット巡りが趣味の女子高生のれい。彼女は眼鏡をかけていて赤茶色の癖毛を肩に届くか届かないかくらいまで伸ばしている。唯一の友人のまゆと土曜の夜、多摩湖に向かった。ネットで多摩湖について調べるうちに、かつてこの湖が姥捨山として使われていたという古い伝説を知ったからだ。
「ねぇ、れい。本当にここが姥捨山だったの?」とまゆが尋ねた。
「うん。昔、年老いた人をこの湖に捨てたって話があるんだって」とれいは答えた。
二人は夜の多摩湖に着くと、霧が立ち込める湖畔を歩き始めた。れいはスマホを準備し、心霊現象を記録しようと構えた。静かな湖の周りに、まるで誰かに見られているような不気味な気配が漂っていた。
「何か聞こえない?」まゆが小声で言った。
れいは耳を澄ませた。確かに、どこからともなくかすかな泣き声が聞こえてくる。二人はその声を追って進んでいくと、湖のほとりにボロボロの和服をまとった老婆の姿が浮かび上がった。老婆は泣きながら、湖の水面を見つめていた。
「姥捨山の幽霊…?」れいはカスマホを向けたが、手が震えてうまく撮れない。
突然、老婆は二人に気づき、ゆっくりと近づいてきた。まゆは恐怖で後ずさり、「れい、逃げよう!」と叫んだが、れいは何かに引き寄せられるようにその場に立ち尽くしていた。
「私を…助けて…」老婆はかすれた声で言った。
その瞬間、れいは何かを感じ取り、まゆを引っ張って全速力で逃げ出した。遠くに逃げた後、れいは息を切らしながら言った。
「まゆ、あの老婆…私たちに何か伝えようとしてたみたい」
次の日、れいはネットで多摩湖についてさらに調べた。とある心霊サイトには、老婆が捨てられた場所で恨みを晴らすために人を誘い込むという記事があった。しかし、その中には一つだけ異なる話も記されていた。老婆の幽霊は実は恨みではなく、助けを求めているというものだった。
再び夜になり、れいとまゆは多摩湖に戻った。今回はお祓いの道具も持参していた。再び湖のほとりに現れた老婆に、れいは勇気を出して話しかけた。
「あなたを助ける方法を教えてください」
老婆の目に涙が浮かび、れいに一枚の古い手紙を差し出した。手紙には、老婆が生前に書いた最後の願いが記されていた。彼女は家族に捨てられたが、最後に自分の娘に謝りたいという気持ちが込められていたのだ。
れいとまゆはその手紙を持ち帰り、そこに記されていた老婆の子孫を探した。なかなか探すのには苦労したがどうにか手紙を無事に届けると、老婆の魂は成仏し、再び多摩湖に現れることはなかった。
「れい、あの手紙を届けて本当に良かったね」とまゆが言った。
「うん、これで少しでも心が救われたなら」とれいは微笑んだ。