石神井公園
れいは、東京の高校に通う女の子。眼鏡をかけていて赤茶色の癖毛を肩にかかるかかからないかくらいまで伸ばしている。
そんな彼女の趣味は心霊スポット巡り。唯一の友人のまゆは彼女の趣味に度々付き合わされ嫌そうにしつつもなんだかんだ付き合うのだった。
れいとまゆはある日、一緒に夜中の石神井公園へ向かった。この公園は、かつて石神井城があった場所で豊島氏という氏族が合戦に敗れた場所らしい。
しかもそれだけでなく三宝寺池というところには豊島氏の姫、照姫が身を投げたと言う伝説も残されている。れいは、この城の城主の怨念が未だに漂っているという都市伝説に興味を持っていた。
夜の十一時、薄暗くなった公園に到着した彼女たちは、池の方に進んでいった。深夜でも街灯はついてはいるが池の周りは薄暗くスマホのライトも駆使しながら周りを散策した。
れいはまゆに城の歴史を語りながら、楽しそうに笑っていた。「昔豊島氏っていう城主がいてね、最後はここで命を落としたんだって。怨念が残ってるらしいよ」
まゆはまた始まったよと思いながらうなずいたが、嫌々進んでいった。やがて池にたどり着くと、れいは突然、冷たい風を感じた。
「ねえ、なんか急に寒くない?」七月にしては異常な寒さだった。
一瞬の静寂が訪れた後、まゆが「何言ってんの、七月だよ、夏風邪?」と笑った。しかし、その時れいの耳元で突然男がささやく声が聞こえた。
「何をしている…」
れいは驚いて後ろを振り向いたが、誰もいない。まゆは彼女の様子に気付き、不安そうな表情を浮かべた。
「今、誰か男の人の声が聞こえたんだけど…」
まゆはそんな声は聞こえていないと言った。れいは気のせいかと思い、気を取り直して再び歩き始めた。
その時、れいのスマホが震え始めた。何を押してもその震えは止まらず突然異常な反応をした後、やがて電源がきれてしまった。
「どういうこと…?」
まゆは恐怖で手が震え、落としそうになりつつもとっさにスマホを覗き込んだ。しかし何も映らなかった。彼女のスマホの電源もきれてしまったようだ。
「何が起きているの…?」まゆが驚き慌てていると再び背後から突然、
「どうかされましたか?」と女性の声が聞こえてきた。今度はまゆにも聞こえたらしく「突然スマホの電源がきれてしまったんです!」
「それは大変ですね、よかったらこちらに来てください」と女性の言う通りにしようとするまゆに対しなぜかれいはその場を動こうとしなかった。
「れい、はやく行こうよ!」
とせかすまゆを無視して
「この暗がりにあなたこそどうされたんです?」
とれいはその女性に聞きながら、冷静に鞄から懐中電灯を取り出しその場を照らした。
そこには確かにれいとまゆ、二人分の影が伸びていた。
まゆにはもうそれ以降の記憶はあまりない。れいに手を引かれながらも無我夢中で走って逃げていた。