ブラックホールは……
ブラックホールは別の宇宙と、この宇宙をつなぐ扉である可能性が高い。
そのことがある研究機関で発見され、瞬く間に世界中へと広まった。
ある一定の人々は、知らない場所への期待に胸を高鳴らせた。
また、ある一定の人々は、別の宇宙の生物が、このことに気づいてしまったら、地球が侵略されてしまうかもしれないと怖がった。
そして、一定数の人々は、宇宙へ行き、ブラックホールに入りたいという野望を持ち始めた。
当時女子高生だったわたし、ノアも、そんな野望を持ったうちの一人だった。
「はあ、ブラックホールに行きたいなあ、お金が欲しいなあ」
が口癖となり、毎日のようにバイトをしてお金をため、インターネットや町の掲示板など、いろいろな手段を使って一緒にブラックホールに行ってくれる仲間を探していた。
2年が経った。それなりにお金もたまった。本気でブラックホールに入りたいと思ってくれる仲間も4人ほど集まってくれた。アオイ、リク、ミア、レオである。私たちは5人でよく集まって、遊んだり、宇宙へ行くため筋トレジムに一緒に通ったりを、ブラックホールに行くための手段を考えたりしていた。そして、少しでもお金を集めるため、動画投稿サイトなどで告知をし、援助してはくれないかと呼び掛けたりもした。たくさんの人が応援してくれたが、援助してくれる人はそのうちの70分の1にも満たなかった。世知辛い世の中である。
ある日、どのようにしてブラックホールへ行くかということを5人で集まって話していると、皆が参加しているSNSのすべてのアプリから通知が届いた。開いてみると、
『当選通知』
という言葉が最初に目に入った。何のことかわからない私たちは、顔を見合わせた。とりあえずそれぞれ、読み進めていった。
要約すると、
・どこかの大富豪が、ブラックホールに行きたい者・団体に、抽選で3団体にロケット、訓練費、その他もろもろの費用を出すことにした。
・私たちがそれに当たった。
・5年後に、ブラックホールに行く。
・今から3日以内に当選を受け入れる旨を伝える返信をしなければ、当選は撤回される。
・なお、参加の表明をしたら、よほどの理由がない限りは必ず参加しなければならない。
だった。私たちはまたも顔を見合わせた。
「行く?」
「皆、行きたいに違いないんじゃないかな。たとえいたずらメールだったとしても、乗ってみる価値はあるんじゃないかな」
「行くしかないよ。これを逃したら絶対に後悔するよ」
「絶対に私は行くのです!」
「行く以外に選択肢はあるか?いや、ない!」
満場一致。皆で、行きます!と返信メールを送った。
数日後、宇宙へ行くための訓練の日程が届いた。どうやらいたずらメールではなかったようだ。私たちは喜び勇んで、初日の訓練へ向かった。拷問かと突っ込みたくなるような訓練の数々だったが、ブラックホールへ行くんだと自分に言い聞かせ続け、乗り切った。
そしてなんと、その富豪が国に掛け合い、私たちが民間で最初にブラックホールに行く、ということづて(命令?)をもらってきてくれたのだ。
3日目の訓練が終わったころ、リクがもうやめたい、と言い出した。
「俺は、ブラックホールに行きたいよ。その気持ちに変わりはないし、今も、そう強く思っているよ。だけど、行きたいのと、行けるのとでは違うんだよ。俺はもともと体力もないし、いざというときに使える知識も、知恵もないよ。どれ一つ取ったって皆の役に立てないんだよ。だから、俺はブラックホールには行けないよ。ごめんよ。応援してるからよ。皆、頑張るんだよ」
泣きながらそういうリクに、皆、何も言えなくなり、うつむいてしまった。
「そんなの、関係ないと思うのです」
沈黙を破ったのは意外にもおとなしいミアだった。
「え?」
「だって、抽選で、私たちが行けるってなったのも、ブラックホールに行きたいのですよ、っていうことを、発信して、それがお偉いさんたちの目に留まって、抽選対象になったから、なのですよね?別に、行きたい気持ちがあれば、いいのだと思うのです」
ゆっくりと、言葉を選びながらでも、たどたどしくても。ミアはリクを引き留めようと必死だ。ミアに感化された私もしゃべりだした。
「ミアの言うとおりだと思うんだよ。体力がないならつければいいんだよ。知識をつけるのは大変だけど、体力をつけるのは誰でもできるんだよ。あきらめちゃだめだよリク。夢は、かなえるためにあるんだよ」
リクは瞬間、固まった。文字通り固まった。数秒後、何かを考えるようにしゃがみこんだリクは、涙を流していた。
「ななな、なんで泣きながら微笑んでいるんだリク!?とても気味が悪いぞ!」
「きっと、うれし泣きなんじゃないかな」
「皆、ありがとう。おれ、もう少し頑張ってみようと思う」
よかったぁ~。多分皆、こう思っていた。
「それに皆、覚えているか?あのメールの最後に、絶対参加すること、みたいなことが書いてあったぞ!だからリクはやめられないんだ!」
「そうだったのかよ!じゃ、もうやめられないな!」
そう言って、にかっと笑った陸の顔に、迷いは見られなかった。
3年後。
皆ムキムキマッチョになっていた。いや、ぱっと見ではわからないが、腕に力をこめると力こぶがふくれあがるし、お腹はシックスパックに割れている。その他いろいろ、筋肉がすごい。リクとレオは前よりもちょっとモテるようになったらしい。
筋トレにはまった私は、トレーニングに通うほかにも、自宅で筋トレもしていた。
「ブラック……ホール!ブラック……ホール!」
自分なりに掛け声を出しながら、ダンベルを持ち上げ、おろす。20回やったら、休憩する。それをくり返す。
ああ、今日も筋肉が喜んでいる。そう感じながら休憩をとっていると、メールが1通、送られてきた。私がいつもブラックホールについて調べているのを認識した携帯が、関連するメールを時々送ってくれているのだ。とりあえず、メールに添付されているリンクをタップし、ニュースアプリを開く。
「え?どういうこと?」
思わずそんな言葉が口を突いて出た。そこには、
・とある民間企業がいくつかのグループに分かれてブラックホールに行った。
・ブラックホールに吸い込まれたが、行きついたのは、様々な惑星の火山の噴火口だった。
・よって、ブラックホールは別の宇宙にはつながっていない。
ということが証明されたと書いてあった。
パニック状態に陥った私は、とにかく皆の意見を聞こうと、SNSの画面通話ツールを開いた。
皆も同じようなことを考えていたようで、すぐにつながった。
「ねえ、これどういうことなのかな?」
初めに、メイが半ギレの笑顔で口を開いた。
「どういうことなのか?まったくわからないしわかりたくもない!」
レオも笑顔で答える。
「皆さん、わからないのなら私が教えて差し上げるのです」
と、悪魔も真っ青な黒い笑みでつぶやくミア。どうやら相当怒っている。
「まず、どっかの民間企業さまさまが、自費でロケットなどをおつくりになり、ブラックホールへめがけて発射をなされたと。それで、私たちの夢をぶっ壊しやがったのですよ」
うわーこれすごいぞ。ミアがぶちぎれてるよ。怒らせちゃいけないタイプだってうすうす気が付いてたけど。
皆で怒りをぶつけあっているうちに、皆のもとにもう一通ずつ、メールが届いた。そこには、
・ニュースで、ブラックホールの可能性が大幅に狭まったことが発表されたため、資金援助は中止とする。
・なお、今までの資金は回収しないため、安心してほしい。
との旨が書かれていた。
さらに皆はぶちぎれた。それはもう、すごかった。ミアとか部屋の中がめっためっただったもん。
やがてみんなの怒りが収まった時、メイがぽつっといった。
「あのさ、こんなこと言うのは青臭いかな、って思うけど。私たち人間って、いろんなことを思うし、感じるでしょ。それこそ無限に。宇宙も、ほぼ無限に、ずうっと広がっていくものじゃないかな。そんな宇宙の奇跡に心ひかれた私たちが出会えた。夢は途絶えてしまったけど、私たちが出会えた、もうこれだけで奇跡だと思っていいんじゃないかな。だから、えっと、言いたいことはつまり、その」
いったん止まったメイは、大きく息を吸って、言った。
「私たちの夢はかなわなかったかもしれない。でも、最高の仲間が、できたんだよ」
最後がキマりませんでしたね。なんかベタ中のベタというか。自分的には微妙です。
何か良いラスト思いついた人、教えてください。