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配信1枠目 数年振りに外に出てみた。


 さて、今は何時だろうか?夜か?夜だな?夜だよな?皆おやすみなさいの時間だよな?頼むからそうだと言ってくれ。いや、別にこの際、昼間でも問題は無い。


 ただ単に、これが…この景色が…この光景が。作業のやり過ぎで睡魔に襲われ、限界を迎えた事により見ている夢であって欲しいと願う。


 そのビルの電光掲示板。そこには、化粧品を片手に持つイケメンな俺が写っていた。まるでCMかの様に、その化粧品を宣伝している。


 いや、普通にCMだ。コレ。


———

——


 時は数時間程遡る。


「ふー…」


 疲れた。そんな事だけを考えて、俺は1人しかいない癖に無駄にスペースの多い部屋の中、重い溜め息を吐いた。


 その手には握り慣れた液晶ペン。そして、先程まで作業に勤しんでいた机の上には、液晶タブレットがある。


 ここまで言えば何と無くは分かると思うが、俺は絵師だ。確か、中学生くらいから活動している様な気がするので…8年程か?SNSを利用して絵師になってから計8年が経過している筈だ。


 始めた当時は色々あったが…今は全く関係が無いな。この話はいつかの機会にしよう。うん。多分、しないな。


 一応、配信者の友人による勧めで、配信等にも手をしていたりする。因みに、その友人の動画編集者でもある。それ故に、収入の殆どがそこから来たりする月もある。絵師とは?


 まぁ、そんな事は良い。それよりも俺は今お腹が空いている。そう。お腹が空いているのだ。


 時刻は午後に入って数時間。本来なら自炊の昼食。又は、インスタント麺でお腹を満たしている時間帯だ。


 しかし、今日に限ってそれは上手くいかなった。蓄えていたインスタント麺は何故か底を付き、自炊しようにも、ここの所は忙しくて食材を補充していなかった。


 おかしい。計算上では明後日まで問題無かった筈だ。だからこそ、食材をいつもの様にネットで買っていないのだ。


 何が原因だ?思い出せ…思い出せ……あっ。先日泊まりで完徹ゲームパーティーをしたな。唐突に決まった事だったので失念していた。何をやっているんだ俺。


 昼間だろうが常に閉まっているカーテン。その隙間からは暑そうな日差しが差し込む。数時間後には夕方だと言うのに、燦々と鋭い日差しだ。


「外は暑いだろうなぁ……」


 だが、俺のお腹は酷く空腹を訴えている。飲料水で誤魔化しながら最高裁まで争うのも悪くは無いだろう。


 しかし「最近、お前ガリガリだし不健康気味だぞ」と、筋トレを勧めてきた友人の一言が突き刺さる。黙れ脳筋プロテイン。ナイス細マッチョなお前に何が分かる。


 でも、最近は布教を諦めたのか、筋トレを勧めてくる事はない。そうそう。良いんだよ、そういうので。


「はぁ……」


 またしても溜め息が口をついて出る。コレは諦めの溜め息だ。「仕方がない。久方振りに外に出ようでは無いか」と、言う意味がこもっている。


「外に着ていける服はあったかな…」


 少しの間、ほんのちょっと外に出るだけだ。オシャレする意味は全く無い。しかし、この選択はかなり意味のある物だったと、今となっては言える。


———

——


 クローゼットの奥に仕舞われた…って、訳でも無い、ただオシャレな友人に勧められたと言うだけの、ただの服に身を包み、俺は街に出た。


 こんな昼間でも容赦無い日差しが身体を突き刺して、俺はこれっぽっちも目が開けられない。あまりの眩しさに帽子を買ってしまった。ネットで。


 届くのは長く見積もって5日後くらいだろう。一体、何をやっているんだ俺は。外に出たんなら店頭で買えよ。


 ああ、当然だが俺はぼっちだ。飲食店になど行く事は出来ない。そんな勇気も無い。よくチー牛だのバカにされているが、1人で飲食店に行けるだけ、もう少し自信を持って欲しい。俺が可哀想だろ。


 と、言う事で、今はショッピングモールに付属されたスーパーに顔を出している。このスーパーには久し振りに来たが、内装は全く変わって無いな。


 1から探すと面倒なので、かなり助かった。値段も変わってないと嬉しいのだが…現実はそう上手くいかない。一割程は値上がりしていた。時間の流れって怖い。


「ありがとうございます」


「あっ、ありがとうございました!」


 何処がきょどっていた店員さんに返事を返され、俺はレジから少し離れた台の上でレジ袋に食材を詰める。


 さっきの店員さん。名札に書かれた研修中の通り、まだ接客に慣れていないのだろう。だとしても、あまりそうジロジロ見られるとコチラとしては恥ずかしいです。


 そんな事を考えながら、スーパーを後にする。それにしても、何だか周りの視線を感じる気がする。上着が裏返ったりしているのだろうか?


 うわ、マジか。マジで裏返ってんじゃん。恥ずかしい。店員さんはきょどっていた訳じゃなく、単に服のタグが気になってただけか?


 そそくさと上着を治し、俺はショッピングモールを出た。やっぱり、日差しが眩しいな……


 ねぇ、俺にまだ変な所ある?やっぱり視線を感じる。と、言うか、普通に見られてる。ほら、如何にも学校帰りの様なJK2人組がこっちを指差して話してる。


 陰口か?やめてよ。泣いちゃうぞ。普通に暴言吐かれた方が3倍くらい楽なんだぞ。


 少し下がったテンションで、俺は帰路に就く。そして、ビルに着いた電光掲示板のCMが、何故か耳に付いた。


 それはまるで、昔よく聞いていた歌を久しぶりに聞いた時や、学生時代の友人と街でばったり遭遇した時に、耳がその声を聞いたりしては、身体が勝手に反応するのに似ていた。


 そして、俺は無意識の内にその電光掲示板に目を向けたのだ。


 後は言うまでも無い。初めに戻る。


———

——


「出た記憶のないテレビに、俺が出演している…」


 その場から逃げる様に帰ってきた俺は、数年振りに電源を入れたテレビの前にがっついていた。


 受信料は払った記憶も無ければ、取り立てに来られた記憶も無い。これはそんなテレビだ。そして、バラエティー番組だと思われるそれに、俺がゲストとして出演している。


「名前も一致してるのは何故だ?同姓同名な上に、容姿までそっくりさんだと…?」


 髪型を変えるだけでも印象違うなぁ…じゃないんだよ!誰だお前!俺か…!?(疑問)俺だな(確認)俺じゃねぇか…(確信)


 違う!そうじゃない!俺はテレビに出てない!落ち着け調べよう。ググれば何か分かる筈だ。


「ふむ」


 スマホに表示された検索結果。さも当然かの様に、俺の顔写真が登場する。どの写真も見覚えのない上にイケメンだ。なんでだよ。髪型が違うだけだろうが。


「はっ!?ウィキ○ディアさん!?」


 思わず声を上げてしまった。何であるんだよ!俺の記事!ここまで来たら怖いもの見たさで中身が気になるわ!


 そんなツッコミを心内で爆発させながら、俺は震える指でウィキ○ディアを開いた。


「しょ、職業俳優…!?」


 演技なんかした事ねぇよ!あっ、いや。した事ないは流石に嘘。一応、高校は演劇部だった。公演した記憶は無いが。まぁ、公演しないからこそ、楽で選んだんだけども。


「22歳…11月18日生まれ…男性…身長174センチ…完全に俺じゃねぇか!」


 でも、俺の絵師や配信者としての活動は載っていないのか…成程…?まぁ、当然と言えば当然か?身バレした事ないし…


 でも、なんか違うくないかなぁ!?俺は知らないよ!?マジで!こうなったらトコトン調べてやるよ!


「え…?あ、貴方は人気俳優なんですか?ん?トレンドにもなってる?……あら〜^」


 見たところ、アイドルみたいな売り方をしているそうで、女性人気が強いらしい。それに、モデルもやっている様で、雑誌の表紙にもなっているそうだ。


 知らねぇよ。誰なんだよ、このイケメンは。しかも、何で腹筋割れてんだよ。俺、割れてねぇよ。原作を遵守しろよ!


 いや、この場合の二次創作は俺か?クソッタレ…この腹筋を見てると、脳筋プロテインの顔が鮮明に浮かぶ……まさか、お前が筋トレを勧めてこなくなったのは、この雑誌の俺を見たからか…?


 一度、詳しく事情聴取しなければ。


 …さて、話が逸れたな。無意識に現実逃避している気がする。一旦、落ち着いてまとめようか。


 もう1人の俺…面倒なので俺Bと呼ぼう。は、あくまでも別人であり、容姿。名前。性別。年齢。身長が同じである(体格は別)この際、芸名の可能性は除外しようか。面倒だし。


 そして、俺Bは、人気の俳優であり、モデルでも有る。そして、トレンドにのるほどの話題性を持っている。


 ふむ。成程な。この俺とよく似た人は、物凄い人気が有る様だ。それは凄いな。住んでる界隈が違い過ぎて知らなかった。トレンドに関してはたまたま目に入らなかったらしい。


 何とか落ち着きを取り戻し、俺はウィキ○ディアの記事に目を通していく。


 おや、なんだい?この不穏な記事は。題名は『私の嫁はそんな事言わない事件』…かなり、不穏な空気を感じるな……


 内容としてはこうだ。


 とあるファンがおり、そのファンは所謂ガチ恋と呼ばれるものだった。そして、とある動画投稿者が、俺Bが登場するネタ動画を投稿した。そのガチ恋ファンは、投稿されたネタ動画にマジギレして、動画投稿者の家へ、包丁片手に『私の嫁はそんな事言わない』と叫びながら凸したと。


「は?待て待て。ツッコミ所は多いが落ち着け。なんてこった…」


 この記事によると、その俺Bの出演したネタ動画では、俺Bは「何言ってんだ」や「阿保か?」等の友人との会話で使われる様なセリフしか無かった。そう書かれている様に見える。見間違いか?


 これはマズい。とてもマズくないか?そのファンは当然警察に捕まった様だが、そんなファンが居たと言う事実が今は問題だろう。


 俺。配信内の言動やSNSの呟き。その他諸々で、どんな言葉を使っていた?


 さて、ここで俺のSNS上での活動を紹介しよう。先ずは絵師。たま〜に際どいイラストを投稿したり、依頼を受けてゲームのキャラクターイラストを描いたりする程度だ。ここは問題無いだろう。流石に許せ。


 問題はオタク発言を繰り返している事だ。無論、()()()()()()だが「ドゥフフwwwコポォwww」や「○○は俺の嫁」等は勿論の事。『もう赤ちゃん産めそうな身体だね』略して『もう赤』と似た様な、変態チックな事を呟いた記憶もある。


 少なくとも、先の様なファン相手だと、琴線でスパイク履いてタップダンスしては、逆鱗にチェンソーを突き刺してるレベルの発言である。


 い、命の危機を感じる…!


 更に、配信の方ではネットミームにばかり手を出している。つまり『取り消せよ…!今の言葉…!』だったり『止まるんじゃねぇぞ…!』だったり『それって貴方の感想ですよね?』だったりを口にしている。特にヤバいのは、BB素材豊富な例の先輩である。


 ふむ。死んだか?


 とりあえず、なんだ。俺は身バレしてはいけなくなったらしい。此処から入れる保険って有りますか?


 後、ネタが古いとは言ってくれるな。俺の青春はニコ○コ動画なんだよ。ネット老人って訳じゃ無いが、ネット中年くらいなんだよ。


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[気になる点] >>黙れ脳筋プロテイン。 このセリフで主人公の程度が知れた
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