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天に浮かぶは、青い宝石

作者: 空川 億里

 私はまだ若い頃から、夢観ていた事がある。いよいよそれがもう間もなく実現するに違いないと考えると、感無量の気分であった。

 眼前に13人のVIPがいる。かれらは皆人種も宗教もバラバラだ。ヨーロッパやアフリカ、アジアの様々な国から来ていた。

 いずれも国家の指導者で、自国の軍隊を他国に送って侵略をしかけているのだ。そのかれらが、窓外に浮かぶ地球を観ていた。

 どの顔も、人類のふるさとの美しい景色に目を奪われている。

 今かれらと私がいるのは、ドーナツ型の宇宙ステーション「エンジェル・リング」の中だった。

 このステーションは、一代で財を築いた私の所有物である。13人のVIPをここに集めるのは、並大抵の苦労ではなかった。

 皆猜疑心の強い連中ばかりだったから。今まで多くの者達に恨まれてもしかたない所業を行ってきたのだから、無理もない。

 全員が、人間やロボットの護衛をつけている。指導者達が地球の景色を堪能した後、全員と個人面談をする予定だ。

 個人面談とは言っても、護衛はつけてよい事にした。最初に面接をしたのは、あるアラブの王国の君主である。

 彼の命令で彼の国の軍隊は隣国を侵略していた。

「国王陛下」

 私は彼に呼びかけた。

「宇宙から観た地球の光景はいかがでしたか?」

「素晴らしかった。来て良かったよ。まさに青い宝石だな」

「ここから人類の故郷を観てると、戦争なんてバカらしくなりませんか?」

「それとこれとは話が別だよ」

 国王は苦笑する。

「君が平和主義者なのは知ってるが、私には大義があって軍を進めているのだ。隣国を支配する腐敗した指導者を成敗し、隣国の国民を圧制から解放するのだ」

 国王は、彼自身が自国で行っている少数民族への虐殺や、平和的なデモ参加者への発砲の事等ないかのように、宣言した。




 その後他の12人とも面談したが、その反応は異口同音に、自ら行った侵略を肯定し、兵を引きあげるつもりはないと断言したのだ。

 ヨーロッパから来た大統領も、アジアから訪れた独裁者も、アフリカから登場した将軍も、スタンスは皆一緒である。

 宇宙から美しい地球を眺めれば、欲にまみれた圧制者達の全員でないにしろ1人ぐらいは心変わりし、侵攻軍の撤退を考えるだろうと予想した私が甘かった。

 考えてみれば元々善人でないからこそ外国を侵略できるのだ。

 かつてはまともな人物だったかもしれないが、長年権力の座にいるうちに変わり果てたのかもしれない。

 人は誰しも生まれた時は、ピュアな赤ん坊なのだから。いやすでに、赤子の時に人間の残酷な遺伝子を受け継いでいるとも言えた。

 人は他の動物を捕食し、人間同士でも争いあい、殺しあう。これは何も人類だけではない。

 私は以前ラッコの生態を撮影したドキュメンタリー番組をホロテレビで観たが、オス同士で喧嘩したり、オスがメスと、メスの連れ子を襲って連れ子を殺したりもするそうだ。

 ラッコだけではない。ネットで調べたが、チンパンジーやライオンやイルカ、カモメやミツバチも同族殺しをするそうである。

 人間だけでなく動物の持つ本能なのだろう。悪いのは13人の権力者だけではない。かれらに武器を売る者達。

 かれらを英雄として称賛する人々。13人の中には投票で選ばれた指導者もいるが、投票した有権者にも責任がある。

 だがそれも、人の本能がなせる業なのかもしれない。

 私は13人が去った後の応接室でがっくりと肩を落とし、しばらくそこから動けなかった。

 が、ようやく壊れた人形のようにぎこちなく立ち上がる。我ながら甘ちゃんだった。

 今の地位を手にするまでに色々あり、人間の汚い部分も散々見てきたはずなのに、性善説を捨てきれなかったのだ。

 重い足を引きずりながら、書斎に向かう。書斎の机の隅っこにスイッチがある。これを押すと1分後に宇宙ステーション自体が爆発。

 13人の悪党共は砕け散り、バラバラの肉塊となりはてる。奴らが死ねば、奴らの始めた戦争は終わるかもしれない。

 私は震える指先で、スイッチに手をふれた。

 

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