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音神  作者: 橘 凛恩
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I 音統べる者(1)

初めまして!

たちばな 凛恩りおんと申します†


年齢制限とかなく普通のファンタジーを書きたくなり、かなり昔に書き始めていたお話の続きを書く事にしました。

もう15年くらい前から大雑把に話の筋は決めていますが、此処数年は書き出すとトランス状態のようになって初期設定から全く似ても似つかないものへと変貌する事が起きていたので、あらすじに関しては未だ細かくは書き込めません。

そして、全年齢対象とはなっていますが、弟曰く、かなり文章が重いらしいです。

まぁね、ライトノベルとして書き始めた訳じゃないし、当時は分厚めのファンタジー系児童文学を読むのがマイブームだったし…。

なので、読みづらかったら御免なさい。

あはははッ(//∇//)

 初メ、金色ノ光ヲ纏ッタ者ガ、音スラモ無イ闇ノ中ニ生マレタ。


 丸マッテ空ニ浮カンダ体ヲ広ゲルト、彼ハ産声トモイエル第一声ヲ発スル。


 ――あぁぁぁ……


 ソノ低ク深イ声ハ、何モ無カッタ闇ノ世界ニ泥ノ渦ヲ湧カシタ。


 彼ハ其処ニ降リ立ツト、泥ヲ何度トナク踏ミ締メル。


 コレガ大地ト為リ、海ト為ッタ。


 ――あぁぁぁ……


 ソノ高ク澄ンダ声ハ、闇ヲ切リ裂キ、真白ニ輝ク光ヲ生ンダ。


 ソレカラ彼ハ両腕ヲソノ頭上高ク掲ゲル。


 上ヘ下ヘト光ガ広ガルヤ、天ト地ガ完全ニ分カレ、右掌カラハ太陽ガ、左掌カラハ月が生ジタ。


 ソノヨウニ歌イ踊リ続ケテユクウチニ、様々ナ音ガ大地ト海、ソシテ空ヘトブツカッテ、沢山ノ泡ガ散ッタ。


 地上ニハ、幾多ノ植物ヤ動物。


 空ニハ、雲ヤ星。


 数エキレナイ程ノモノガ、ソノ泡カラ生マレタ。


 ヤガテ力使イ果タシタ金色ノ君ハ、終イニハ声ダケヲ残シテ、何処ヘトモナク消エ去ッテシマッタ。



                       『ル・オズ・アルディエ記』第一章・第一節より




▶︎  Ⅰ  音統べる者  ◀︎




 いつにもまして大きく見える太陽が、山の端に沈みゆこうとしている。


 夕焼け色に薄く染まった湖を望む草原。そこに青年が一人佇んでいた。肩に小さな荷を掛け、小脇には色褪せくたびれた竪琴を抱えている。


 湖をぐるりと囲んだ山並みは、彼の立つ南岸を除いた三方をほぼ占めていた。その中央から右手にかけて、山のなだらかな斜面を覆う木々が燃えるように色づいている。


 深い翠色で彩られた瞳は、だがその反対側、色濃く影を落とし始めた西の麓を眺めていた。湖のほとり。そこに黒々とした山林を背にした城を見つけたのだ。


 ロザルディアという名の、この国に足をついてから半日。


 のどかな田園風景を楽しむ間も、風の運ぶ楽の音を何度となく耳にした。ある時は、心も足取りをも弾ませる、軽快なリズムを。ある時は、適当な岩にでも腰掛けて青空をただひたすらぼんやりと眺めていたくなる、緩やかなリズムを。


 それは確かに、誰かがなんらかの楽器を手に奏でた音であるに違いなかった。一人で奏でていると思われる曲もあれば、少なくとも一〇人以上で大掛かりに合奏しているように聴こえる曲もある。


 が、肝心なところはそこではない。若者の心をひいたものは。


 楽器の音が織りなすものであるのに、音そのものを耳にしているという事実を一時的に忘れさせるもの。それらの楽は、現実として今あるはずのない風景をかいま見せ、あたかも、今この瞬間その場にいる感覚を起こさせた。


 朝もやの中、草の露が地に零れゆくさま。初陣を前に緊張した若人の、胸の高鳴りと息づかい。野生馬の群れが駆けめぐり刻み込む、大地の震動――。


 いつ始まるとも終わるとも分からぬ曲の幾つかめを聴き終える。すると、彼は溜息とともに腰をあげ、風の流れ方を調べ始めた。その音がどこからやって来るものか知りたくなったからだ。ただ楽しんで耳を傾けるだけでは物足りない、と。


 幾多の民が畑に種を蒔く手を休め聴き入る中、青年は風の吹く向きを逆に辿って歩を進めた。


 春先の田園を抜け、人々の行き交う町を通り過ぎ、見渡す限りに新緑広がる草原を突っ切った。似たような風景を何度となく通り越しながら、ひたすら前へと歩んでゆく。


 人間の足の、なんと不便なことか。


 それでも彼は歩き続けた。乗り馬を貸す所もあったし、同じ方角を目指しているのだろう乗合馬車に途中で出くわしたにもかかわらずだ。


 銀色の髪を風が撫でては去ってゆく。白く小さな花びらが肩に舞い散るかと思えば、砂埃が白かったはずの丈の長い衣をうっすらと汚してゆく。


 彼の足を緩めることなく動かし続けたものはただ一つ、あの楽の音だけだった。


 そうして彼はようやっと今、この湖に辿り着いたというわけだ。


 夜の訪れを待ち望む鳥の鳴き声に促されるようにして、彼は水際の方へと下ってゆく。楽の音はいつの間にか止んでいた。


 草に足をとられ、一度危うく斜面を滑りかけると、風が耳元に絡みクスクスと鈴のように微かな笑い声を残した。


「そう笑ってくれるでないよ。下へは久々に足を運んだのだから」


 くすぐったげに微笑みながら、風の精たちをたしなめる。その無垢な笑みは、少年のもののように柔らかい。


 姿こそ見えないが、風のあるところには必ず風の精霊がいた。


 ただ、その存在を知る者も少なければ、感じることのできる者は更に少ない。風の音にまぎれている精霊の声を聴き取れる人間など、本当に稀なのだった。聴覚が優れているか否かで決まる能力ではないのだから。


「本当に久し振りだというのに、思った以上に一日でたくさん歩いてしまったよ……お前たちの乗せてきた音のおかげでね」


 首筋に胸にとまとわりついてくる精霊にそう言いながら、ふと青年は考えてみた。


 風に乗って流れ広がってゆく楽の音。ここまで歩いてきた道のりでは、普通の人間ならばとっくに膝が立たなくなっていたことだろう。というのに、かすれることなくはっきりと音が風に乗ってくるとは……。


 精霊たちがあの楽をよほど気に入っているのだろうことは明白だ。それにしても彼らの心をもとらえる音を紡ぐとは、いったいその奏者はどのような者なのだろう。


 湖のほとりに下り立つと、向かって左手に船着き場を目にした。麦藁色が美しく、縁に植物模様の装飾を施したゴンドラが一艘、緩やかな波に抱かれるままに小さな桟橋に横付けしてある。


 その橋の上では、二人の男が腰を下ろしていた。もう山の陰へと隠れかけている太陽を、水筒片手に眺めながら。


 若い旅人が草を踏み近づいてくる音に、左側に座している者がゆっくりと振り返り、そして立ち上がった。


「見かけない顔だな。旅でもしているのかい?」


 風が、銀糸で刺繍を施した藍色の服の裾を払い、つばの広い同色の帽子を彩る白い羽飾りを撫でていた。渡し守にしては小奇麗な身なりだ。


 青年は一瞬考え込んでから、一つ頷いた。


「まあ、そんなところだろうか……ところで、この舟はあの城へ?」


「ああ、そうだよ。お前さん、この湖を渡りたいのかね?」


 ただ彼を見つめるばかりだった年配の渡し守が、今度は口を開いた。若い仲間と同じデザインの、だが青紫色をした服を纏った彼は、鼻から下にムクムクと白髭を蓄えている。


「うむ。渡してくれると嬉しいのだが」


 渡し守たちは顔を見合わせた。


 どこの骨とも分からぬが、城へ渡らせてよいものだろうか。夕暮れ時だ。我々も城へ戻らねばならない。まあ、見たところ悪意を持っているように見えないのだけは確かだ。


 竪琴を手にしているところを見ると、どうやら吟遊詩人のようだが、腕のほどはどれほどのものだろうか。楽をたしなむ者には温情を施すのが、王の信条の一つではあるものの……。


「城には何か用が? 今日は特にこれといって客人を渡らせるといった旨は伝えられてはいないんだが」


 胸を張り、心の奥まで見透かす眼差しでもって、若い渡し守はそう言った。利発そうな目の輝きは、厳しさをたたえはしても汚れた感情とは無縁そうだ。


 彼らの仕事は、大きく分けて二つあった。一つは、城への訪問者をゴンドラに乗せ、この少しばかり広い湖を渡ること。あとは、不審な者を見分け、追い払うという警護の役目も一応は担っていた。


 とはいえ、どういった加減だろうか。大事に至るような事件は、建国以来なぜかこの国では一度として起こったためしがなかったが。彼らにしても、怪しい様子の者に出会ったことなど、ほとんどないに等しい。


 湖を迂回してゆく道もないではない。が、湖上から眺める周りの景色はことのほか美しく、国の内外を問わず評判だった。


 城内から流れ出てくる音に身をまかせ、物思いにふけるひと時を愛する者は多い。季節の移ろいのためだけではない。深く、だが澄んだ楽の音の紡ぎだす様々な世界によって彩られ、一瞬として同じ呈を見せることのない風景。それは、どのような者にもなにかしらの感慨をもたらした。


 誰が言い出したかは分からないが、いつしかここは『幻想の宝庫』と呼ばれるようになったのだった。


「招待を受けている訳ではない。ただ、あの城から流れてくる音楽にひかれてきた……奏でる者を一目見てみたいものだと、そう思ったものだから」


 右腕に抱えたままの竪琴を、左手で愛しげに撫でる。


 その様子に他意なきものと見てとった老渡し守が、静かに歩み寄り、そして微笑んでみせた。その零れるような笑みは、良い歳のとり方をしている者のそれだった。


「わしらは夜勤の交代が来たら城に戻らにゃならん。お前さん、帰りの舟で一つ、歌でも聴かせる気はないかね?」


「あなた方の耳に馴染むかは分からないが、それでも良いのならば」


 渡し守は満足顔で頷くと、そのまま脇を通り過ぎ、すぐ傍に佇む砂岩造りの小屋へ入っていった。


 交代の者を乗せたゴンドラが二艘、夕陽去りゆく湖面をゆるりと進んでくる。西日の最後の一筋が消えると同時に、それぞれ舳先にかがんだ者が仄かな光をたたえたランプをかざしているのが見えた。漕ぎ手が一人ずつと、どうやら四人がこちらへ向かってくるらしい。


 青年が夜の訪れをのんびりと鑑賞している間にも、渡し守たちは帰り支度を整えてゆく。


「名は、なんという?」


 不意に耳に届いた言葉に、ただひたすら景色に見とれていた若者は目をしばたたいた。小さく息を吐くと、声のした左下の方へゆっくりと首をめぐらす。


「それは、私の、ということなのかな」


 出立準備を終え、櫂を手にゴンドラに乗り込んでいた若い方の渡し守が呆けたように見上げている。どうやら彼のしぐさに思わず目を奪われていたのか、慌てて決まり悪げに旅人から目をそらし呟いた。


「……あんたの他に誰がいる……」


「確かに」


「それで、なんていうんだ? いつまでも、あんた呼ばわりされるのも心外だろう? ちなみに俺は、カルム。カルム・アヴィーネだ」


 差し伸べた手を小首を傾げて見つめる相手に、カルムは「荷物を貸しな」と苦笑した。


 握手をする習慣は、ロザルディア特有だとは思えなかった。時折やって来る近隣諸国の人々も、大して変わらぬ行動をとるのだ。


 そうはいっても、噂によるとこの世界は一介の人間には想像も及ばないほどに広いのだという。ならば、感覚の違った人種が見知らぬ土地にいてもおかしくはない。きっとこの青年は、その一人なのだろう。それだけのことだ。


「ああ、有難う。私は……」


 ほんの一瞬だったが、青年はどこか痛みにでも耐えるような表情を浮かべた。しかし、それはカルムの目に留まることはなかった。ちょうど、青白い影を残した顔を隠すかの如く、長い髪を風が撫で上げたからだ。


「私は、ウィルディエル」


 軽い吐息とともに、その名は告げられた。


「ウィルディエル、だって?」


 カルムは、もう少しで受け取った荷を取り落とすところだった。右に左にと、ゴンドラが大きく揺れ始める。慌てて両手で荷袋を抱え込んでから、なんとか足をとられぬようにバランスを取り戻す。


「……ウィルディエルか……」


 この国の者でその名を耳にしたことのない者など、一人としていはしなかった。それこそ揺り籠から墓場まで、皆その名とともに人生を送るのだ。


 そうはいっても、これは単なる偶然の一致に過ぎないのだろう。ロザルディアと他国とでは、この名前の重さなど天と地ほども違うのだ。物好きな異教徒が、興味本位で息子につけたとしてもおかしくはない。


「申し訳ないが、そちらに移るのに手を貸してもらえないだろうか」


 左脇に竪琴を抱え直す。ウィルディエルと名乗った青年は、伏し目がちに右手を差し出した。


「あ、ああ、そうだったな……すまない、ついうっかりして」


 手をもう一度差し伸べる。だが、支えるための掌にかかった負荷は、落ちてくる羽を摑んだかと思うほど、ひどく軽いものだった。しっかりと握ったというのにだ。


 ゴンドラに乗り込み腰を下ろす相手の様子を、カルムは右手を握ったり開いたりしながらじっと見つめていた。


 離した手に、光に触れたような感触が残っていた。摑もうとした瞬間、何か目に見えない力がその手を優しく包み込むのを、渡し守は感じ取ったのだ。そして、握ったと同時そこから七色の光が飛び散るのを、ほんの一瞬だが彼は目にした。


 あれは単なる錯覚だったと、そう片付けるべきなのだろうか――。


 それから彼は、ウィルディエルの容姿があまりにも整い過ぎていることに、突然気付いた。どんなに天才と誉れ高い彫刻家や画家の創り上げたものでも、この若者を前にしては色褪せてしまうのが、カルムには分かった。


 一介の渡し守と馬鹿にしてもらっては困る。伊達に芸術家が数多く訪れる城にいるのではないのだ。彼の審美眼には、王でも一目置いているのだから。


 カルムの頭の中で瞬時に、思わぬ客人に対する鑑定が繰り広げられた。


 美しくシンメトリーな人間という存在は、案外この国では少ない。狭い領土と少ない人口の割に、美男美女の多い国として他国に知られているにもかかわらずだ。


 何もかもが左右対称につくられた肉体を持つ者。一説では、生まれた時はそうであっても、生活習慣によって段々崩れてくるというが……。


 まあ、とにかくだ。その最も目に留まる部分は、腕や足などではない。何より顔だ。もし、鼻筋を中心線として折りたたむことができるなら、なんとも容易にそうであるか否かがはっきりするだろうに。


 一番分かり易い部分は、そう、やはり目だ。左右で形に寸分の違いもなく、全く同じ角度・高さに位置しているのは、本当に珍しい。


 カルム自身もそれなりに良い顔立ちだが、少々右目の方が大きい。ほかの者たちにしても、どんなに美しいと評判の者でも、ほんの微妙な違いくらいは持っている。


 とはいえ、その方がかえって親近感は湧くものらしい。少しの欠点も見出せないのは、どこか造り物めいていて、近付きがたい印象を人に与える。


 それでも存在はした。フュレアル現国王、そして后のエアリーネ。彼らは偏りがないどころか、見目麗しい。精神的にも一点の曇りすらない王にいたっては、もはや神の寵愛を一身に受けているのではないかとすら感じるほどだ。


 だが、この男とも女ともつかぬ者はどうだ。王にも増して、不思議な雰囲気ではないか。薄汚れた衣をまといながらも尚薫り立つ品格は、とても人間のものと思えない。


 そして何より、あの唇からどこか気だるげに吐き出された名前――。


「……気のせいか……」


 それはさておき、このカルム、好奇心人一倍な男である。今回に限らずいつだって、他国から来た者の話には大いに興味があった。それも見るからに未知の国の者ならば、どんなにか変わった体験談を聞かせてくれるに違いない。


 被っていた帽子を、首紐で背中の方へとかけ下ろす。水筒を傾けハプーナ水で喉を潤すと、遠く対岸の城を眺め続けるウィルディエルにも一口どうかと勧めることにした。


〈シーク・ウィルディエル〉


〈シーク・アヴィーネ。私のことは、ウィリエルと〉


 この麗人の返答は、彼の心を軽くもさせ、そして驚きもさせた。


 初対面の相手や目上の者に呼びかける場合、ここら一帯では名の前に「シーク」をつけるのが慣わしだった。もともとは「我が友」とでもいった意味である。


 それでも、そこには相手を敬う礼儀が存在し、互いの関係は一歩距離を置いた状態となる。だが、それを取り去る申し出が相手から出ると、もう堅苦しい会話は一切無用だ。


 しかし、この異邦人が流暢にアルディエ語で返答したことは、実に驚嘆に値した。なにせ、ロザルディアでも今やほんの限られた者のみに使われるものなのだ。王家や長老たちといった、主に宗教儀式に携わる者だけに。


 この言語は、人類がここから発祥し文明を築いた古代より、ほとんど変化することなく現代まで伝えられてきた。言語学者でもない限り、他国で知る人間などいないだろう。


 言葉だけではなく、宗教も。そう、この世界を創造したといわれている「金色の君」を崇拝する場所は、もうロザルディア以外に存在しないという。


 大昔に広く信仰されていたかの神は、新興宗教の多発に伴い、現代では見向きもされない古代神へと身をやつした。ただの古臭い神話の一部へと。


「では、俺のことはカルムでいい。これは俺なりの歓迎だ」


 そう言って、カルムは水筒を手渡した。


「有難う」


「ところでウィリエル、どこの国から来たんだい?」


 素直に水筒を受け取ったまでは良かったが、彼は口に含むと同時に軽く咳き込んだ。


「大丈夫か?」


「……すまない。もう随分と何も口にしていなかったものだから、つい……」


 ハプーナ水は、その名のとおりにハプーナという草を熱湯にさらし冷やした飲み物だ。野草で年中どこでも見かけられるものだから、この国では常用茶として重宝されている。


「これは、ハプーナの香りがするね」


「ああ、そうだよ。嗄れた喉によく効くから、吟遊詩人なら大抵常備してると、噂ではそう聞いてたんだが」


 眉間に皺を寄せて、返された水筒に少しばかり残っていた中身を一気に飲み干す。


「この国出身の奴らだけなのかもな」


「私は吟遊詩人ではないから、そういったことは分からない」


 吟遊詩人を本職としている者の中でも滅多に持たないだろう美声が、苦笑ともとれる溜息とともに流れてくる。大切に古びた竪琴を膝に抱え込む手は、指が長く整っている。


 どういった曲を奏で歌うのかと、カルムの好奇心をひどく掻き立てた。


 だが、やはりどうにも釈然としない。奥歯に何か挟まったようなもどかしさを感じながらも、二艘のゴンドラの到着に、もう直ぐにでも出航するという現実へ引き戻された。


「よお、ラディーン。今日はしっかり眠ってきたか?」


 先に到着した舟の漕ぎ手に声をかける。大柄でがっしりした体格は、カルムとは対照的だ。櫂を足元に置くと、ラディーンは笑いながら「まあな」と鼻を擦った。


「あいつ、腕っ節は強いんだが、どうも睡眠不足だと頼りにならなくてな」


 こっそり耳打ちしてくるカルムに、ウィリエルは苦笑の表情を浮かべた。そして、屈託ない笑い声をあげながら会話する彼らを、どこか眩しいものを目にしたかのように、彼は穏やかな瞳で眺めていた。

とりあえず第一回目、最後まで読んで下さったお優しき皆様、誠に有難うございます†

そして、大変お疲れ様でございます(//∇//)


文章、重かったでしょう?

いや、でも、僕は本来こうゆうのが好きなのですわ。

同じ文章を何度も口ずさみ、音的な流れを確認しながら、当時はしつこいほど推敲してました。

何処で句点を打つのが僕の心に響くか、何度も何度も。

でも、もう長年お蔵入りしてたから、同じテンションと文書で続けられるか、ちょっと分からないなぁ…。


とはいえ、もう少し先の止まっている部分までは当時のまま、載せようと思ってます。

もしお気に召し下さる貴重な御方がおりましたら、続きを読んで下さると嬉しいです。

何卒宜しくお願い申し上げます( ;∀;)

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