会社員と風呂場の半魚人。
…………ナニ、コレ。
バケツをひっくり返したような土砂降りの夜。
親から譲り受けたボロ屋の玄関の前に、五歳くらいの金髪ロン毛の子供がうつ伏せで倒れていた。
泥まみれで、上半身は裸、下半身は…………魚?
最近、仕事がハードモードだからな?
最近、いつも終電間際だからな?
これはきっと幻覚だ。
そうだろう、そうであってほしい、そうでなければならない。
そそそそっと謎生物を回り込み、玄関に手を伸ばした瞬間だった。
「…………しゃむい」
しゃむい。……つまりは、寒い?
幼子の声が聞こえてしまった。そうなると、拾わざるというか、助けざるを得ないわけで。
チャプチャプ。
「はぁぁぁん! 生き返ったぁぁぁ!」
バスタブで寛ぐ人魚。
ボン・キュッ・ボン。
ヘソから下は青いような碧いような鱗。
…………はっ!
俺は何をまじまじと見ているんだ!
さっきまで五歳児程度だった下半身が魚の謎生物。
泥まみれかつびしょ濡れ。
なんだか可哀想になって拾い上げてしまった。そして、取り敢えず風呂に入れることにしたのだが…………。
下半身になにか穿いているのかと思ったが、どう見ても、どう触っても、生々しい魚。下半身だけ。
俺は迷いに迷った。お湯を掛けていいのか、と。
だってそうだろう? 茹で上がったら地獄じゃないか!
殺人犯になるのか?
殺魚犯になるのか?
どっちなの!?
まぁそれは置いといて……良いのかわからないが、置いといて。
本人に話しかけてみたらお湯がいいとのことだった。
返事するのかよ! とか心の中で盛大にツッコミを入れてしまったのは秘密だ。
「ね、ね! もうちょっと温度上げてよ!」
ある程度の汚れを落としてバスタブに入れた女児な人魚は、お湯の中でみるみるうちに大きくなり、ボン・キュッ・ボンな金髪美女な人魚になった。
胸のホタテより一回り大きな貝殻ってどやってくっついてんだ? とかはセクハラになりそうだから見て見ない振りをする。
追い焚きスイッチをポチッと押すと、キャッキャと喜びだした。
気になって気になって仕方ない。
「なぁ」
「ん? なに?」
「茹で上がらないのか?」
「あははは! 魚じゃあるまいし!」
俺はこの日、人生で初めて本気で人(?)を殴りたいと思った。
「気に入ったわ! 私、今日からここに住むわね!」
俺はこの日、人生で二度目の本気で人(?)を殴りたいと思った。
そうしてこの日から、この不思議な金髪美女な人魚との同棲生活が始まる――――のかもしれない?
おわり☆
続くのか続かないのか……謎←