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悪逆皇女の始め方  作者: 濃姫
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宰相との密談

 寝込んでしまってから巻き返すように今日も今日とて書物庫に足を運ぶと数時間後、何者かが入ってくる。

 

 皇族容認のこの書物庫に足を運べる人間は数少ない。しかも他の皇族はわざわざこんな辺鄙な場所までは来ない。少なくとも私が目的なことに変わりないだろう。


 「おやおや、これは。帝国の星、アルエロヴィギア皇女殿下。ご機嫌麗しゅうございます」


 ペンを置き読み込んでいた本から手を放す。ここでこの人物と会えた機会を、決して逃してはならないのだから。講師からベタ褒めされたお辞儀で相手を見据える。


 「ご機嫌麗しゅうございます。ヒューイ宰相閣下」


 皇族の書簡庫に悠々と足を運べる人物。帝国宰相ヒューイ公爵。貴族からも信頼の厚い人柄として尊敬されているいわば帝国の(かなめ)とも言える人だ。


 「私の名をご存じなようで、光栄に御座います。噂通り完璧なお辞儀、敬服致します」

 「宰相閣下にそう言われるだなんて光栄ですわ。政務の邪魔になるようでしたら退室いたします」

 「いやいや、皇女殿下がそう気を御配りになることはありません。ところで、最近は精を出し書物庫に篭っているという噂でしたが何か気になることでも? この老いぼれが役に立つのでしたらぜひそうしたいのですが」

 「気になる、というよりは隣国、レオノール王国を落とす方法を見つけたので。まずはその下調べ、というところでしょうか」

 「それはそれは…。実に興味深い内容ですなぁ」


 顔つきが一気に政務者のそれに代わる。父帝である陛下もそこまで下手なわけではないが今の帝国は事実上この宰相の手によって作られたものだ。だから、帝国の利となる提案には耳を傾けざるを負えない。


 「よろしければ今までまとめた資料をご覧いただけますか? まだ初めて2週間ほどですので完璧な報告書は3か月後が完成の目途になりますが、この資料だけでも有効性は確認できます」


 渡した資料にざっと目を通していく宰相。目の色はいつにも増して真剣である。もちろん前世の記憶を兼ねてはいるが。


 最初は目を通していただけだったが一度読み終えるとさらにもう一度読み返す宰相に確かな手ごたえを感じる。十分ほど経っただろうか。宰相が資料から目を外す。


 「これは、皇女殿下がお一人で制作に?」

 「はい。まだ使えそうな部下が育成中ですので」

 「専門的な用語が多く使われていますがどこで知ったのですか?」

 「もちろん(いち)から始めました。それで、率直な評価は?」

 「素晴らしい、の一言ですな。発想からして我々には考え付かずそれでいて大胆だ。あと少しほど根拠を付け加えれば信用性が高まるでしょう。もちろん皇女様のことですからさらに詳しい資料を作成するのでしょう。この資料を貸して頂いてもよろしいですか? 明日中には返すとお約束いたします」

 「えぇ、もちろんです」

 「それと、1週間おきにここに来て報告を聞いてもよろしいでしょうか?」

 「十分過ぎるほどです。では、よろしくお願いします」

 「今日という日には感謝するばかりですね」


 宰相が書物庫を出ていくとやっと一息つける。予定よりも随分と早かったために内心は冷や汗である。

 それでも実行の目途が見えればやる気も上がるというものだ。予定も元の軌道に戻り宰相との意見交換で練度も上がったというものだ。


 計画を立ててようやく3か月が経とうとしていた。もたもたしていると本当に最良の時期が過ぎてしまうためここからは本気で実行に向けての準備もしていく。


 既に宰相が裏から手回ししているため陛下の許可が下りればすぐに次の手へと移れる。


 「宰相閣下、最終報告書にございます」

 「拝見させていただきます」


 (うやうや)しく受け取り目を通す。報告書の枚数32枚。

 のち12枚が天候に関する因果関係及びそれがもたらす被害。のち18枚が時期と予算に関する見積書。のち2枚が帝国の益となる効果と不利益とされる予想書。


 「はい、完璧です。これなら次の段階に移せるでしょう」

 「宰相閣下の適切な助言のお陰です。流石に私一人では間に合わなかったでしょう」

 「いえ、元よりこれは皇女殿下の発案ではありませんか。私が予測したより遥かに早く完成されたことに感無量でございます」


 お互い後味のない会話を繰り広げ自分の作業へと戻る。私はこの策が終わった後に起こる後片付けの準備に。今度は宰相が実行への準備を進める。



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