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悪逆皇女の始め方  作者: 濃姫
3/11

【戦争】の作り方

 戦争を始めるとなるともちろんそれなりの理由が必要だ。なにも一方的に戦争を仕掛けたところで他国に弾圧されるだけだ。


 さてどうしたものだろうか。隣国には男主人公その四がいる。まずはそいつを消したい。だが隣国は帝国に劣ると劣らない国力を持っている。特に小麦を売りとする膨大な食糧庫は世界最大だ。


 そこを突くとすれば、宰相を巻き込む必要があるな。米を埋蔵できるだけ買占め約1年後に起きうる歴史に残る大飢饉に備えなければならない。


 そして納得にたりうる根拠を天候の原理から説明しなければならない。憑依してたった数日というのにあっという間に社畜に戻ってしまう現実に嫌気がする。


 あとは戦場の指揮官となりうる護身術をある程度身に付けなければならない。毎日走り込みを1時間、講師の授業が2時間。次々と埋められていくスケジュール。ついに余白がなくなった紙を確認し暖炉に燃やす。


 翌日から私の日課は始まった。まず早朝5時に起床し侍女に用意させた運動用の服に着替える。そこから皇宮を3周ほど走る。これだけでこの貧相な身体は悲鳴を上げた。


 だが泣き言を抜かす暇など勿体ないため用意させた講師に剣の基礎から受け習う。体力は貧弱だが技術だけなら前の記憶を持つため多少は様になっていたはずだ。


 剣術の授業を終え身を洗い流すと決まって朝食を皇族で取る。これは古くからの習わしなのだろうが居心地は最悪である。

 ただでさえ腹が空いているというのに何が悲しくてこんな状況下で食さねばならないのか。明日からは軽食を用意させようと固く心に決める。


 無駄の象徴のような朝食会を終えると皇女教育が始まる。いくら名ばかりといえど皇族は皇族。それゆえに皇女教育は最長6時間にも及ぶ。


 しかしこれは「無能皇女」だったときの話。やることが文字通り山積みの私にそんな時間を省く暇はない。全ての講師の授業を一発で合格し最短2時間で終わらせた。挨拶の手間とやらで1時間消費した恨みは忘れない。


 晴れてGOサインを貰った私は書物庫へと向かい大飢饉の要因となる天候の資料を集める。それを別の紙に模写していき要点を細かくまとめる。


 それでもまだ説得力が薄いのだから直接現地に行った方が早いだろう。まずはなんでも宰相の許可が必要だが…。


 新しく入った侍女に終わりの時間だと急かされたのは夕日が沈みすっかり夜遅くなった時間だ。

 あと2週間ほどは毎日書物庫漬けだろう。違う観点からも幾つか用意せねばならずそのための情報が圧倒的に少ない。


 それが終われば隣国の小麦の価値について詳しく問わねばならない。私の考えた策を実行することによって得られる益と不利益の比率を正確に出さねば宰相に許可されることなど夢のまた夢である。


 あとは適当な小間使いと従順な部下か。新しい侍女には既に皇族としての威厳を見せつけた。主に仕えることを誇りとする性格のようだからそれに関しては問題ないだろう。小間使いは適当に落ちこぼれの書記官でも拾うとするか。


 朝日が昇ると同時に日課は始まる。筋肉痛か昨日よりも動きが酷いが途中でやめることはない。それぐらいなら最初から何もしない方がマシだ。


 講師からも筋肉痛を刺激しない訓練をお勧めされた。ここは素直に受け取っておいた方がいいだろう。下手に悪化させるより早く治したい。


 昨日と同様胃もたれする朝食会を終えると酷かったのはその後だ。カーテーシーの授業が散々だったのだ。昨日は満点を叩きだしたというのに今日はあまりの痛みゆえに転げてしまう。


 結局レッスンは3時間にも及び大幅な予定の修正がされた。これがあと3日も続くというのだから笑えない。


 ボロボロに疲弊した身体でようやくベッドに上がる。もう指先一つ動かせない。こういう時に暗殺者なんかが来たら殺されるのだろうなとフラグを考えてしまうのは悪い癖だ。


 強力な睡魔に襲われそのまま眠りにつく。相変わらずこの身体に苦痛の耐性などないものだから扱いにくくて叶わない。


 2週間も経つとようやく身体が慣れてきたのか息切れは落ち着いてきた。講師からも時間を重ねるごとに技を吸収していき長期戦に向けて励んでいる。

 皇女教育の方は筋肉痛が収まってからというもの挽回する如く脳がショートしてしまうかと思う量を叩き込んだ。


 どうせ私が皇帝になるのだから貴族の名前と領地の特産品。その者の家族関係から、後継者状況。はたまた財政まで全てを目に通すが終わりが見えないのが苦痛だ。


 あの必要性を見出せない朝食会では皇帝が珍しく一言私を褒めたがただそれだけ。なんならその一言すらも場を凍り付かせていたので余計である。私の社交性で笑顔に取り繕ったが。


 それにしても想像していたより資料が少なく完璧と呼べるまでに規定した期間には間に合わなかった。


 身体も幼いためほとほと限界に近い。間が空いたとき小間使いを何人か確保したが使い物になるまであと数か月はかかる。

 その者らに仕事をつぎ込む私の時間と研究に当てる時間の有効性の比率を考えるがそこで頭はショートしてしまった…。



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