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悪逆皇女の始め方  作者: 濃姫
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侍女への制裁

 今の皇女の年齢は西暦から考えて六つほど。まだ侍女らに虐められている頃合いだろう。アルエロヴィギアは彼女たちを追放で済ませたけど、私はそんな生易しくない。


 禍根を残せば後々面倒を起こす。だから、徹底的に甚振って私の悪評の糧となってもらおう。

 朝八時となって侍女は私を起こす。それも随分と乱暴に。以前の私であればそれに震えて応じる他なかったが中身が違う今では意味がない。


 白けた態度で顔を洗う洗面台に向かえば汚れ切った水が浮かべられている。本当に、どこまでも舐められたものだ。同情より先に情けないとすら感じてしまうほどに。

 侍女は起こしたときの私の反応が気に入らなかったのか表情の管理すらままなっていない意地汚い笑みを浮かべている。


 「あら、ベッティ」

 「なんでしょう、皇女殿下」


 ここまで態度一つ変えない私に流石に不審な表情を浮かべる彼女だったが抗議の声だとでも思ったのかつらつらと聞くに堪えない嘘っぱちを並べる。


 「このお水は貴重な聖水を入れた心根の美しい者には透き通るほどの神々しさを感じる水です。対称に心根の卑しい者には濁り切った汚泥の水に見えるようですが、もちろん皇女殿下は美しさを感じ感嘆していらっしゃるのですよね?」


 どこかの童話のような話に思わず笑いが込み上げそうになる。だけどそんな感情はなかったかのように無垢で純粋な皇女の顔を演じる。


 「もう、ベッティたら何を言っているの? そんなこと見ればわかるでしょう? ただね、ベッティ。こんなに貴重なお水を汲んでくれた貴方たちには感謝が絶えないの。だから、一度貴方も使って頂戴。もちろんこんなにも私に尽くしてくれるベッティだもの。きっと黄金にでも輝いて見えるでしょうね」


 ベッティの表情はみるみるうちに強張り終いには頭に血が上ったかのように眉間に皺が寄る。


 「そんな恐れ多いこと、は…。これは皇女様ただお一人のために汲んだお水です」


 「ベッティ、お願いよ。私は貴方の思いに報いたいのに生憎私の物と呼べる物なんてないから、せめてこの誠意だけは受け取って頂戴!」


 ぎゅっと彼女の両手を小さな手で握りしめる。ここですぐに解けるぐらいの力量にすることがポイントだ。


 「皇女様! いい加減にしてくださいッ」


 私の手を思い切り汚物でも払うようにはたき捨てたベッティ。あまりに簡単に本性をさらけ出した彼女。それはもう滑稽だった。


 「もう朝の朝食が用意されております。早くお顔を洗いになってください!」

 「ベッティ…」


 傷ついた表情は我ながら傑作だった。そのままとぼとぼと洗面台に向かう。やはり見当違いだったかと安堵のため息が聞こえたのを皮切りに、「きゃっ」と可愛らしく叫び汚水を彼女に向かってぶちまける。


 ベッティは何をされたのか理解できず呆けていたがようやく理解できると今にも殺しそうな目で私を睨みつける。


 「まぁまぁ、大変だわベッティ! ごめんなさい、私が足を転ばしてしまったばっかりに…。あぁ、でも。清らかな聖水だもの。貴方の腐り落ちた性根も多少はマシになるんじゃない?」


 心底嘲り笑った後に鳴り響いたのは肌と肌の衝突から成る騒音。やっとできた、()()


 「コんっの…! 何すんのよ! 頭イカれちゃったんじゃないの?!」


 大声は外で待機する護衛達の耳にも届き、部屋に幾人かが入ってくる。


 「皇女様、これは…」

 「状況も把握できない無能ばかりね。罪人を捕らえなさい。皇族を害した大罪人よ」


 今の今までと違う私の立ち姿に困惑するがすぐに頬の腫れに気づき、ベッティを拘束する。

 喚き散らしながら連行される彼女を見送った後、このような事態を引き起こした警備の責任者を呼び出す。


 「申し訳ございません。不詳の致すところにございます」

 「えぇ、そうね。私は罪人に手を上げられる前に一度転倒し、声を出したわ。その後も罪人に手をはたかれた。三度よ。私が貴方達に与えたチャンスは。それを重く受け止めることね」

 「はっ…。つきまして、罪人の処遇にございますが」

 「あぁ、それはもう私が決めてあるの。片腕と片足を切断しなさい。それからもう二度と陽の光を見ることのないように目に劇薬を塗って失明させるの。皇室を侮辱した人間に相応しい末路でしょう?」


 騎士団長は驚愕の表情をするがこれでも慈悲を与えたほうだ。本当は拷問の末壊してやりたかったというのに。


 「騎士団長、もう一度言うわ。皇室を侮辱した罪人は、決して許してはならないの。もちろん「死」なんていう楽も与えちゃダメ。生き地獄を味合わせてからじゃなきゃ、意味がないでしょう? 貴方達の罰は陛下が判断なさるわ。精進することね」

 「ありがたきお言葉に御座います」


 騎士団長が去った部屋は思ったよりガランとしていた。冷めきったお茶に手を付け、一息つく。ようやく邪魔者を一人消すことができた。


 彼女の断末魔の特等席は私が座ることになる。残りの侍女も横領の罪で断罪できるのはそう遠くないだろう。だが悪評だけをただ肥大させるわけにもいかない。私にはまだまだ勢力など第一皇子の足元にも及ばないのだから。


 だからまずは功績を上げる。そのためには何をするのか。原作を読みこんだ私にはこの世界のありとあらゆる機密情報が手の内にある。まずはそれを使って、…【戦争】を始めよう。



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