024 懐かしき朝の日常からの悪夢再び
誰かか僕のスイッチを押したかのように目が覚めた。
寝ていたらしく森林である事が周りから見て取れて、鍋料理をしているサーリアと目が合った。
「あら。おはようラック」
「…………おはよう……?」
「なんで疑問形なのよ。それよりも起きたのならツヴァイ呼んできてもらえる? そこらへんで飛んでると思うから」
僕は返事をして、空を見上げた。
簡単な毛布の上に寝ていたらしいけど別に体は痛くない。
あれ?
なんだろう、黙ってサーリアを見ると視線に気づいたサーリアが、早くしないさい! と、怒ってくる。
おかしい確か僕は名も無きダンジョンで地底竜の体に剣を突き刺した。
はずだ。
にもかかわらず、追放される前のような1日の始まり。
もしかして追放されたのも全部夢だったのかもしれない、だって冒険途中の野宿で僕が怒られるのは日常なんだから。
サーリアに言われてツヴァイがいる方向に歩くと、グィンとツヴァイが一緒にいた。
ツヴァイは煙草を吸っていて、グィンも珍しく煙草を吸っている。
初めて見たかもしれない。
「二人ともおはよう! …………いや僕は吸わないよ」
ツヴァイが無言で煙草を出してくるので僕は遠慮する。グィンが煙草の火を消して僕の肩を叩いてくる。
「よく眠れたか?」
「え、あっうん。あのー…………」
「何だ?」
ここどこ? と、言ったらまた怒られそう。
飯にいくぞ。と言われて一緒に歩くとサーリアの場所に戻って来た。
ミリアさんやクアッツル。リバーなどは全部僕が作った幻で、僕の記憶がおかしくなってた気がする。運これに違いない。
グィンがサーリアの横に座る。その横にツヴァイが座り最後に僕が座る。
で、隣にリバーが座ってクアッツル。さらにミリアさんが座った。
「うあああああああああああああああああ!!!!!」
僕が叫んだので、僕以外が立ち上がって周りを確認し始めた。
「ラック突然叫ばないでよ」
「まぁまぁサーリア様。ラック様も叫びたい年ごろなのです」
「どういう年頃なんでしょうか……ママ沢山食べてくださいね」
「ラック、深呼吸をしたほうがいいな」
「煙草が旨いでござるな」
ミリアさんの助言で僕は複数回深呼吸をする。ツヴァイから煙草を手渡されたけど黙ってそれを押し返す。
「えっと夢じゃない? え、あの……?」
全員が不思議そうな顔をして僕を見てくる。
グィンが全くというとサーリアへ向き直った。
「サーリア、ラックには説明してないのか?」
「別に私が説明する義務はないけど? そこの団長さんはどうなのよ? そっちの管轄でしょ?」
「団長ではないし元隊長であって現在はただの旅人だ。私達が狩から戻った時にはラックは居なかったので説明しようがない」
「リバーも同じですね、クアッツル様とラック様にそっくりなキノコを集めてました」
「小さいのしかありませんでしたわね」
何の話で……いや、どうやら僕に説明をした、していないで喧嘩になりそうな空気だ。
「あの、僕が全部悪いです! ごめんなさい」
あれ、全員が黙ってしまった。
グィンがため息をつき話しかけて来た。
「ラック。飯を食べたら決闘をするぞ」
「はい?」
聞き間違いかもしれない。
僕が首を左右に振って周りを確認すると誰も何も答えてくれないのだ。
「ラック様、ミリア様に変わってご説明しましょう! グィン様をずこーんばこーんするのです」
何もわからない。
「私が説明したほうがいいだろうな。地底竜がいた名も無きダンジョンから脱出は出来た。それもこれもラックが道を切り開いてくれたわけだ、胸を張れ。
私はラックが実力者なのは間違いない。と、思っているがラックの旧メンバーであるグィンはラックの力を信じてない。いや見たからこそ信じられないのかもしれない。
追放した側からみたら騙された。と言った方がいいだろう、そこで今一度君の力を見たいそうだ」
結局ミリアさんが説明してくた。
誰も何も言わない所を見ると決定事項なんだろう……あの、僕の意見は?
「ええっと、僕としてはグィンと戦うつもりは無いんだけど……」
「戦え」
「え、いやグィンが圧勝するだろうし……」
「ラックお前は俺達を騙していて気分が良かったかもしれないが、俺は心底腹を立てている。それほどの力がありながらサーリアを俺に譲った。それほどの力があればサーリアだって俺よりもラックを選んだんじゃないか?」
うえっ!?
いやええっと騙したわけじゃ無いし。
ちらっとサーリアを見るとサーリアは僕と視線を合わせなくツンとした顔だ。
「私は別にラックが強くてもグィンを選んだわよ」
うっ…………いやあの。
はっきりと言われると結構グサっと来る。最近やっとサーリアの事を考えなくなったのに一気に何とも言えないような感情が出て落ち込みそうだ。
「それだとしても戦わないよ」
もう一度僕はグィンに伝える。
サーリアが、2人とも変な所でそっくりなのよね。と、言うけど別に僕とグィンは似てないよ?
「わかった」
グィンが思い直してくれたので僕は安心してご飯を食べる事が――
「ラック、お前が壊した俺の剣。白銀の星という魔法剣は弁償してもらおう」
「ふえ!?」
「驚く事もないだろう、お前が俺から剣を借りたんだ。あれと同じ物、もしくはそれ以上の剣を買える金額でもいいだろう。出せ」
ええええ……いや。確かに僕はグィンに剣を借りるよ。と、言って使った。あの剣は……。
「ラック様。ラック様の魔力に耐えきれなかったゴミ剣の事ですよ? 最後は溶けた剣です♪」
「リバーっ!?」
辞めてリバー煽らないで……。
「ラックにとってはゴミでも、俺にとっては魔力の増幅をさせるまたとない剣でな、まさか今回も冤罪だ。と言うつもりはないだろうな」
「事実です……」
「貴方諦めたらどうですの? あの人間は一戦試合をすれば剣代を不問にしてくれると言ってるのですよ?」
「ラック、受けてやるんだな。男の意地だろう」
僕の周りには味方はいなく、いやツヴァイが煙草をくれたけど……仕方がなくグィンの意見を僕は飲んだ。
楽しいはずの食事もあまり楽しくなくすぐに終わった。少しの休憩の後に僕とグィンは対峙して距離を取る。
ミリアさんから手渡された粗悪品の剣。グィンも同じ剣を持っている。
どこから? と思ったら崩れた名も無きダンジョンから拾い集めたとの事。元はゴブリンが使っていた奴らしい。
「グィンええっとこれは試合だよね?」
「そうだな…………」
なら良かった。
僕が負ければいい話だ、そもそも僕とグィンじゃ実力差がありすぎる。
「だが、補助魔法でもなんでも使って本気を出せ。出さない場合は俺は今日限りで冒険者を辞める」
「………………えええ! い、いやっ!?」
僕が戸惑っていると、では僭越ながら人間同士の醜い試合の審判をさせてもらいますわ。とクアッツルがスタートの合図を切った。
グィンの左腕が動くと炎の矢が複数本現れた。それがそのまま凄い勢いで僕へと飛んでくる。
「ぐっ!」
避けたつもりなのに太ももが焼けるように痛い。
避けきれなかった奴が刺さっては消えていく。
「どうしたラック! 早くインチキ魔法をつかったらどうだ!?」
使えも何も、使う暇を僕に下さい。
僕は両腕を触り補助魔法を唱え……うん、グィンが見逃してくれるわけないよね。間合いを詰めてくるので何とか避ける。もちろん地面をゴロゴロと転がってだ。
その後もグィンは攻撃をしてくる、僕は必死でそれを逃げるが続く、いい加減にしろ! とグィンが止まり怒り出した。
いや、最初から怒ってるから怒り出した。は違うのかな?
「ラック。遊んでないで本気を出せ」
「ラック様~♪ そんな奴秘孔つけば一発ですよ~♪」
ちょっ! リバー!?
僕を見下ろすグィンが心底嫌そうな顔をしている。
「だそうだ。ラック様、俺を倒して見ろ」
「まった! グィンちょっと待って!」
「命乞いか? どこまで俺を馬鹿にすれば…………」
「違う、違うから」
グィンの攻撃の手が止まった。
どうやら話は聞いてもらえるらしい。
「その補助魔法を使いたくても暇がないんだ」
「……………………っとにお前は…………俺を…………いやいいわかった。エルフの審判、この試合は無効試合でもう一度頼む。いいかラック開始20秒後にお互い動く、サーリア20秒はかってからコインを投げてくれ」
「ん……」
僕は立ち上がるとリバーが冷たいタオルを持ってきてくれた、それで顔をふくとグィンもサーリアから同じ事をしてもらっている。
お互いに元の位置に戻るとクアッツルが試合開始! と短く叫んでくれた。
僕も自分の腕をクロスするように掴む。アームマナアップ、アームマナアップ、アームマナアップと3回唱える、自分の中にある魔力を巡回するように、爆発させるイメージを持たせる。
次に足を触りレギンスマナアップとこれも腕と同じように唱えた。
僕の剣とグィンの持つ剣がぶつかり合った。
普段の僕なら吹っ飛ばされる勢いだ。
グィンの狙ってくる場所がわかる。
僕の腕や足。当たらないと頭や目も狙って来た、即死でなければ回復するわよ。と、サーリアが言っていたけど正直な所当たりたくはないしあてたくもない。
剣で無理やり受け流して危ないのは無理やり体を曲げたりしてかわす。
「まったくお前は卑怯者だな! 羨ましいよ」
そんな事言われても、卑怯な事をした覚えはないよ。
僕から言うと僕はグィンが羨ましい。
いつも強いし、決断力もあって、顔だって悪くないと思ってる。実家は貴族って話だし、ちょっとお金の使い方がおかしいけど、それも笑ってうまく乗り切る。
段々と剣の重さが増えていく。
補助魔法の効果が切れかかっているのだ、今の所僕の補助魔法は短期決戦型、長期戦になると弱い。
うん。僕にしては頑張った。
そう思っているとグィンの口元に笑みが出た。きっと勝利の笑みと言う奴だろう。
「俺の勝ちだなラック。お前の手垢がついたサーリアはもう要らないし、お前を殺した後に一緒に殺してやるよ」
え? は? 僕はサーリアを見ると、サーリアは頭に手をあてて表情が見えない。
グィンが僕を狙って一気に早くなった。
思わず後ろに下がると足元が崩れたゆっくりと後ろに倒れるような姿勢で僕はグィンをまっすぐに見つめ――
「マナオールアップ…………」
僕は自然に胸の部分に手をあてて補助魔法を唱えた。
師匠がよく使っていた補助魔法を唱えた。師匠の場合はマナオールブーストだった気がするけど。僕の部分的魔力の爆発ではなく全体能力を上げる補助魔法。
消費する魔力がとても多く、一度だけ肩こり腰痛50肩の人に使ったら僕まで寝込む事になった補助魔法、一度もまともに使えた事がないけど、僕は小さく唱え発動させた。
複数回補助魔法を自分自身に掛けた時と同じ、それ以上の感覚が襲ってくる。
グィンの動きがゆっくりと見えて、いろんな感情をこめて僕はグィンのお腹を一発だけ殴った。




