011 冒険者たるもの馬車も操縦できるはずだ、だから街なんてすぐ
目がさめると肌さわりのよい毛布が掛けられていた。
頭が少し痛く昨夜のお酒のせいなのはわかる。わかるんだけど……なんで裸……?
毛布をそのままガウンの様に体に巻き付けて服を探すと、足音がしたので振り向いた。
今日も銀髪が綺麗なミリアママ、もといミリアさんだ。エプロン姿で杖の代わりに解体用の大きな包丁を持っている。
「起きたか」
「…………はい、起きましたけど。朝ですよね?」
「なるほど……記憶がないのか」
「え。はい……クアッツルとミリアさんが嫌がる僕に、年代物のお酒を飲ませたまでは覚えているんですけど」
「…………そこを忘れて欲しかったな」
1杯だけだから飲め。と二人に言われて断ったけど飲まされた。
それだけは覚えている。
美味しかったなぁ……一つ言うとお酒の味が嫌いなわけじゃなくて記憶がなくなるから嫌なのだ。
「その節は無理強いして悪かった。素直に謝罪をしよう……」
「あっいえ。そんなに頭を下げなくても、僕も説明不足でしたし……」
「そうか。記憶にないという事で答えても無意味かもしれないが、ラックのは平均より大きいと思うぞ」
ミリアさんはそれだけを言うと朝食の支度をする。と、言っては消えていく。
…………何の話!?
いや、え……? 酔っている僕は何を言って何を確かめてもらったのか。
「起きましたわね。このゲロ人間」
背後から声がしたので振り向くとクアッツルだ。
「うわ。また窓から……玄関はあっちなんだけど。あと今日はゲロ人間なんだね」
「あたりまですわ。あなたが吐いたのでその洗濯です洗濯」
そういう事か。
文句をかなり言っているが、それでも洗ってくれるクアッツルは優しいエルフだ。
背後に見える中庭には僕の服がタオルと一緒に掛けられているのが見えた。
「ごめん」
「いいですわよ。適当に置いてある服を選んでおきましたわ。あとは……」
「後は?」
「お父様のよりは大きかったのでびっくりしただけですわ」
「うん?」
曖昧な返事をすると、クアッツルも用事があるからと出て行ってしまった。
うん。お酒駄目絶対。
「ラック朝食が……まだ着替えてなかったのか。早く着替えて顔を洗ってきた方がいいな」
「あっはい!」
急いで着替えて顔を洗ってくる。
温泉にも入りたいけどご飯が先だ。
席に着くと朝食の用意がされていてお互いに座り食べ始める。
食べながらミリアさんは僕のほうに金貨を3枚置いた。
「…………ありがとうございます」
このやり取りも何回もやっている習慣だ。
ミリアさんの足は今では杖無しでも短い期間なら歩けるまで回復した、念のために杖を持っている。という事が多くなり。この金貨は僕への報酬。
何度も要らない。
と言った所、僕に魔法を教えてくれた師匠の力さえも貶す事になるぞ。と説得されての結果だ。
僕の師匠なら貶されたら喜びそうな気もするけど、最終的に金貨3枚。という所に落ち着いた。
僕のカバンには金貨がすでに50枚分以上ある。
クアッツルが宝石と交換してくれて実際には4枚と宝石なんだけど。
今日は街に行ってこの宝石をお世話になった宿の主人ダングさんへ送るのだ。
借金したままだし。
後は、暫くは辺境で暮らして宿の従業員にはなれそうもありません。という事も手紙で伝えないといけない。
色々あったけど、今の生活が一番いいのかもしれない。
朝起きて温泉に入り、ミリアさんと交代で食事を作る。でミリアさんの脚の治療もどきをしてまた温泉に入る。夕方は畑に言って作物を採り星を見て就寝する。
「ラック。私もそろそろ王都に戻ろうかと思っている」
「えっ!?」
「ん?」
想定外の言葉を貰った。
ミリアさんがずっとここにいる物かと思っていたからだ。
「一緒に辺境にいないんですか……?」
「ラック……前々から言おうとしていたが君はその、依存癖と……いや。今は辞めておこう。私は元々治療のために来ていたからな」
「あの、全部言ってますよね。それ」
依存。グィンやツヴァイによく言われた言葉だ。
サーリアの命令に従うんじゃなくてサーリアに命令でもしてみろ。と。
出来るわけがない。というか命令するような事もないし。その辺を二人に伝えると依存してるな……とよく笑われたっけ。
「じゃぁ、僕は一人ですね……」
「まぁ…………普通ならそうだろうな……そうはさせ……」
何か変な言い方をする。
あっそうかクアッツルが一緒にいるって意味だよねきっと。
「とりあえずクアッツルが馬車を借りて来てくれるらしい、それまでは自由に過ごしてくれ」
「はいっ!」
辺境の森から辺境の町と言われているザッハトルラの町まで馬車で2日ほどかかる。
徒歩で行くとがんばって4日ぐらいだ。保存食に寝袋、後最低限の水もいるし結構大変である。
この場所に行商人さんが来るのは8日後と言っていたので、こちらから向かった方がいいだろう。
クアッツルも街に行きたくてうずうずしているし。
二人で朝食を終えて、僕は裏庭で食器を洗う。
最後に拭いて室内の棚に戻した所で外が騒がしくなってきた。
「ママ! お待たせしましたわ!!」
外に出ると鉄で出来た馬車? があった。
いや馬車なんだろう、馬二頭がつながっていて、荷台の部分は黒い鉄でできている。
申し話程度の窓が付いてあって窓には鉄格子がはめられていた。
簡単にいうと馬車型の牢屋だ。
「ふん。クアッツルのお気に入りか、どんな人間かと思えば女と子供か」
「え?」
声の方へ振り向くと長身の男性エルフが御者をしていて僕と目が合った。
「ぺっ!」
突然唾を足元に吐かれる。
「ソアお父様!!」
クアッツルが叫ぶと、お父様と呼ばれた男性エルフは表情を曇らせた。
「親子?」
「そうですわ。この辺境の森を収める時期族長事、ソアお父様ですわ!」
「はじめまして。ラックと言います」
「ミリアだ」
馬車から降りなく上から僕らを睨みつけると返事は帰ってこない。
ど、どうしよう。
慌ててミリアさんを見るとミリアさんは気にしていなく、荷台の牢に荷物を運び入れている。
「ミリアさん!?」
「他種族が人間をよく思ってない事はよくある。馬車を借りれただけ感謝しよう」
さらっというと、僕にも荷物を運べと合図してきた。
そういうものなんだろうか。僕としては種族関係なく仲良くできたらなぁって思ってはいるんだけど。ミリアさんと僕で10往復ぐらいして荷物を運びこんだ。
いくら杖が無くても歩けるぐらいに回復したミリアさんだからって無理はさせてはいけない。その分僕ががんばった。
「ではソアお父様。街に向かってゴーですわ!」
「クアッツル………………どこの街だ?」
「どこって……一番近い町ですけどザッハトルラですわね」
クアッツルのお父さんは僕とミリアさんを見て小さく口元を動かした。ちょっと笑っているようだ。
「乗れ」
「ママ。ごめんなさい……ソアお父様は、お母さまを人間に寝取られて人間が嫌いなのですわ」
「違う! エルフは長寿種族だ! そのたまの遊びぐらいは寛大なエルフは気にしては駄目なのだ……いいから乗れ!!」
段々と小さくなっていく声にちょっとかわいそうになってくる。
僕とミリアさんは荷台の牢屋部分に乗るとクアッツルが外から鍵をかけた。
鼻歌交じりでクアッツルは御者台へと乗る、ソアさんが馬車を動かして移動を開始された。
よほどうれしいのだろうクアッツルの鼻歌が止まらない。でもその鼻歌も段々と小さくなっていき、最後は止まった。
僕は不思議に思いながらも冷たい壁に背をつけて黙っている。ミリアさんも瞳を閉じては微動だにしない。長く移動するときは無理な体力を使わない。という冒険者の基本だ。
って……ミリアさんって冒険者だよね? 剣もっていたし。
深く聞いた事がないから何をしているのかはわからない。今度聞いてみようかな……。
「着いたぞ」
「え?」
ソアさんの声で馬車が止まる。
まだ体感時間は立っていないし、クアッツルが暗い顔で牢屋の鍵を開けてくれた。
どういう事だろう? 僕が先に降りるとそこは大きく綺麗な滝があり見ているだけで圧巻される場所だ。
ミリアさんも牢馬車からでると体を動かし空を見上げだした。
「日の位置が変わってないな……どういう事だ?」
「当たり前だ。ここはエルフの給水場所の一つだ、里からは遠いがお前達の小屋からは近いからな! 可愛い娘を古汚い人間と野営させられん。あの道を使え」
ソアさんはそれだけいうと馬車に乗って帰っていった。
残ったのは僕とミリアさんとクアッツルの3人だ。
「あのーですね。エルフしか知らない道というのがありまして、この道を通ると街まですぐなのですわ…………ママ! 忘れてましたごめんなさいい!」




