001 補助魔法士ラック、パーティー幼馴染から追放される
「ラック! 突然で悪いがお前の犯した罪に証拠もある。結果もう仲間とは言えない……リーダーの権限でパーティーから追放する」
そう言ったのは双翼の翼のリーダーのグィンで、場所は酒場だ。
一瞬グィンに似た他人が僕に言っているのかと思った。でも最近髪がうっとうしいな、と言ってはかき上げる金髪の髪はグィンにしか見えない。
それ以前に、一緒の仲間もその言葉に何も反応しないのが怖い。
思わずズレた眼鏡を直しては他の仲間。すなわち幼馴染のサーリサと、鳥型亜人のツヴァイも見てしまった。
「ラック、話しているのは俺だこっちを向け。サーリサがいくらお前の幼馴染だからと言って特別な事はしない。
お前の髪が黒くて地味とか、魔力だけはあるのに補助魔法しか使えない人材だからとかでもない。お前がサーリアに似合ってるわよ。と言っては嬉しそうにかけているドが殆ど入っていない眼鏡のせいでもない。
俺みたいに少ない魔力を使ってやっと魔法を打てる魔法剣士としてパーティーを引っ張っているのに、お前は宿屋で爺さん婆さん相手に補助魔法だ。といっては腰痛を治しているからでもない」
物凄い言われようだ。
反論しようにも殆ど事実だから……あっでも一応これでも補助魔法はこっそり、こっそりだけどかけている。
「で、でも僕――」
「まて。言い訳は後で聞く。さらに言うと、俺はイジメは嫌いだからな、ただだ!
ラック……お前が使い込んだ100万ゴールドこれは見逃せない」
「えっえっ!?」
グィンがテーブルを叩くと殆どドの入っていない僕の眼鏡がまだズレた。
それよりも突然の話で頭が追い付かない。
こういう時はいつもサーリアが僕を助けてくれる。
そうだ! サーリアだ。
幼馴染のサーリサと村を出て数年、お互いに冒険者の資格を取り、ランクを上げて僕は精一杯勉強して補助魔法を覚え、パーティーにも一緒に入って一年だ。
最近は割と高難易度ダンジョンもクリアして……うん、やっぱり身に覚えがない。
確かに稼ぎは良かった。でも僕の手元にはほとんど残らなかったし100万ゴールドなんてつかいきれるはずがない。
「なに、ラック気を落とすな。俺はお前をギルドから追放しようとも警備兵に突き出そうとも思ってはいない。お前も来月には20才だったな」
「え。あっうん」
「冒険者を辞めて田舎にでも帰ったら……いや帰る田舎がないのなら余生を過ごしたらどうだ?」
思い出した。来月は僕の誕生日だ。
僕とサーリアは誕生日が同じでお互いに20才になる。
サーリアから小さい時から結婚しようね。と約束していて……そんなサーリアの顔を見ると酷く残念そうな顔だ。
その手首にはサーリアの髪と同じ青白い色のブレスレットあって悲しい顔が反射してい……あれ?
「それって……サーリア」
「何かしら?」
その幼馴染であるサーリアが付けているブレスレットに注目した。
確か魔法具店で見た不老のブレスレットだったと思う、もちろん本当に不老になるわけではなく、なんでも老化を押さえるらしい魔道具の一つ。お値段なんと60万ゴールドはしていた。
とても僕個人で買える物じゃないし、サーリアの貯金だってないとは聞いた。
「ラック殿。その腰にある剣と先日攻略したダンジョンから出た魔道具、確か売れば査定額は80万ゴールドだったと覚えておりますな」
横から声をかけれた振り向くと鳥型亜人のツヴァイだ。
「あ、うん……たしかそれぐらい、パーティーでろくに使えない僕にグィンや二人が戦力強化に。と、くれたんだよね」
結局僕がその剣を魔物相手に振る事はなく……あれツヴァイが火をつけている煙草って。
「ツヴァイ……?」
「何でござろう?」
「その煙草……」
「これでござるか? サーリア殿から頂いでござる」
ツヴァイが口にくわえているのは、燃え尽きない煙草だ。
火をつけて吸っても無くならず、これも確か20万はした……無類の煙草マニアのツヴァイが何時かは欲しいでござるのう。と、店前で話していた奴だ。
来年の誕生日に贈ってあげれたらな。って思って覚えていた。
「ラック、今はツヴァイの事も気にするな。それとラックの貯金……確か30万はあったよな」
「なんで金額を、それはサーリアとの結婚資金に…………」
「どうした?」
「そのネックレス、いやネックレスに繋がっている指輪は」
グィンの首にはシルバーチェーンのネックレスがかかっていて、先端に金の指輪が通されていた。
気づけばまったく同じ物がサーリアの首にもかかっている。
つい2時間前のダンジョン探索中にはついてなかった! と、思う。
「俺もいい歳だ。いつまでも冒険者ごっごなんて出来ないからな、冒険者ギルドのA級試験に合格したし結婚して跡取りを作らないとな」
グィンの実家は、地方都市の貴族と聞いた事がある。
「おめでとう。知らなかったよグィンに恋人が居ただなんて。今度紹介して欲しいな、どんな人だろ」
「どんな人か……サーリアしかいないだろ。じゃっそういう事でな、追放だ」
「は?」
グィルがそう言うと、三人が席を立った。
ダンジョン攻略祝勝会だったはずなのに、誰一人食事に手をつけなかった。
椅子に立てかけていた僕の剣はグィルが手に取り、ついでにマントも持っていくでござる。と、ツヴァイが手に取った。
最後に僕が付き合っていると思っていた幼馴染のサーリアは宿の部屋に置いてあったはずの僕のカバンを持っていた。
「無一文じゃ飯代も困るだろう? ここの勘定は既に済ませてある、食べたら好きな所にでも行ってくれ……行く当てがあればな」
「さらばでござる、もう会う事もあるまい」
「ラック。冒険者辞めて村に戻ってもある事ない事言いふらさないでよ? ラックとは幼馴染なだけなんだから」
三人が席から立つと僕は茫然と料理を眺めていた。
僕の耳にサーリアの笑い声が聞こえた。
すぐに扉付近を見るとサーリアがグィルの腕を抱きつくように絡ませて歩いている。
僕とは結婚するまで恥ずかしいから。と手すら繋いで歩いていなかったのに……。
自然と涙がでそうになった。
いや、ここは追いかけて絶対に誤解を解かないと。
理不尽だ、追い出すだけために仕組まれたんだ。
グィンだって言っていた、理不尽な事には怒れ! お前にはそれが足りない。と。
サーリアだってたまには感情を爆発させる。と、言う事も必要と思うわ。と。
ツヴァイだって、煙草が旨いでござるな。って言っていたじゃないか。
立ち上がる前に僕のテーブルに特大エールがドンと置かれた。
祝勝会と言っても、こんなに大きいエールは頼んでいない。
それに僕はそもそも飲めないし、周りからラック。お前だけは飲まない方がいい。と言われている。
「あの、頼んで……」
「ああ! 頼んでない! 頼んでないがここは俺の奢りだ! 俺の酒は飲めないというのか? ああっ!?」
顔をあげると、強面の主人がいて僕の背中を何度もたたいてくれた。
「飲め!」
「え。いや、だから僕飲めないんですけど……それよりも後を」
「後を追いかけてどうする! 追い出されたパーティーに戻りたいってか? いいから飲め!」
「僕としては戻っ……がぼがぼぼぼぼぼぼぼ!」
胃の中にアルコールが一気に入ってくる、天井が回りだし、足元がふらふらする。
すぐにでも追いかけて話を……話ってなんだっけ……。
体が熱い。
暑かったら脱げばいいじゃないかっ!
「僕だって! 結局僕の言い分聞いてくれないし!」
「いい飲みっぷりだな、二杯目だ! 俺が聞こう」