大魔獣ベヒーモスですがカピバラに転生したのでまいにちお昼寝して暮らします。
――――我は偉大なる魔獣、ベヒーモスである!
筋骨隆々の巨体、二本の大きな角、猛々しい鬣、それらを目の当たりにした人間は、白目を剥いて倒れていたほどだ。
我の威圧に、普通の生物たちは一切近寄って来れない。
気に入らない者がいれば、巨大な竜巻や雷を落とし、ちょっと気合を入れれば隕石も自在に引き起こすことができた。
「あ! カピバラ!」
……まぁ、今は転生してカピバラだが?
「カピバラちゃーん」
「きゃー! こっちを見たわ」
――――我はベヒーモスだと言っておろうが!
「きゃぁ、鳴いた! かぁわぁいぃぃぃ!」
「何言ってるのかなぁ? 温泉気持ちいい、とか?」
――――まぁ、気持ち良すぎて寝てしまうがな?
温泉とは、我の暮らしているカピバラエリアの真ん中にある温かい風呂のようなものだ。
これがまた堪らない程に温かく気持ちいい。
ついつい湯に浸かりながら眠ってしまう。
「ぷきゅ、ぷきゅ、ぷぎゅぎゅ」
――――煩いぞ!
いい感じでウトウトとしていたら、人間の子供が変な声で騒いでいた。
「まま! ぼくのなきごえに、へんじした!」
「上手に出来たわねぇ」
ベヒーモス…………ではなかった、カピバラの鳴き声を真似していたらしい。
あの頃の大地を揺らすほどの咆哮が懐かしい。が、まぁ今の声も気に入っているから許してやろう。
昔は我一人のみであったが、今は仲間たちと身を寄せ合い、のんびりと日がな一日眠りこけている。
時々、雷鳴を轟かせたり、竜巻で辺りを一掃した時の清々しさが懐かしくもあるが、このカピバラ生活も何気に楽しい。
「はい、ごはんですよー」
我らの下僕である『しいくいん』が馳走を持って来た。
あの頃は草葉の陰に隠れて怯えた者たちを狩っていたが、いまは湯の中や地面でゆったりとしているだけで食事が手に入る。
――――おお、そこに置いておけ。
「ほらほら、急がないと食べそこねるよ」
――――くそぅ、我は眠いのだぁ。
背中をとんとんと叩かれ、仕方なしに起き上がった。
りんごは甘くて好きだ。
キャベツもまぁまぁ好きだ。
にんじんとさつま芋は硬いから、我の牙を尖らせることが出来るのでしっかりと食べることにしている。
腹を満たせば、昼寝の時間だ。
ふかふかの土の上に移動して、ドカリと寝転ぶ。
「うははっ、ポテッて寝転んだ!」
――――違う! ドカリ、だ!
「あ、鳴いた」
全く、人間たちは煩くてかなわない。
だがこの生活からは抜け出せない。
まいにち昼寝し放題なのだ。
大魔獣ベヒーモスの頃も楽しくはあったが、殺伐とはしていた。
そういえば、我はなんで死んだんだっけな?
他の魔獣か? 我を倒せるのは龍種くらいだが。
ま、カピバラ生活の方が我の好みだから、これでいいか。
――――寝るぞ、集れ!
「おぉぉ! カピバラ団子!」
ふぅ。全く、人間たちは相も変わらず煩い。
いいか? 我らの昼寝を邪魔するでないぞ?
我が種族がどこかで昼寝の邪魔されていたら……ベヒーモスに戻るからな?
心しておけよ。
――fin――
閲覧ありがとうございました!
とある場所での企画で、尊敬してやまないお方よりタイトルをいただき、妄想の限りを尽くしました。
草葉ノカゲ様(https://mypage.syosetu.com/549692/)ありがとうございました!