サタンちゃまと防衛クエスト5 巨ジンの暴走と神の掟
加減を知らないSドラコスの第三の手による(意味深)一撃で二人の魔王幹部が叩き潰され消滅した。
なんだ結局あの二人はSドラコスのカマセか……。
ところでSドラコスがキョロキョロして、落とし物かなにかを探している様子。
多分女かな……そんなことはないか。
「どこ行った? 俺の、俺の女……俺のっ俺の女は一体どこ行ったぁぁーーっ!?」
「にゃっ!?」
あの女幹部をいつの間にか俺の女呼ばわり。
しかし探している女幹部は巨ジン自身が叩き潰し消えた。自分でやっといて分からないとは、コレはボケだよな?
マジだったらちょっと引くぞ……。
「不味いっ!奴が暴れる前に止めるぞ」
奴が混乱している内にと、ガブリエルさんが機動兵器部隊に指示を送った。すると一斉に全小隊が動き出した。
『こちら第一師団っ第二、第三師団と連携してSドラコスに一斉攻撃を行う』
第一師団隊長が乗る真っ赤なボディの人型機動兵器が先導して、たった一人の男に攻撃を仕掛けた。
大袈裟に見えるが、ドラコスの強さを知っている俺から見て、機動兵器部隊の戦力はまだ足りなく感じる。
全機が対機動兵器用サブマシンガンをSドラコスに向かって一斉掃射。
「キャアッ!」
耳をつん裂く爆発音にたまらずメリーが耳を塞いだ。
30秒ほど連射されたターゲットは人間なら肉片も残らないはずなんだけど、全銃弾撃ち尽くして硝煙が晴れると仁王立ちする人影が見えた。
『馬鹿なっ!全師団の総攻撃を受けてっむ、無傷だとっ!?』
赤い機体の隊長が無線を通して叫んだ。その声は悲鳴に近かった。なにせ攻撃を受けたSドラコスは無傷で呑気に肩を叩いている始末。
「おおっ……」
不意にSドラコスが下を向いた。
「んっ……お前らか? 俺のセレネイドを隠したのは?」
何度も言うが、お前が探している女を叩き潰したんだよ……。
『チイッ!弾薬装填次第第二総攻撃を始めるっ!』
「おおぉぉぉぉーー〜ーーっおお……フンッ!」
急降下したSドラコスが雄叫びをあげると、第三の腕を機動兵器部隊に向かって振りおろし、五倍の大きさの隊長機を一撃で叩き潰した。
「ふむ、俺の第三腕は実に……たぎる」
『なんだよたぎるって?』別にいいけど普通に両腕を使えよ。
第三の腕に頼るな!
ズバン!ズドンッ!
時間にしてたった1分。全機動兵器部隊はたった一人のSドラコスによってあっけなく壊滅させられた。コイツらも所詮カマセ要員だったか……。
流石最強兵器魔王レプリカだ。未来の兵器もものともしないな。
「俺の、俺の女はどこだ……」
『まだ探してんのか?』ついに奴がコッチに向かって来た。
「仕方ない。冒険者の皆さん出番だよ」
「じょっ冗談じゃないっ!あ、あんな化け物勝てる訳ねーよっ!」
「おいっ君たちっ!」
怖気づいた冒険者たちが皆一斉に逃げ出した。
焦ったガブリエルさんが呼び止めるも、皆引き返さず遠くに行ってしまった。
結局残ったのは俺たち聖女パーティーとエセ勇者パーティーだけだ。
コレだけだと目立つな……。
「お……」
当然俺たちの存在に気づかれSドラコスと目があった!
「お、おおおぉぉ〜〜う……俺の女か……」
「勝手に決めんなっ!」
メリーが叫んで否定した。
『バカッ!』目立つ真似するな。次のターゲットになるぞ。
「お、おぉぉっ……好みの女……ほぉぉぉお前を見ていると……俺の第三の腕がたぎる!」
「ぎゃあっ!」
言い方が変態過ぎる。
ビビったメリーが俺の陰に隠れて盾代わりにした。
「にゃっメリー!」
「あの変態マッチョアンタの部下なんでしょっ? 上司なら話し合いで解決しなさいよ!」
「んな無茶な……」
それでも皆が俺を見つめ、無言の圧力を掛けてきたからやらざる得なくなった。
仕方ない。俺は渋々トモのアルマーに同行してもらって、交渉するためにSドラコスの元に向かった。
「にゃあ、ドラコス」
「んっお前は誰だ?」
「にゃっ!? お前はアタチのこと覚えてにゃいのか?」
「……知らんっ!」
「にゃっ!」
なんだか急にテンション低くなったな。
「お前まさか最初の一体目の兄の方かにゃ?」
「知らん」
「にゃっ!」
この巨ジンは幼女にはそっけない態度とるんだな。しかしここで諦める訳にはいかないんだ。
元はと言えば、どうやら俺のせいらしいからな……。
「にゃあSドラコスッ言うこと聞いてくれたにゃアタチと付き合ってもいいにゃ」
苦肉の策の誘惑作戦だ。
だが奴は表情変えずリアクションゼロだ。
「お、俺は……………………………ロリコンじゃねえっ断わる!」
「にゃっ!」
ずいぶん長いタメだったな。
しかし性的趣向はマトモな男と判明した。
「いかんっ!トモよっこれ以上奴に近づくのは危険だっ!」
「にゃっ!アルマー!」
アルマーに持ちあげられた俺は強制退避された。
皆んなの元に戻った俺は藁をも掴む思いで竜神さまにすがった。
『なんじゃちびっ子……』
「にゃっ!?」
ちびっ子はアンタもだろ? どうでもいいけど……。
「か、神さまにゃらアイツを倒せるんにゃっ」
『確かに天界の戦神なら奴を倒せることは出来るゾイ。じゃが、下界に対し神々が直接関与してはいけない掟があるんじゃゾイ』
「にゃっ!」
それは確かに聞いたことがある。
神々は下界に危機があっても直接手出してはいけない鉄のルール。
だから代わりに天使を使って悪魔との代理戦争をさせたんだ。
しかしここで疑問。
通常のドラコスなら天使騎士でもなんとか倒せる相手だ。しかしガブリエルさんが、Sドラコスは天使ではどうすることも出来ない強さだと言う。
俺が知らない間にどうしてこうなった?
「それは聖なる力を持つドラコスの兄。ジャスティス巨ジンが相反する闇のサタン細胞に侵され聖なる力と闇の力の抗体を手に入れてしまったことで無敵になってしまったんだ」
『にゃっ!』それじゃ詰んだな人類。
「しかしさっきも言った通り神なら奴を殺せる」
でもダメなんだろガブリエルさん。
全く天界の神々は頭の硬い融通が効かない連中だ。
「でも神様はこのどうしようもない危機を上から見ていてなにも手を出せないんでしょ?」
「確かにそうだなメリー君。しかし例外もある。それは直接下界に手を出せる神は純粋ではない神だよ」
「そんな都合のいい神さまなんてっ!」
「大丈夫今その神が降臨したよ」
「えっ!」
ズドドドーーーーン!!
「ぐおっ!?」
空から落ちて来たなにかにSドラコスが吹き飛ばされた。そして舞った土煙りが収まると小柄な人影が見えた。
背中まで伸ばした銀色のストレートヘアに前髪をパッツン切り揃えた縦ロールのもみあげ。
で、気の強そうな意志のある目つきで、左目にだけゴーグルを装着したかなりの美少女だ。
バツグンにいいスタイルを包み込む金色の強化レオタードにロングニーブーツを履いた色っぽい戦闘服。
彼女は誰かに似ていた。
『そうだ!』色は違えど太陽天使騎士のエイトさんにソックリだ。だけど遥かに銀髪の彼女の方が神々しい。
俺の記憶にはない彼女は一体何者だ?
「遅くなってすみませんっ先輩方っ!」
何故か銀髪の少女が、ガブリエルさんとエイトさんに向かって頭をさげた。
まるで上下関係を大事にするヤクザの舎弟みたいだ。
「だけどよぉ……この、新米エンジェル・ゴッドの神崎エイジが来たからには任せてくださいよ」
「待っていたよイレギュラー神君」
『なんと!』三百年前俺の悪魔と対決した暴走族の少年が神に生まれ変わった姿が、目の前の少女だったんだな。
「エイジ君は千年に一度の例外で人から神に転生した正統ではない神。しかし幸いにしてイレギュラーだからこそエイジ君が直接下界に手を出しても違反とはならない」
「まっ、そう言うことですわ……だからここからは俺に任せてくださいよ」
神崎エイジは人差し指で鼻の下を擦るとガッツポーズした。
まぁ、悪魔の天敵だけど、ここは新米神さまに頼るしかないな……。




