サタンちゃまと防衛クエスト1
飛行形態になったアルマーの背中に乗った俺は一路サタン城に向かった。流石ジェット戦闘機だからか、到着があっという間だった。
だが絶叫マシンは大の苦手なんで乗り心地は最悪だった。だから最後まで乗れた自分に褒めたい。
『着いたぞ』
アルマーがゆっくりと降下する。
「うにゃっ……」
俺はうなづくと慎重に降りて正面を見据えた。
まるで俺の到着を待っていたかのように仲間たちが集まって、こちらを見ていた。
当然中央に聖女さまがいて、俺を見詰める視線は厳しく感じた。
俺はお仕置き覚悟で震える右足を踏み出す。
メリーが駆け出し俺の元に向かって来た。
まさかの彼女からの感動の再会?
いや、まさか、そんなことは万が一にもない。
「お〜い、ちびっ子!」
「メ、メリーッにゃっ!!」
思わずメリーに向かって駆け寄ると、まさかのパンチを喰らって小さい身体が吹っ飛んだ。ちびっ子相手に容赦しねーな……。
そして『ビタン!』と尻餅ついた。やっぱりそうなるのねと俺はヒリヒリする左頬を手で押さえると、みじみに思った。
「ちょっと……」
メリーが声を掛けたので俺は顔をあげた。目の前に、眉を吊りあげ腕組みしたメリーが仁王立ちしていた。
「にゃんにゃメ、メリー……」
「アンタなんで出て行く前にあたしに相談しなかったの?」
「にゃっ……そ、それはにゃ……」
「なによもうっ!友だちでしょっ? 勝手に行く前に声掛けてよっ!」
「にゃっ……わ、悪かったにゃメリー……」
目尻に涙を溜めたメリーに言われて俺はハッとしたんだ。ちょっと反省。
実を言うと、確かに仲は良かったけど彼女は眩し過ぎて俺なんか対等じゃないと勝手に思っていたんだ。
しかし違った。メリーは俺のことを大切な友だちと思っていたからこそ本気で怒ってくれたんだな。
「ごめんにゃメリー。黙って出て行ったこと反省してるにゃ……」
「ちょっと!あたしに謝る前に言うべき相手がいるんじゃないかしら?」
そう言って肩をすくめたメリーが横に身を引いた。すると聖女さまの姿が見えた。
ああ、聖女さまへの謝罪を乗り越えないと、新たな決意を前に進めないな。
俺は上目遣いでトボトボと前に進んだ。
「せ、聖女さま……ご、ごめ」
「お座り!」
「にゃんっ!」
俺の首につけられた赤い絶対服従の首輪の効果で強制正座させられた。
久々のお仕置きで俺の小さな心臓がドキドキだ。
「この犬が、いや猫が勝手に出て行くんじゃないわよ」
「にゃっ!?」
俺のことをわざわざ猫と言い直す聖女さま。どっちでもいいけど……。
「まぁ、反省して戻って来たのは褒めてやりますけど、何故出て行ったのです?」
「にゃっ……アタチが過去に人類に対して行った悪行の罪に耐えられにゃくて……」
「なるほど……納得する理由ですね。とは言えどんな理由でも勝手に出て行った罪は重いですわ」
「にゃ……」
やはり聖女さまの考えは厳しい。
俺は鞭打ちでも十字架貼りつけの罰を覚悟した。
「立ちなさい犬、いや猫」
「にゃっ!?」
なんでそこでボケるかな聖女さまは?
「お仕置きしたいのは山々なのですが、ガブリエル様から緊急連絡が入って、今すぐ鞍馬山に向かえとのことよ」
「鞍馬山?」
鞍馬山と言えば平安時代の牛若丸(源 義経)が天狗の元で修行した京都の山のことだ。
大天使ガブリエルさんが鞍馬山に呼ぶ意味とは一体……。
「……ところで乗って来た乗り物は?」
聖女さまがアルマーのことが気になる様子。
確かに説明してなかった。
『これは失礼。挨拶がまだだったな』
「乗り物が喋った!」
目を丸くしたメリーがアルマーに指差した。
『ハハッ!驚いたかいお嬢さん。しかし、戦闘機形態で会話するのもなんだな……加速形状ッ!』
ガキンッ!ガキンガキンガキンッ!
複雑な変形シークエンスをえて、アルマーが戦闘機から人型に変形を終えた。
それには皆ビックリした様子。特にメリーが指差し騒いだ。
まぁ、彼女の反応は想定内だな。
『初めまして皆さん。ミーは三百年前に並行世界からやって来た自律型四段変形スーパーロボットの気軽な兵器と申します。まぁ、そこは気楽にE-アルマーと呼んでくれ』
「『……』」
自己紹介のあとに肩をすくめるアルマーに皆驚きを隠せないでいた。
しかし、約一名だけ俺のトモに殺気を送る者がいた。
「気にいらないわね。サタンに手を貸した敵じゃないのよ……」
紅蜘蛛だけが、殺気を帯びた鋭い視線をアルマーに向けていた。
確か俺の記憶では、紅蜘蛛がこの中で唯一三百年前の最終戦争に参加した天使だからだ。(同じ天使のエイトさんは並行世界に逃げていたから知らないっぽいな)
『あの時のくノ一天使騎士か……確かにミーはサタンをかばい。お前たちと戦った。しかしもう過ぎたことだ。出来れば君たちと友好関係を築きたい。どうだ?』
「……相容れない提案だけど、そうは言ってられないようね……」
そう言って紅蜘蛛は不意に空を見あげた。
朝から大型空母と護衛する戦闘機が慌ただしく西へ向かって飛んで行った。
「こちらも急いだ方が良さそうね聖女様」
「そうね紅蜘蛛さん。ではみんな速やかにエアカーに乗り込んでちょうだい。準備が出来次第鞍馬山に向かうわよ」
皆準備は出来ていたのかそれぞれのエアカーに乗り込み。俺はアルマーの背中に乗って出発した。(雨の日以外はこの移動方法になりそうだな……全く絶叫マシン苦手なのになにやってんだか)
□ □ □
いち早く鞍馬山に到着した俺とアルマーは、予想に反して物々しい雰囲気の現場に驚いた。
まず山の近くに軍事基地があって、山周辺を取り囲むように軍の人型機動兵器が五十機ほど配備されていて、皆銃火器を空に向けていた。
それに加えて多くの冒険者たちが集まっていて、まるでお祭り騒ぎだ。
『これは物騒な……一体なにが行われるのかな?』
「にゃっ!とにかくアルマー降りるにゃ!」
鞍馬山上空を旋回するアルマーに俺は慌てて言った。なにせ敵と間違われて撃ち落とされたらシャレにならないからな。
俺たちが降りてから5分後に皆んなが到着した。しかしどんだけアルマーの飛行速度が速いんだ……。
聖女さまを中心に皆が集まると、大天使ガブリエルさんが出むかえてくれた。
「急に呼んで済まない」
「いえ、それより現場がいささか殺伐としていかがなさいました?」
聖女さまがガブリエルさんと握手すると聞いた。しかしアルマーをスルーするとは流石大天使さまだ。
「ここ鞍馬山の上にはソウルワールドの中央霊道が通っている。そして間もなくかなねてから警戒していた厄災が降臨する……」
「厄災……あとどれ位でしょうか?」
「……今から一日か半日か……それとも今すぐかも知れないね……」
来ると分かっていても正確には分からないってことか……。
「とにかく君たちも防衛クエストに参加してもらいたい」
「分かりました」
メリーが『ちょっとなに勝手に』と文句を言ったが聖女さまは快く了承してクエスト参加の運びとなった。
で、俺たちは冒険者たちが集まる区画に入った。
そこには名のある猛者が功績をあげるために競い合う場でもあった。




