サタンちゃまチャリティーパーティーに参加
食事中聖女さまから逃げ出し結局捕まった。
当初は体罰されるかと恐怖したけど流石にそれはなかった。だけど正座させられ一時間ほどネチネチと説教されたのは堪えた。
「サタンちゃまったら逃げちゃダメでしょう」
聖女さまが優しく微笑んで俺の鼻先を人差し指で触った。
今更優しくしても、彼女の本性を知った俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
その笑顔が怖いんだよ腹黒聖女さま。じゃあどっちの表情が安心するかというと正直まだ判別し難い。
「ところで山でなにかあったみたいだけどね?」
すぐに話題を切り替える聖女さま。
確かに俺は山の中に逃げ込んで、イノシシに襲われているところを謎の覆面男に助けてもらった。その話しをすると聖女さまは心当たりがあるのか静かにうなづいた。
「それはもしかしたら伝説の食材ハンター料理人かも知れないわね」
「なにものにゃのにゃ食材ハンターとにゃ?」
「にゃーにゃーうるさいわね。まぁいいわ」
「…………」
好きであざといにゃーにゃー語で喋ってる訳じゃないよ。仕方ないじゃないか、頭の中の口調と実際口から出る口調が違うのは、誰が設定したかそういう仕様なんだから仕方ない。
んで聖女さまの説明が続く。
「詳しくは知りませんが、日本全土に出没し魔物だろうと食べられる食材なら狩る凄腕冒険者兼一流シェフよ」
「一流シェフっ!」
「あらっあらら……何故シェフと聞いて目を輝かせるのかしら…………犬」
「にゃあっ!」
今の聖女さま滅茶苦茶笑顔だ!
「ふふっ……そんなにあたくしの作るご飯が気に入らないのですか?」
「にゃっ!べ、別にそんな意味でシェフと叫んだ訳にゃ……」
聖女さまは他人の発言を悪く捉える傾向がある。すなわち素直じゃない。
神に仕える聖女さまがそれは頂けないね。
まぁ、神の怨敵サタンを僕にするから頭のネジが二、三本緩んでるとも言える。
まぁ、こんなことは本人の前では口が裂けても言えません。怖いからね。
「さて、食事が終わったら撤収するわよ」
「えっ!聖女さまっ経験値稼ぎはどうするにゃっ?」
背中を向け片付け始める聖女さまを呼び止め聞いた。すると彼女が振り向き微笑んだ。
「あらっ内心ホッとしてる癖にそれをあえて聞きますの?」
『怖っ!』聖女さまに俺の考えが見透かされている。
「でも今からあたくしは、異世界転移孤児を集めたチャリティーパーティーに出席しなくちゃいけないのよ」
聖女さまの言う異世界転移事変孤児とは、三年前突如転移して来た異世界の大陸。
その大陸と一緒に世界に散らばったのが魔物だ。最近は冒険者のおかげで被害者は減ってきたが、最初の頃は被害者が多く出た。
だから親を失った孤児のことを異世界転移事変孤児と呼ばれている。
「分かったにゃ」
「あらっ貴女もついて行くのよ。だってあたくしは可愛いペットを置いてパーティーに行く訳にいかないのよ」
「にゃっ……」
俺の頭を撫でて片付け作業する聖女さま。いや、騙されないぞ。
『ペットって言ってるじゃないか』どうせ逃げられたら困るからパーティーに連れて行くんだろう。
しかしまぁ、腹黒聖女がチャリティーパーティーにねぇ……どうせついでに動画でも撮って配信する偽善じゃないの?
聖女パラルと言えば俺でも知ってる高貴な女性だった。しかし、彼女の裏の顔を知った今ではなにもかも疑いの目で見てしまうのだ。
◇ ◇ ◇
片付けを終えた聖女さまは俺を連れて東京都内にある高級ホテルに向かった。
高級ホテルってのが気になるが、そこの会場がチャリティーパーティー会場らしい。
『う〜ん……』偽善臭がプンプン匂うぜ。
「お待ちしておりました。聖女パラル様」
会場の入り口でホテルマンが丁寧にお辞儀して聖女さまを出迎えた。
で、聖女さまは顔パスで会場入りした。流石有名人。
会場内は身なりのいい招待客で溢れ、豪快な料理の前でグラスを片手に談笑していた。
しっかし気になるのが、俺ならすぐに飛びつく高級料理をほとんどの客が手をつけていないことだ。
それとチャリティーパーティーの主役なはずの孤児たちはというと、確かに会場内にいた。
会場の端のテーブルに座り皆浮かない顔で下を向いていた。しかも孤児なら見たことのない豪華な料理がテーブルに並んでいるのに余り手をつけていないようだ。
それにチャリティーの主役のハズなのに、身なりのいい客たちは談笑に夢中で孤児たちに話しかける者はいなかった。
俺そういうの嫌い。
全員とは言わないが、なにかしら利益があってチャリティーパーティーに参加してるんじゃねーかと疑ってしまう。
俺は聖女さまのスカートを摘んで引っ張った。
「ねぇねぇ聖女さまにゃあぁ〜」
子供らしく顔をあげ甘えるように話し掛けた。ねだったりする時は便利だよな子供の身体は。
「なによ猫………………いや、犬」
「にゃっ……」
わざわざ言い直すな!
「あっちに行ってきてもいいかにゃ?」
俺は小さな人差し指で孤児たちのテーブルに指差した。
本来ならもっと具体的に言うのだが、年相応な子供だからそれでいいんだ。
「あら、今回のパーティーの主役たちがあんなすみに追いやられて……闇深ね……」
孤児たちのテーブルを見ながら聖女さまは、寄付用の小切手にサインして主催者に渡すと俺の手を引っ張ってそこに向かった。
もちろん俺を連れて行ったのは逃がさないためだ。
「ご機嫌よう」
孤児たちの前で聖女さまがやんわりと挨拶した。しかし、彼女が異世界人と知ってか皆浮かない顔だ。
そりゃそうだ。なにせこの子らは異世界転移事変のせいで親を失ったからだ。
直接関係ないにせよ、異世界人の聖女さまを警戒するのは自然な流れだ。
それでも聖女さまは笑顔を崩さず子供たちに話し掛けた。
その様子動画に撮ってないだろうな……俺は周りを見渡した。
「痛にゃっ!?」
優しく微笑む聖女さまは無言で、俺の頭の上にゲンコツした。超怖え、性悪聖女さまだな……。
「いかがですかお料理。あまり手をつけていないみたいですが……」
「…………」
「あらあら……」
聖女さまが話し掛けるも孤児たちは皆無視した。
「にゃあっ!」
『無視された腹いせになんで俺の尻をつねる?』
とにかくここにいる孤児たちは好きでパーティーに参加してる訳じゃねえ。
大人の様々な利益のために強制参加させられたら、そりゃ皆浮かない顔するわな。
分かるよ。今や聖女さまの犬にされた俺もお前らと同じ境遇だ。
「はっはっ!銀白の聖女パラル。君もチャリティーパーティーに呼ばれていたか」
後ろから軽薄そうな若い男の声が聞こえた。
それで振り返るとそこに太陽の獅子のリーダーのガレオがグラス片手に笑みを浮かべていた。
彼の両脇には、俺のクラスメイトの委員長の中城と校内No.1人気の高嶺の二人が、胸元が開いたドレス姿で立っていた。
女垂らし勇者め。俺が密かに惚れていた二人になんというけしからんドレスを着せるんだ。
幼女ながら内心ドキドキしてるぞ。
「あらぁ〜てっきり異世界大陸に向けて出発しているかと思いました。ずいぶんとお暇なのですね……」
「なに…………」
聖女さまが振り返り嫌味を添えて勇者に話し掛けた。一方勇者は一瞬聖女さまの挑発に乗り掛けたが、思いとどまった。
「ハハッ言うじゃないか聖女パラル。いやぁ君がこのパーティーに参加すると聞いてねぇ、冒険に出発する前にマヌケなその顔を…………いや失礼。挨拶したいと思ってね」
「……それはどうも」
『嘘つけ!』口元を手で押さえ勇者が笑いを堪えているじゃないか。それに聖女さまめっちゃ微笑んでる。
「にゃっ!」
身の危険を感じた俺は後ずさりした。
「それにしてもこんなチンチクリンを選んだ君はどうかしてる」
勇者が俺をチラ見するとそう言ってお手あげポーズした。舐めてんのか!
「あたくしがなにしようと貴方には関係ございません」
「ほうっ言うねぇ〜しかし、なんの才能もない子供を連れて魔王討伐なんて舐めてないか?」
「……お言葉ですが、貴方こそ三人の女子高生冒険者連れてハーレムでも作る気ですか?」
「なにっ!馬鹿にするなよ白銀っ!ぼ、僕には有能な冒険者仲間がいることを忘れるなっ!」
イケメン勇者がいかにも噛ませっぽい捨て台詞を吐いた。
「それより、僕らは準備が出来次第異世界大陸に向かう。それで君はどうする?」
「あらあら気が早いこと」
「黙れっ!僕の質問に答えろ聖女っ!」
声を荒げ右手で払う勇者。
聖女さまと会話だけなのにもう奴の器の底が見えてきた。まぁ個人的には自滅してクラスメイトを返して欲しいな。
「そうね……少なくとも数ヶ月はここ日本にとどまるわね……」
聖女さまは頬に右手を添えながら涼しげに答えた。
「馬鹿なっ!その間に僕が魔王を倒すかも知れないのに?」
「それはないでしょう。断言します」
「なにっ貴様っ!」
聖女さまに言い負かされた勇者は、苛立ち気に髪を掻きむしった。
そして背を向ける。
「こんなチビ一人仲間に入れてなんになる。まっ、せいぜいこの島国で仲間探しに足掻いてな」
勇者が捨て台詞を吐いて手を振って立ち去った。
とにかくムカついたが、聖女さまが全て言い負かしたのは見ていて気持ち良かった。
さて、俺もそろそろ豪華ディナーを楽しむかな。